第5話 Aちゃんのバレンタイン

またこの季節が来た。

ショッピングモールはどこもバレンタインフェアで、

彼氏がいる子は「今年は何にしようかなあ」とか言ってる。

クリスマスの次に恋愛という価値観を押し付けてくる季節。

クリスマスより気に食わないのは女子が主体なところ。

この時期だけ女子に生まれたことを後悔する。

後悔しても仕方ないし、もともと生まれるときに性別なんて選べなかったけど。


こんな私にも彼氏がいたことはあった。

高校の3年間付き合ってたバスケ部の先輩Bくん。

中学の頃もバスケ部でたまに話すことがあって、高校に入ってから告白された。

背は私より少し高いくらいで、顔はまあいい感じ、家が近所でいつも一緒に帰ってた。

Bくんは優しくて、私のことを守ってくれる感じがして、女子に生まれてよかったって思った。

私はBくんのことがすきだったし、キスされても嫌じゃなくて、キスってこんなんなんだって思った。

だから、「セックスしたい」って言われたときも、セックスがどんななのか全く分からなかったけど、Bくんとならいいかもって思った。

「優しくするから」って言ってくれたし。

そして、私の初体験はBくんになった。

嫌じゃなかった。嫌じゃなかった、はず。だって、私はBくんのことがすきなわけだし、すきな人とはキスやセックスをするものだし。

セックスってこんなんなんだって思った。

こんなんなのか、これがいいのか、これがみんなすきなのか、そっか。


それから私はセックスするとき、自分は空っぽなんだ、でも空っぽだってBくんに気づかれちゃだめだと思った。

でも、Bくんは私が思うよりもよく私のことを見ていた。

「Aちゃんってさ、ほんとに俺のことすき?」

「キスもいつも俺からだし、なんか、やってるときもあんまり乗り気じゃなさそうだよね。」


すきって何?

私は並んで歩いたり、夜に遅くまで電話したり、そういう時間がすき。

でも、それは本当のすきじゃないのかな。

キスしたいって、セックスしたいって思わなきゃ、すきじゃないのかな。


バレンタインの季節が来ると、

「ほんとにすき?」

って聞かれてる感じがする。


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