16話 秋隣
僕とアキ姉は階段を駆け上がり、生徒会室に飛び込んだ。必要な書類はアキ姉が昼休み中にまとめてくれたようで僕は書類を手に取るともう一度走った。
時間はまだ余裕がある。会議場所までもそう遠くないので寸前で足を緩めればいいだろう。
初めての補佐とはいえ、遅れるわけにはいかない。それに部活の予算会議だ。もしかしたら冬美の手助けになる情報もあるかもしれない。
「日向……ちょっと張り切りすぎじゃない……?」
アキ姉は何とか僕についてきているレベルで息が上がっている。いくら運動ができるアキ姉とはいえ、女子なのだ。
男子高校生と並んで走れる訳ではないのだった。僕は少し先の廊下でアキ姉を待った。
こういう女子らしいところを見るとアキ姉はやはり女子高生なんだと感じられる。何でも出来て常に見本になれる訳ではない。
「そういえば日向も男の子だったわね……」
息を荒らげながらアキ姉はそう言った。幸い会議場所はすぐそこでもうゆっくり歩いていても大丈夫だろう。アキ姉が追い付くと僕は後ろについた。アキ姉より先に部屋に入って目立つのはごめんだし、良くて添え物くらいに思われたいからだ。
僕は補佐、それだけを忘れずにこの会議に臨もう。そういう心構えでついて行く。アキ姉が扉を開けると先に中で待っていた生徒や先生たちの雰囲気が一気に固くなった。
ピシっと音が鳴ったかのように空気が凍り付き、静かな静寂の中で僕とアキ姉はお誕生日席にあるパイプ椅子に腰を掛ける。
「それでは、今年度の予算会議を始めます」
横でハキハキとした口調で話しているのを見る限り、アキ姉は生徒会長モードに入っているようだ。この時のアキ姉は頭のキレが普段と段違いでとんでもないスピードで物事を考えている、らしい。
とりあえず僕は事前に読み込み、必要な時に配るための資料を手におとなしくしていた。会議は順調に進み、書類の確認まで進んだ。
本来ならここで軽い確認をして終わりらしいのだが今年はなぜか先生も含めてどよめきが起こった。
「会長、この部活準備費用って言うのはなんですか?」
ここにいる全員が制服のため何部かは分からないがどこかの部活の部長がアキ姉に質問した。
「それは今年できる予定の部活の予備費です。まだ確定した訳では無いので一応、という形ですが」
それを口にするなりどよめきが大きくなった。今の時期、どの部活も部費が多く欲しがるのは当然だしできるかも分からない部活に部費を取っておくのは納得いかないだろう。
それでもこの学校の生徒会室が出した案、というのだけで誰一人反論してこない。いかに生徒会が権限を持っているかが伺える。
それでも権力に溺れず、平等を保っているアキ姉は本当に凄いと思う。
「それっているのか?」
僕がアキ姉と生徒会に感心していると場にそぐわないジャージ姿の体育教師が意見した。
「どこの部活だって予算がカツカツだし、教員の実費で賄っている部活もあるんだぞ。それでもこんな意味のわからない部活に部費を置いておくのか」
的を得ているがその言い方と姿勢はほぼ脅迫に近い。それにこの教師は読み上げの時点では居眠りをしていたのを僕はしっかり見ている。
要するに海人よりもダメ教師ということだ。しかしながらアキ姉は怯むことなく、
「ならあなたに問いますが、体育の備品の新調でいくら予算から引かれているか知っていますか?」
「そんなこと知ったものか。それは授業に必要なもので今話していることと関係はないだろう」
またも強い口調で言う。アキ姉の言葉から類推することなく自分の意見を通そうとする。
これは僕が一番嫌いな人種だな。
「関係ないことではないんですよ。体育関係は毎年壊れてもいないのに最先端の器具を買ったり、会計報告が合わないことがあるんですよ?」
「それがどうした? 私にそんなことを言われてもなぁ。会計だって体育委員会に一任しているし備品の調達だって委員会が行ってるはずだが」
アキ姉のことを嘲笑うかのように体育教師は言葉を重ねる。確かに言っていることは正しそうに見えるがおそらく嘘だろう。
それをここにいる誰もが気づいているレベルだろう。しかし教師に楯突くとどうなるか分からないために誰も口出しができない。
それは僕も例外ではなく、この教室内で教師と対等に言い合えるのは生徒会長であるアキ姉のみだ。
「確かにその通りです」
「なら私の言うことを大人しく聞いて異議を認めたまえ」
完全に勝ち誇った顔でそんなことを言う教師。子供相手に大人気ないとは思わないのかと毒を吐きそうになるが必死に抑える。
「異議は……認めません。なぜならあなたに問いたいことがまだ山ほどあるからです」
やはり一方的に押されるアキ姉でもない。生徒会長モードの頭をフル回転させて食らいついている。
「これ以上何を聞くと言うんだ? 話は済んだだろう」
「まだです。それに新しくできる部活の細かい説明すらしてないですから」
とりあえず今は予算どうこうより進行を優先して時間を稼ぐようだ。確かに今のままでは押し切られて終わりになってしまいそうだ。
「新しくできる部活は
冬美の名前が出るとまたも場がざわめいた。やはり冬美が部活を作るというのはいささか不思議で考え難いことだと思うようだ。
それは僕も同じだし、意見は違わない。
「それがどうした? 部員の報告がまだなんだろう? ならば部活として認められるわけがないだろ」
「先生の仰っていることはごもっともです。しかし聞くところによるともう既に数人ほどで部室の設営などに当たっているそうです」
それはおそらく僕と桜木さんのことだろう。桜木さんに関しては手伝いをしていないのどけれど。
でもアキ姉はそんなこと言っていいのだろうか。そこまで知っているのなら僕が関わっているのも知っているはずだ。
僕が放課後を一人の時間にしていて部活に入る気がないことも気づいているだろう。
「だが今現在で部員の報告がないのならそれはただの手伝いということだろ」
「だからこそです。まだ荷物の運び出しが忙しいのかもしれませんし、結論を急ぐ必要もないと思います。」
アキ姉が先延ばしにする形で時間を取れるように説得した。周りの生徒たちもそれなら、と納得している。
そして何よりその言葉を受けて教師は押し黙り、納得した。と僕は一瞬、思ってしまった。
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