32、岐路
それから三日が経った。
「ねえねえファメラ! 聞いて!? 私ね!? 昨日ね!? 部屋で鼻歌歌いながら部屋の中スキップしてたらガブにキモいって言われて引っぱたかれちゃった!!」
消灯後、サクラの部屋内で賑やかな声が響いていた。
声の主はもちろんサクラである。話相手をしているファメラは、サクラに抱き着かれて床に押し倒されていた。いつも根暗なサクラが、「あははッ!」今日は大口を開けて笑っている。
「なんで嬉しそうなん?」
サクラのハイテンションっぷりに、ファメラは訝しげに眉をヒクヒクさせて尋ねる。
「ドMに目覚めた?」
「ううん! 私の声かけがうまくいったの! レフと計画してたピクニックなんだけど、今度行ける事になって!! 当然ファイガも参加で! そしたらガブも『いいけど』って言ってくれて! しかもネルさんまで参加してくれることになったんだよ!?」
「あー、そりゃキモいわ。おめでと」
言ってからファメラもにっこり微笑む。
「サクラちゃん、よかったね」
「うん! ありがと! もう全部上手くいってるって感じで! それもこれもみんなファメラのおかげなの!!」
そう言って屈託なく笑うサクラ。そんな彼女の姿がファメラには眩しい。一抹の寂しさすら感じられる。
あんなに私私言って泣いてばかりいたサクラが、今では他人の幸せのために頑張っている。それはサクラが他人の中に自分の居場所を見つけたからだった。人は誰かから必要とされている時にこそ最も輝く。新しく友達ができ、自分がその友達たちのために役に立てると実感して、初めて自分を好きになれる。
――そうだ。これだけ成長したなら、あのことを伝えても平気かな。
ファメラは思っていた。
サクラが他人に頼らずに生きていくには、最後にして最大の試練を乗り越えなくてはならない。
「あれ、でもサクラちゃんって外出ていいんだっけ? 確か禁止されてたよーな」
五分近くサクラの上機嫌を観察して、ファメラは言った。
サクラの首に巻き付いたままの首輪を見る。
「うん。だから場所はこの基地の敷地内だって。しかも一時間が限度なんだ」
「一時間? どうして」
「んー、なんか知らないけど、二時間以内なら大丈夫なデータがあるってファイガさんが言ってた。万全を期すために更にその半分なんだって」
「あなるほど」
ファメラは超速理解した。
どうやら抜け出してるのがバレてるらしい。データってのは恐らくあたしとサクラのデートのことだろう。確かに二時間以内に戻ってきた時にはジオルムは出現してない。
……。
あ? つうかバレてるって事はあの野郎見逃しやがったのか。
どういう風の吹き回しだ?
ファメラは思う。
「しかも、念のためにネルさんが事前に周囲を見回りしてくれるみたいで」
「それ一番だわ。あいつが来たら死神だっていなくなるもん」
「ひっど!? ファメラってホントきらいなんだね、ネルさん」
「大っ嫌い。あいつと話するくらいなら死神の口にゲロする」
「もー」
相変わらずネルには厳しいファメラの返答を聞いて、サクラは残念そうに肩を落とす。
「でも、もしよかったら私、ファメラにも来て欲しいな」
そして上目遣いに尋ねた。何かして欲しい事がある時のおねだり目線だ。
「いや、あたしはいいよ。さすがに外出許可出ないだろうし。みんなで楽しんできて」
「でも私、ファメラのこともみんなに紹介したい……!」
サクラが駄々をこね出すと、ファメラが「よしよし」言って頭を撫でてくれる。
「さっきサクラはあたしのおかげって言ってたけど、それは違うよ。だって助言はしたけど実行したのはサクラじゃん。つまり今回の件は全部サクラの頑張りのおかげなの。だからピクニックは頑張ったサクラが楽しんできなよ」
「ファメラ……!」
自分の行いを認められた気がして、サクラは嬉しかった。だがその反面悲しくもある。
自分にはファメラが必要だ。せっかくのピクニックもファメラがいなければ楽しさが半減してしまう、とそう思っていたのだ。
「わかった。じゃあ報告楽しみにしてて! あと次の機会があったら呼ぶから! いやむしろ作る!!」
サクラはそう言うとグッと拳を握ってガッツポーズを作った。如何にも頼もしいサクラの姿に、ファメラは再び眩しさを感じる。それはまるで海中から見上げる太陽のようなものであった。
ファメラの幸せもまた、そこにある。
「うん」
自分もいつかニンゲンと和解できる日が来るのかなと、この時ファメラは思っていた。
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