25,ガブリエル・チャーマーズⅡ
翌朝。
定刻通りにガブが部屋に入ってきた。いつも通り銀のトレーに食事を乗せている。
「ほらバカイヌ。餌」
そのプラチナブロンドの髪を掻き上げ、視線も合わさずに言う。
相変わらず酷い言い草だったが、今日は床には投げなかった。サクラの寝台の上に直接置いてくれる。
「……」
「なに惚けて見てるのよ! ぶっ叩くわよ!?」
「すっ、すみましぇん!」
突然癇癪を起されてサクラは、さっさと食事を済ませる事にした。トレーの上にあるのは、昨日と全く同じ献立だった。ある異物が紛れ込んでいる事以外は。
……あれ、一品多い……?
銀の器の裏に隠すように置かれていたのは、消しゴム大のブラウニーが二切れ。表面に細かく砕かれたココナッツが塗してある。それは透明なきんちゃく型のギフトバッグに入れられて、鳥の羽のシール(『foryou』と書かれている!)で可愛くラッピングされていた。
「……」
サクラはそのブラウニーが恐ろしかった。いったい如何なる意図によってガブがこれを混入させたのか解らない。
そこでサクラはギフトバッグを持ち上げると、室内を照らすサーチライトの明かりに空かして何度も裏表を確認した。
うん、爆弾とかは入ってなさそう。
「……なにジロジロ見てんのよ」
するとガブが怒り口調で言った。途端にサクラがビクン! とおどおどしながらギフトバッグを手に取る。
こ、殺さないで!?
「ああそれ!? ファイガが『なんか甘いもの食いてえ』とかまたバカな事ぬかしてるから、ついでに隊のみんなの分も焼いてあげたのよ! そしたらたぁまたま少し余っちゃって! 捨てるのもどうかなって思ったからもってきてあげたの!」
ガブがいつもより二割増しぐらいの怒声で捲し立てるように言った。
「ほら、あんまり痩せられてもわたしが食べさせてないみたいに思われて嫌だし!?」
どうやら自分を殺処分するための毒入りとかではなさそうだ。
でも、たまたま余ったにしてはきちんとラッピングまでされてるのはなぜ……?
「「……」」
お互い押し黙りながら、寝台をテーブル代わりにしてもしゃもしゃと食事を進める。ガブは腕組みをしてそっぽを向いているが、昨日のように部屋の端には移動しない。自分と寝台を挟んだ反対側に座り込み、こちらに背を向ける形でスマホゲームをやっている。
これって……ひょっとしてうまくいってるのかな?
そう思ったサクラは、ファメラに言われた通り『優しく』してみようと考えた。
「……あの」
「なによ?」
「その……よかったら、一緒にたべませんか?」
言って、ココナッツ塗れのブラウニーを一切れガブに差し出す。
「は!?」
すると途端にガブの両目が吊り上がった。
「なななんでアンタなんかと一緒に食べないといけないのよ!! 死ね!!!」
またあの抉るような目で怒鳴り散らす。
……また死ねって言われた……!!
純粋だがおつむの足りないサクラは、ガブの恥ずかし紛れの一言を真に受けて落ち込んでしまうのだった。
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