25.両国料理対決②

 ユニレグニカ帝国と緋衣国の会談は円満のうちに終わった。両国が最恵国待遇であることが確認され、貿易品の関税は低く設定されることが確認された。帝国にとって最大の輸出国が緋衣国であり、緋衣国にとっての最大の輸出国が帝国である。


 経済的な結びつきは、両国の固い絆となる。


 軍事同盟においても、安全保障協定の継続の合意がなされ、仮想敵国である王国は、どちらかの国に宣戦布告を行なった場合は、自動的にもう片方の国とも戦争をせねばならなくなる。


 それ以外にも、飢饉の際の相互食料援助協定や、文化交流、留学制度の拡充、大使館を置く都市の追加、出稼ぎ労働者への権利保証など、両国がともに繁栄するための政策がより充実した形で継続された。

 

 招待を受けた貴族や帝都の有力者たちも会場の観客席入りをし、すでに満席状態である。


 今回締結された条約を、ユニレグニカ皇帝と緋衣国王が調印し、共同声明を発表。


 そして、それが終われば、料理対決の始まりだ。


「まずは料理人のご紹介をさせていただきます。緋衣国からは、縦浜中華街で随一の人気を誇る、鳳凰龍神館のリー・チャン、総料理長です!」


 大きな拍手が沸く。


「帝国からは、王侯貴族から庶民にまで幅広く愛され、舌鼓を打たせ続ける陽だまり亭のレイラ・ホーエンハイム男爵令嬢です!」


 レイラは、そのノリノリな宣伝を聞き、恥ずかしくなる。

 

 王侯貴族から庶民にまでは、誇大広告ではないだろうか? いや、一応、侯爵令嬢であるテレジアも通っているし、貴族までは嘘ではないのかもしれない。だが、王侯貴族というと、皇帝まで食べにきているような印象を与えてしまう。お店の宣伝にはなるのだが、庶民向けの定食屋であるので、貴族が来られても他のお客様が萎縮してしまっては困る。

 

 おぉ! という緋衣国からの感嘆の声と拍手に、レイラは余計に冷や汗が流れる。


「今回のお題は“餃子ジャオズ”です。それでは、料理開始!!!!」


 リー・チャンとレイラが料理に取り掛かる。


「いやー解説のロンダイク緋衣国駐在全権大使、今回の対決の見所はどのあたりでアルカ?」と、ワン・リーエン帝国駐在全権大使が話題を振った。


「そうですね。縦浜中華街といえば、やはり、王国の人種隔離政策でしょうか。王国によって虐げられて新天地を求めて緋衣国にやってきた人々が作り上げた街が、縦浜中華街です」


 観客たちから王国へのブーイングが一斉に起こった。


「たしかにそのような歴史がアルヨ。暗い歴史ある。でもアルヨ、今は、帝国と緋衣国は移民協定に出稼ぎ労働者の権利保障の協定も結ばれていて、今回、敬愛するユニレグニカ皇帝は帝国第五の都市ベルトに中華街の建築許可をくださったアルネ」


「そうでしたね。腕に自信がある料理人はベルトに殺到だ。それに、それに伴う貿易商人なども目が離せない展開ですね」


「えぇ、油断できない展開あるよ。これは、ユニレグニカ・ドリームがあるかもアルヨ」


「そういえば、解説のワン・リーエン帝国駐在全権大使。帝国で最近、ブラックスワンが見られたというサンドリア湖は観光地としていかがなのでしょうか?」


「越冬する白鳥たちが見事でアルネ。その中に、ブラックスワンがいるらしいアル。これは、緋衣国の新婚旅行先は、夏ならばサンドリア湖一択アルネ。釣り、水泳、ボートなど各種娯楽も取り揃えてアルヨ」


 レイラは料理に集中する。しかし、たまに聞こえてくる解説が……まったく料理の解説をしていないことはわかった。

 帝国と緋衣国の観光名所や特産品、あらたなビジネスチャンスのある都市などの紹介に終始している。


 料理の解説を一切しない、料理解説ってなんのだろう? とレイラは思いながら餃子を包み続ける。


 そして、緊張の時はやってきた。


 いよいよ、審査員による試食および評点である。評点は、10点満点で行われる。帝国から10人の審査員、緋衣国から10人の審査員によって審査される。

 

「では、まず緋衣国代表の鳳凰龍神館のリー・チャン、総料理長の餃子の評価です。これで満点がでれば、鳳凰龍神館は毎日、行列ができる名店だぁぁぁああ!!!」


「それでは審査員の方がた、評価をお出しください」


「10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、以下略〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。二百点満点が出ました! これは、いったいどう言うことだ!! 解説のワン・リーエン帝国駐在全権大使!」


「なんと二百点満点が出るなんて、去年の料理対決依頼でアルネ。これは、緋衣国は、帝国と縁を結んでから、ずっと満点ということになるアル! ユニレグニカ帝国と緋衣国に永遠の友情と永遠の繁栄をアルヨ!」


 大きな拍手が起こる。


「そして、今度は帝国代表、レイラ・ホーエンハイム男爵令嬢の審査だ!!!!!!!!」


 レイラは、その審査結果をドキドキしながら待っていた。リー・チャンの餃子は確かに素晴らしかった。焼き餃子しかないと思っていたら、水餃子というレイラにとって未知の料理。そして、味も素晴らしい。


 もう、私は運が良くて同点。それか、負けしかない。引き分けか負け、もうそれしか残されていない。レイラは祈りながら最後の審判の時をまった。


「10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、以下略〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。二百点満点が出たアル! これは、いったいどう言うことアルヨ!! 解説のロンダイク緋衣国駐在全権大使!」


「二百点満点が出るとは、去年の料理対決依頼ですね。これは、帝国が、緋衣国と縁を結んでから、ずっと満点ということになります。緋衣国とユニレグニカ帝国の永遠の友情と永遠の繁栄を象徴しているようです!」


レイラは、自分も満点だと言うことを知らされ、安堵した。


<よかったわ。これで帝国に泥を塗る結果にならなかった。弱小男爵家の令嬢としては一応、責務を果たせたわ>


 ただただ安心しているレイラは、貴族の常識を知らない。料理対決は、だいたい、こんな感じの茶番であるということを。目的は、両国の親善であるから、点差をつけたり片方を勝たせたりはしないのである。

 目的は、それぞれの国の紹介なのである。


「では、ユニレグニカ帝国皇帝、マクドナルド皇帝陛下よりお言葉を頂戴したいと思います」


 皇帝は優雅に立ち上がり、そして言う。


「今回、緋衣国の代表を務めた鳳凰龍神館のリー・チャン、総料理長には、褒美として、帝都に支店を出すことを許そう。そして、三年間の帝都での免税特権を与えよう。大変美味であった。

また、朕が妃を欲しているということは、帝国臣民、また、敬愛する緋衣国の方々もご承知の通りであろう。朕は妃を選んだあかつきには、緋衣国の王都と、ファンダリア大瀑布を新婚旅行先といたしたいと思う。そう、今回の料理対決で強く思わされた」


 主に緋衣国から拍手喝采が起きた。リー・チャン総料理長も飛び上がるほど喜んでいる。


 また、きっと、ファンダリア大瀑布が人気の旅行先になることは間違い無いだろう。


 だが、レイラは思う。料理が全然、関係ないーーーーーーーーーー。


「では、緋衣国王から、お言葉を頂戴したいと思います」


「今回の餃子対決、本当に甲乙つけがたいものであった。我が国代表のリー・チャンの料理の腕はすでに知っていたが、今回驚かされたのは、レイラ・ホーエンハイム男爵令嬢の餃子である。このような美味な餃子を作れるのは、最高のタネを作る“祝福された手”であることに間違いない。そうだな、リー・チャン?」


 緋衣国王の問いに、リー・チャンは「はい、あるよ」と答えた。


 そして、緋衣国の王は言葉を続ける。


「聞いてのとおり、緋衣国では、餃子の最高のタネを作る、つまり、肉汁のつまった餃子を作ることができる、混ぜながらもミンチ肉の脂を溶かさない冷え性の手の持ち主を、“祝福された手”と讃えている。だが、聞けばユニレグニカ帝国では、そのような神に愛された選ばれた人を“氷の魔女”などと蔑む風潮があると聞く。この違いはなんだろう? 我が緋衣国の民も、そしてどうか敬愛するユニレグニカ帝国の友人たちも聞いてほしい。この違いはなんだろう? 一方が尊び、一方が蔑む。この違いはなんだろう? 一つ言えることは、我が緋衣国も、ユニレグニカ帝国も、もっとお互いを知らなければならないということだ。両国には考え方の違いは確かに存在する。現に一方が“祝福された手”と讃え、一方が“氷の魔女”などと蔑む。そのような違いを理解していくたゆまぬ両国の努力が、この親善の料理対決の意義であると改めて認識するに至った。我が緋衣国の民よ、帝国をもっと知り、そして共に繁栄していこう。敬愛する帝国の人々も、どうか緋衣国を知ってほしい。そして、ともに繁栄を築いていこう。そして、その両国の相互理解の象徴として、今回帝国代表を務めたレイラ・ホーエンハイム男爵令嬢には、“祝福された手”の称号と、緋衣国の王都に、陽だまり亭の支店を出す権利を与えよう。また、出店の折には、三年間の免税特権を与えよう。大変美味であった」


 レイラは緋衣国王がどうして自分のことを話しているのか理解できなくなっていた。頭が絶賛、混乱中であった。


 そして、緋衣国王が話終わると、大きな拍手が起こり、ここに料理対決は幕となった。


 レイラは、王都に陽だまり亭の支店を出す? そんな余裕がうちにはないわ。人手だっていつも足りていないのに。帰ったらお父様たちになんて説明しよう、と混乱のうちに、緋衣国から称号を授与されたり、名も知らない帝国貴族令嬢たちに囲まれ、『今度、陽だまり亭に食べに行きますわ』とか『是非是非今度、我が家主催のお茶会に』などと誘われ、てんやわんやであった。

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