第52話  不動不朽




 世に蔓延るモンスターを狩り、有名になりたいという夢を持つ若者は多い。人間の存続を脅かすモンスターを狩猟し、均衡を保とうとする目的や、家族友人を傷つけられ、殺され、その復讐として狩猟するという者達も居る。


 ただ1つ言えるのは、最初にも述べたような儚い夢を持つ若者は必ず派手な武器を選びやすい。例えば弓などを手に取ることはない。それなら銃声もあって男らしくてカッコイイからという理由で銃やロケット弾を撃てるランチャーなどを選ぶ。


 もちろん、長年狩人をやっている者からすれば銃やロケットランチャーも良いが、弓だって使いやすいという意見がある。というのも、銃は銃声があるため意図せぬモンスターを呼び込みやすい。居場所もバレる。状況に応じた対応が厳しいというのもある。


 弓ならば鏃を加工した矢を使用することで爆発であったり発火だったりと汎用性のある多様な戦い方ができる。妃伽の友人である上位狩人の椎名も、昆虫系モンスターに有効な煙を放出する鏃を使っていた。だがそういった弓は、派手さを求める若者に選ばれづらい。


 槍なども心得がないと手を出しづらい。剣も憧れるが銃に比べれば……となる。なら逆に選ばれづらい武器は何か。それを狩人に質問したとすれば、色々な案が出てくるだろう。しかし恐らくだが、1番投票されるのは……盾。それも両手で持って武器を持たない両手盾だろう。


 武器を持たない代わりにモンスターの攻撃を防いでやり過ごす。身代わり……殿しんがりになることが前提の武器である。いや、この場合は防具と言った方が正しいのかも知れない。何せ、攻撃性能は皆無と言ってもいいのだから。できるのは精々突進して盾を叩きつける。上から体重を乗せてのし掛かるくらいか。


 だがこんな防具でも、使われないことはない。こと狩人に於いては両手盾を馬鹿にする発言をする者は、世間知らずを除いて皆無と言っていい。何故ならば、狩人の頂点に君臨する特上位狩人の1人が、その両手盾を使用しているからだ。




「──────オーガスさんって武器持たねーよな?防具だけだろ?」


「ん?あぁ、鎧は防具だな。けど武器は持ってるぜ」


「……もしかしてあの両手盾のことか?」


「おう。立派な武器だ」


「……突進しかできなくね?」


「はっはっは!まあ最初見れば誰だってそう思うよな!でもそうじゃねぇんだ。オーガスさんだってもちろん攻撃に出るぜ。けどまあ、目につくのはその防御力だろうけどさ」


「そりゃそうだろ。盾持ちなんだから」


「いいや、嬢ちゃんは理解しきれてねぇよ。オーガスさんと一緒に居るとな、狩人が死なねぇんだ。死人が一切出ねぇんだよ」


「そんなこと……本当にあンのか?」




 妃伽は半信半疑だ。狩人はこの世界で最も殉職者が多い仕事だ。下位・上位・最上位という大きく分けて3つのランクがあり、下位はその中で1番ランクが低いものの、それでも相手はモンスターであり、言い訳も泣き言も油断も慢心も関係無い。相手からすればこちらは餌であり、餌を得るための狩りである。死なないことはまずありえない。


 誰でも死ぬ危険がある。それでもが下位というだけだ。しかし男狩人が言うにはオーガスと共に狩猟に行くと、その殉職者が出ないという。そんなことはないだろうと妃伽は心の中で否定した。


 普通の狩猟ならば、怪我人が必ず生まれ、死人が出てしまうのも当然の世界。まだ狩人の世界に入り込んで少しだがそれぐらいは理解している。だが違う。オーガスと共に行くと死人が出ないのは本当の事。何せ、死人が出ない分、オーガスが盾になっているのだから。




「ガッハッハッハッハッハッ!いやはや!俺は本格的に必要なさそうだな!スレッドよどうすればいい!?これでは先程話していた通り置物だぞ!妃伽に顔向けできん!この体たらくで特上位狩人とは笑わせてくれる!恥ずかしくて大きな声でお喋りもできんな!ハッハッハッ!」


「大丈夫ですよ。とっても通る大きな声でお喋りできてるんで立派な特上位狩人ですわ」


「おぉそうか!それなら良かった!見た目だけはしっかり特上位狩人だからな俺は!」


「アンタは見た目だけじゃないですよ。オーガスさん程頼もしい人は居ませんって」


「おいおいスレッド!クロやエルのことを忘れてはならんぞ!」


「忘れてないですよ。でも、あの人達とオーガスさんの頼もしさはまた別物ですよ。アンタが居ると


「そうか!それは嬉しいな!むっ!?」


「あー、勘なんですけど、結構な数のモンスター来るんじゃないですかね──────




「──────■■■■■■■■■■■ッ!!!!」




『イシハバミ』が絶叫のような叫びを上げた。妃伽や男狩人は咄嗟に耳を塞ぐ。何だ何だと思っていると、地面がボコリと盛り上がって小さな『イシハバミ』が顔を見せた。大きさは10メートルほどのもの。龍已とエルグリットが撹乱していた『イシハバミ』とは大きさが違うが、本来はこの大きさだ。それが3体現れた。


 ボスである20メートルの『イシハバミ』が呼びつけたのだろう。現れた仲間の『イシハバミ』は大きなハサミをガチガチと鳴らして威嚇している。目線は龍已とエルグリットに向いている。そこでオーガスが大笑いしながら両手盾をそれぞれ持ちながら構えた。




「状況としては酷いものだが俺としては助かった!これで少しは良いところを見せられるというものだ!クロとエルのサポートをしようではないか!」


「じゃあオレはオーガスさんの後ろに隠れてるんで守ってください」


「任せろ!」




「オーガスさんが前に出たぞ!?『イシハバミ』3体も居るじゃねーか!大丈夫かあれ!?流石にヤバくねーか!?」


「オーガス・ブランドン。持ってるのはみどりの『人器』だ」


みどり……」


「オーガスさんの盾鎧じゅんがいはセットのモンなんだ。その盾、その鎧はどんな攻撃にも耐えうる堅硬な代物だ。『イシハバミ』の攻撃程度じゃ擦り傷1つつけられねぇ。……が、本当にスゴいのは鎧や盾の堅硬さじゃないんだ」


「違うのか?」


「すぐに分かるさ。見てな」




「──────ぬうぅッ!いい攻撃だ!元気な証拠だな!ガッハッハッハッハッハッ!!」




「■■■■■■■■……ッ!!」


「■■■■■…………ッ!!」


「■■■■■■■■■……ッ!!」




 3体の『イシハバミ』がオーガスに向けて次々と巨大なハサミを振り下ろし、薙ぎ払い、突き込む。その全てを両手盾を使ってその場で凌いでいた。背後にはスレッドが居るが、彼は特に心配そうにしていない。悠然と、事の成り行きを見守っているだけ。身構える姿勢すら見せない。


 10メートルもあるモンスターからの攻撃を、2メートル程度しかない体躯の人間が受け続けている。堅硬な盾に重厚なハサミが叩きつけられる鈍い音が何度も何度も響き続ける。スレッドが背後から応戦する様子も無く、ただオーガスに攻撃を受けさせている。


 妃伽はやっぱり……と思った。攻撃を受け続けるだけで、攻撃には出れていない。そもそも、体の大きさがあまりに違う。突進して盾を叩きつけたとしても有効打になるとは思えない。つまり、両手盾は武器なり得ないのだ。ただ彼女は疑問に思った。


 何故10メートル以上の大きさをした『イシハバミ』3体から集中攻撃を受けて。体積が違う。重量が違う。膂力が違う。どう重く見積もっても百数十から二百数十の重さだろうオーガスがその場から動かないでいられる攻撃ではないのだ。しかし実際にその場から動かない。その理由は、すぐに理解した。




「そろそろか!ゆくぞ『イシハバミ』!──────受けた衝撃を全て返すッ!ガッハッハッハッハッハッ!!」




「────────────ッ!?」




 これまでの攻撃を受け続ける際に発生していた音とは比べものにならない轟音が鳴り響いた。


 オーガスが構えた翠の大盾が翠色に発光したかと思うと、前方に居る3体の『イシハバミ』の肉体を粉々にする衝撃波を発生させた。それは轟音となり、衝撃の大きさを物語った。3体の『イシハバミ』は文字通り粉々になり、肉片と甲殻が散らばる。




「これが翠の『人器』の力だ。堅硬な盾と鎧に合わせて、受けた攻撃を衝撃に変換して溜め込み、一度に反射することができるんだ」


「な、なんだそれ……。じゃあ、1歩も動かなかったのって……」


「『イシハバミ』の攻撃を衝撃に変換して溜め込んでたからだ。どんな攻撃も通さず、その場から動かない。でもな、あれはそんなに便利なだけの鎧じゃないんだぜ。翠の『人器』の特徴は、一度身につけた者の肉体に癒着する。つまり、一度つけたら二度と外せなくなるんだ」


「なっ……!?」


「一度つけたら外せない。その代わりに絶対的な防御力を獲得する。けどやっぱり使い熟せるかは別だ。なにせ……衝撃を溜め込めば溜め込む程、鎧が衝撃を発して身につけた者に想像を絶する痛みを与えるんだ。オーガスさんの精神力は底知れねぇよ。過去には与えられる痛みに自殺する奴まで居たってくらいのものだぜ。なのに最上位のモンスターの攻撃をあんだけ食らってんのに涼しい顔してよ……しかもその理由は他の奴等が傷つくくらいなら俺が痛みを受ける。大勢より1人。当たり前だろってさ。スゲーと思ったよ。噂では、もう痛覚が機能してねぇらしい」




 翠の『人器』は衝撃を溜め込み、一度に反射して攻撃に転ずる事ができる。防御こそ最大の攻撃を体現する代物だ。しかしその代償として鎧を一度身につけると脱ぐことは不可能となり、衝撃を溜め込めば溜め込む程身の毛もよだつ程の恐ろしい激痛を味わうことになる。それでもオーガスは全ての盾となる。


 加えるならば、翠の盾鎧が副次的に与えるのは使用者の優れた回復力だ。どれだけの攻撃を受けて痛みを発しようと、万が一傷を負おうとすぐさま回復するだけの驚異的な自然治癒力を与える。これにより、盾を超えて外傷を与えたとしても、短時間の内に全快する。骨折程度ならば1分もあれば完治する。つまり、朽ちない頑強さを与えられるのだ。




「ガッハッハッハッハッハッ!!つい見栄を張って攻撃を受け続けたら一撃で弾き飛ばしてしまった!これでは何をしているかイマイチ判らんではないか!だがモンスター達よ!よい戦いだった!しかし残念なことに俺より先には誰も行かせん!俺が居る限り俺を狙え!俺は全てを受け止める!」




 その狩人は何事にも動じない心を求めた。その場の雰囲気に流され、自分の意思を表に出すのが苦手だったから。


 その狩人は傷つく者達を見ていられなかった。優しさや責任感を持つが故に耐えられなかった。そこでその狩人は傷つく者が居ないよう、代わりになれる強さを求めた。


 モンスターに襲われ、助けを求められてもその場から動けなかったことを悔いた優しき者は、助けを求められる前に助け、全てを跳ね返す不動となった。


 彼より後ろに危険無し。何故なら彼が全てを受け止めるから。動かぬ力で味方を守り、全てを跳ね返してモンスターを弾き殺す……朽ちることを知らぬ動かざる皆の盾。




不動不朽ふどうふきゅう』。オーガス・ブランドン




 4人の特上位狩人が1人。世界で唯一、全てを受け止めて全てを跳ね返し、衝撃波でモンスターを弾き殺す狩人である。




「若いのは派手なのが好きだろう!だが大いに結構!戦場と言えども華がないとな!地味なのは俺くらいで十分だ!だから俺が全てから守ってやる!安心して戦え!俺にはそれぐらいしかできないからな!」




















 そのモンスターは全てを拒否していた。仲間も共生も慰め合いも、戦いだって嫌だった。何もしないから何もして欲しくない。どうか関わらないでくれ。生まれた瞬間よりその思いを抱いていた。だから傷つけられるのが堪らなく嫌だった。


 目の前に誰かが居るのが嫌だ。遠くに見えるのも嫌だ。気配を感じるのが嫌だ。こっちを見てくるのが嫌だ。襲い掛かってくるなんて耐えられない。集団で移動しているのを見ると吐き気がする。


 何もかもが嫌だった。何もかも消えて欲しいとさえ思った。他者どころか全てが自身を脅かすという強迫観念に、モンスターは日々怯えて恐怖しており、常に何かに憤慨していた。


 何もかもが嫌で、その中でも特に嫌なのが痛みだった。傷つけられることだけは本当に嫌だった。でもモンスターである以上、他のモンスターから狙われる。ジッとして動かないことをいいことに、ご馳走だと勘違いして牙や鋭い爪を突き立てられる。そうするとモンスターは狂ったように全てを否定した。


 モンスターは外から受ける、ありとあらゆる衝撃を常に保管していた。体内に異物感があり死ぬほど嫌だが、来たるときのためには背に腹はかえられない。だから、襲ってきた奴等には自身の中の鬱陶しいものを使って弾き飛ばした。


 体内にある鬱陶しい衝撃、その数万分の1を使って、モンスターより周囲約40キロメートルの範囲を消し飛ばした。何も無くなり、静かになった更地にて、モンスターは心ゆくままに何も無い空間に安堵する。何もしないから、何もされない、故に何もできない空間が愛おしい。


 好戦的ではなかった。モンスターに生まれただけで、動物に生まれたとしても同じく仲間から離れ、何もしない日々を過ごしていただろう。言い方を良くすれば温厚。悪く言えば臆病者。だがこのモンスターは自身の安寧を壊そうとする存在にはとことん激情家だった。




 ──────何もしなければ何もしない。しかし1つ何かされるだけで、周囲に無差別な破壊を撒き散らした。




 モンスターに襲われた。傷つけられ、痛みが走り、狂ったように衝撃波を発生させ、見上げるほど大きな山を根元から綺麗さっぱり消し飛ばした。


 それを見ていた人間が厄災を振り撒くモンスターだと言って討伐に出た。何もしなければ何もしないのに、自分から襲い掛かってくる。何故だ。何の迷惑も掛けていないのに。大人しくしているのに。悪いことなんてしていないのに。どうしてそんなに関わってくるんだ。


 限界だった。何度も何度も襲われようが、迎撃で終わらせていた。自分から動くことなんて皆無だった。しかし長年溜まった鬱憤がぶちりと何かを引き千切った。その日、モンスターは何もしないでいることを辞めた。


 何かされるのは、何かしてくるナニカ共が自分以外に居るからだ。ならば自分以外の全てを消してしまえば、何かされることはない。そうだろう?だから消すために動き出した。私は頭が良くない。私は動きが遅い。私は明確な攻撃方法を持たない。でも有象無象を消すには十分だ。


 体内にある衝撃波は、ありとあらゆる全てから溜め込んでいた。風。雨。台風。倒れる木。自身の呼吸。向かってくる敵の攻撃。防御した時の自分の体の力み。何もかもが溜め込むための範囲内。故に衝撃波は有り余っていた。


 どんな攻撃でも動かぬが、動くことを極端に嫌う不朽の臆病者。全てに怯え、傷つける要因全てを嫌う臆病者は、怒りを爆発させると厄災となった。


 全てを消してやる。そう心に誓ったモンスターは、3日で大凡150万人の人間、300万体のモンスターを弾き殺したとされる超危険生物である。




『コバルディア』。臆病故に、誰にも脅かされぬ不朽にして不動の安寧を求めた、世界でたった1体しか存在しなかった特上位モンスターである。



















「──────うむ!本番前によい運動になったな!もっとも、俺は盾を構えていただけだが!」


「それでモンスター殺せるんですからスゴいですよ。普通は無理です」


「そうか!?気合いがあれば大丈夫だ!それにそのように努力をすればいい!世界は努力をした者を無下にしないからな!」


「その筋肉も努力の賜物ですもんね。まあ、今回の『大侵攻』もオーガスさんのところに狩人は多く集まるでしょうね。なんせ


「ハッハッハッ!そう褒められるとこそばゆいな!だが気持ちいいからもっと言ってくれ!」


「もー、調子いいんだからぁ。あははー」




 盾を地面に突き立てて置くと、オーガスは背後に隠れていたスレッドと会話をして笑いあった。もう自分達の出番は終わったということなのだろう。視線の先には龍已とエルグリットが過去最大級の大きさかも知れない『イシハバミ』を相手に余裕の翻弄を見せている。


 目をスレッドに消し飛ばされてしまい、周囲に適当な攻撃をするしかない『イシハバミ』の動作を避けるなど造作もない。自分よりも若いのに、特上位狩人としての実力はあちらの方が上だと、オーガスは眩しいものを見るように目を細めて眺めていた。




「さて!残るはエルとクロだが、あの2人は俺達とは別格だからな!気を抜くと見逃してしまうぞ妃伽!しっかり見ておけよ!」




 大口を開けてご機嫌そうに大笑いするオーガスは、龍已とエルグリットの戦いをしっかり見ておくように叫ぶ。人類の守護者と謳われていることは把握しているが、それでも特上位狩人メンバーの中での位置づけとして、彼等の方が上で強い。






 多くの視線の先、戦場で目立つ純白のバトルドレスを身に纏うエルグリットが、腰につけた純白の鞭に手を掛けた。







 ──────────────────



 みどり盾鎧じゅんがい


 現在確認されている『人器』の1つ。


 過去に1体しか存在しなかった特上位モンスターの素材を使い造られた防具。武器は存在せず、堅硬な鎧と大きな両手盾がセットとなっている。


 装着した者に高い回復力と、衝撃を吸収し溜め込む力を与えるが、その代わりに死ぬまで脱げなくなる呪いと衝撃を溜め込む度に走る激痛を与える。肉体と鎧は癒着して一体化するため、皮膚を剥がして外そうとしても高い回復力が傷口を塞ぎ外れない。衝撃を溜め込む痛みは想像を絶し、過去に身につけた者は解放されるために自殺した。


 ただし、使い熟せると最上位モンスターの攻撃を受けても後退すら知らない不動の防御力を手にし、溜め込んだ衝撃を解放することで目前の敵を弾き殺す。


 防御こそ最大の攻撃を体現する代物であり、追い詰めれば追い詰めるほど危機に瀕することとなり、相手の最期はこれまで与えてきた自身の攻撃の総力により死ぬ。


 衝撃の反射を行うときは、盾にそれぞれ刻まれている半円を円になるように合わせて一体化させる。すると盾は円を発光させ、数秒後には衝撃を反射する。


 持ち主はオーガス・ブランドン





 オーガス・ブランドン


 特上位狩人が1人。『不動不朽』のオーガス。


 小さい頃は自分の考えや意思を相手に伝えるのが苦手だった、気の弱い少年だった。普通の家に生まれ、友人にも恵まれた。だが遊ぶ内容、今食べたいものなど、聞かれてもその場の雰囲気にあったものを選ぼうと必死になるくらいだった。


 成長して少ししたある日、モンスターに村を襲われて友人家族全員がモンスターに殺された。自分よりも小さな女の子に助けてと、手を伸ばされたのに、急いで助ければ間に合ったのに恐怖で動けなかった。


 その時からオーガスは動けなかったことを罪悪感と共に後悔し、悔やみ、同じ事を繰り返さないために常識外れの鍛練を積み、強靭な肉体を作り上げた。翠の盾鎧は元より大きい肉体の持ち主しか着られなかったため、保管していた冒険者協会に最上位狩人になってから勧められ、着けたところ性能を引き出すことに成功した。


 身に着ける翠の盾鎧は、装着した者に、臆病で全てを否定するモンスターの意識の影響で、眠る度に凄惨な悪夢を見させる。早く死ぬように。早く鎧を手放すように。早く自身を破壊して解放するように。堅硬な盾鎧は他者を守る最強の砦となるが、使用者を肉体的にも精神的にも追い詰める。


 そのため精神力が凄まじく頑丈な者だけが着けられる。オーガスは意思が弱かった昔の自分を捨てて、奥底にあった誰かの役に立ちたい。誰にも傷ついて欲しくない。傷つくなら自分だけがいいという意思の元強靭な精神を再構築した。


 悪夢を見せても、溜め込まれた衝撃により激痛を与えても、オーガスは笑って受け止める。全てを受け止めると決めているから。むしろオーガスは感謝している。皆を守れる強さを与えてくれたから。死ぬまで翠の盾鎧は手放さず、一緒に生きていくつもり。





『コバルディア』


 たった1体しか存在しなかったモンスター。過去現在に於いて、最も臆病者。故に、自分以外の全てに怯え、恐怖していた。傷つけられ、痛みを感じることを最も嫌う。


 攻撃されるとありとあらゆるものから溜め込んだ衝撃を使用し、相手を粉微塵に弾き殺す。それは全く関係無い者達にも与え、一度手を出すと何も無くなるまで弾き消し、甚大な被害を生み出す厄災。


 3日で大凡150万人の人間、300万体のモンスターを弾き殺したとされる。見た目は車ほどの大きさをした岩の塊のような見た目の亀だったとされている。



──────────────────


ここまで読んでいただきありがとうございます。


楽しんでいただけているでしょうか。それなら幸いです。ちょっとなーと思われましたら申し訳ありません。


最近読んでくださる方が増えたので一応……コメントや評価をしていただけると励みになり、やる気にも繋がります。


そう大した時間は掛かりませんので、どうかよろしくお願いします。


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