第2話
あの一件以来、用務員は悪しき何かを感じるようになっていた。
何年か前、校門前で包丁をふるった用務員と対峙した件だ。
あの時に用務員は必死で死にものぐるいで戦った。不審者は若く、用務員は中年を過ぎてはいたがまだ対抗できた。そして何故だかあれ以来、悪い者を感じるようになった。
今のように教室の隅にいるような何かだったり、ふらっと校内に入ってきた不審な人間の頭の上に取り憑く何かの時もある。そういう時はまずその人間は危ない。
人間の心はまず失って、何かに操られている。
それは「神の声が聞こえる」だったり、「何かが自分を監視している」だったり。
それらの正体は悪霊だ。
そこいらをふわふわと飛んでいる低級な浮遊霊だったり、その場で死んでそこから離れられない地縛霊だったり。
道行く心弱い人に取り憑き、そしてさらに弱い存在を脅かす。
自分の鬱憤を晴らすとか、そう言うくだらない理由で子供達を襲ったりするのだ。
幸いにもそれらが見えるようになった用務員はそれらと会話すら出来るようになってしまった。何故だか意志の疎通すら出来る。
用務員は子供達を守る為にこの学校にいるのだから、この学校で子供達に悪さをするやつは許さない。
今のように子供達に近づこうとしている奴にはきっちりと睨みをきかせることにしている。用務員は自分に何かの力があるとは思っていない。実際にやつらが何かをしでかしたら用務員では太刀打ちできないかもしれない。
でも用務員はまたその時には必死で戦おうと思っていた。
子供達は宝であの無邪気な笑顔をいつまでも守っていきたい、と用務員は思っていた。
学校には様々な怪談が存在する。
古今東西、それらにはあまり変化がない。
音楽室の音楽家の笑う肖像画、理科室の走る人体模型、校庭の隅に佇むマスクをした口の大きな女、真夜中に廊下をゆらゆらと走る火の玉。何年も前に死んだ教師が真夜中にする授業。
誰も見た事がない、噂の噂で聞いただけの事がまるで事実のように語り継がれる。
だがそれはただの伝承とは言い難い。
子供達の口から面白可笑しく語られる物語を教室の隅で聞いている者がいるからだ。
子供達を怖がらせて自分が次の物語の主役になる為にやつらはそれらを演じる。
○○さんが流行れば低級霊がなりすますし、階段の途中で子供の足を転ばせたりする。
そいつは足を失った子供が自分の足を探して彷徨っているという噂になる。
実際、子供達は怖い話が大好きだ。
児童書などでも奇妙な話が満載で、奇妙なこびとが流行ったり、妖怪の話は大人気である。子供とは案外残酷で、善悪がはっきりしている。それはきっと大人になるために必要な事なのだろう。
少々の面白オカシイ話ならば、用務員も目くじらをたててそいつらを睨んだりはしない。
やつらも子供達との交流を楽しんでいるのかもしれないからだ。
だが、子供達に危害を加えるような真似だけは絶対に許さない。
夏休みになると子供達は校庭でボール遊びをしたり、解放されたプールに泳ぎに来る。先生方は夏休みは授業はないが、それなりに忙しい。
用務員も毎日ぼうぼうと伸びる草を刈ったり用具の手入れをしたりして忙しい。
それに不審者がいないかとの見回りもある。
校庭のすみずみまで歩いて不審な人物がいないか、おかしな物が置かれていないか、と神経を尖らせて調べる。犬にいたずらしたり、猫を矢で撃ったりする不心得者はどこにでもいる。
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