第6話 Aちゃんの就活
スーツを着て、パンプスを履いて、髪をくくって、個性を薄めて清潔感をマシマシにして就活生の自分になる。
透明人間になったみたいだ。
もともと、なりたい職業なんてなかった。
小学生のときの作文、中学生のときの職場体験、高校生のときの進路相談、今までなりたい職業について聞かれることはたくさんあったけど、いつもなんとなく思いついたものを答えていた。
お花屋さん、幼稚園の先生、カフェ店員、OL、銀行員…
…どれでもいい。
なれるものになれたらいいというスタンスだ。こういう考え方をするのは少数派なのだろうか。みんなどうやって決めてるんだ。
だから、就活も適当にやって、早く終わらせられたらそれでいいと思ってた。
「志望動機をお聞かせください。」
「長所と短所はどこだと思いますか。」
「これから、どのように成長したいですか。」
「残念ながら、今回は採用を見送らせていただくことになりました。」
社会は適当にやり過ごせるほど甘くないことを思い知った。
むくんでいく足と、溜まっていく空のストゼロ缶。
親からの「就活はどうだ進んでいるか」というラインに「頑張ってるよ!」と無表情で返す。
いくつもの企業に応募して、それに合わせて志望動機を考えて、不採用で落ち込むのも嫌だから最初から内定でたらラッキーくらいの気持ちで受けて、
やっぱり自分が何したいとかないって。
先方の方針に合わせるからさ、個性とかない方がいいでしょ。
ああ、私って自分がないんだなあ。
いつからだっけ、空気読んで周りに合わせて、自分ってどんな人間だったっけ。
虚無。
モラトリアム人間って私みたいな人間をいうんだろうね。
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