友人に裏切られて覚醒した令嬢は、世界各地を駆け回り人々から慕われた後で静かに余生を過ごす

仲仁へび(旧:離久)

第1話





「力が、みなぎってくるわ!」


 私は、覚醒した。


 転生した悪役令嬢である私は、友人に裏切られた瞬間、限界突破したのだ。


 体中から漆黒色のオーラが噴き出している。





 スキル:「虚勢」を獲得

 効果:自分のレベルを十以上強くみせる


 スキル:「威圧」を獲得

 効果:自分より弱い生物の戦意をそぐ


 レベル上限解放

 レベル99の現在からレベル150まで到達可能


 ステータス値

 すべての数値が十パーセントアップ





 この世界は乙女ゲームの世界だ。


 でも、結構シビアな内容になっている。


 恋愛が主題であるところは変わらないんだけど、レベルとかステータスとかスキルとか、そういったものが存在するから。


 バトルやアクションゲーム要素もあるのだ。


 そんなゲームの世界だから、私が生きているこの世界はいろいろおかしいのかもしれない。


 なんと。


 私が転生した世界には、レベル至上主義なんてものがあったりするのだ。


 貴族に生まれた人間は、元からレベルが高くて出来る事が多い。


 しかし平民に生まれた人間は、レベルが低くて出来る事が少ない。


 そのため、貴族は平民を差別していたのだ。


「レベルが低い平民なんて、無能よ。おーっほっほっほ」という具合に。


 前世の私の価値観からみれば、ちょっと信じられない。


 そういう私は悪役令嬢だから、貴族生まれだ。


 だから、レベルは当然初めから高い。


 そして、スキルの数も多い(モンスターをあやつるとか、害獣をよせつけるとか、そんな悪役っぽい種類しかないけど)。

 

 そんなわけだから、調子にのっていたんでしょーね。


 前世の記憶を思い出す前の私は、平民である女の子をたくさん虐めていたようだ。


 それが影響して断罪され、お家追放になってしまったのだが、それに関してはもう何も言うまい。


 ただの自業自得なのだから。


 だから、そういったことで痛い目を見ないようにと

 悪役令嬢に転生した私は、心を入れ替えて善人になった!


 と見えるよう、ひっそりと辺境で暮らしていた。


 しかし!


 だがしかし!


 けれどもしかし!


 素敵な男性を見つけて結婚を見据えたお付き合いをしていた私は、友人に裏切られてしまったのだ。


 友人に!


 男を!!


 とられた!!!


 どうしてそんなことをしたのかと問えば、


 友人はーー

「だって、あなた悪人だったんでしょ、幸せになる権利なんてないじゃない」と言った。


 ぷっちーん。


 きれた!


 なのでその瞬間に私は、覚醒。


 限界突破したのだ!







 そして、当時の私は何を思ったのか、乙女ゲーム内にあるミニゲームをかたっぱしからやり始めた。


 ゲームにあったミニゲームには、畑を荒らす害獣や、人を襲うモンスターを退治していくものがあった。だから失恋の痛みをまぎらわせるために、なんか体を動かす事がやりたかったのだろう。


 今までは、異世界の現実に反映されたそれらの事件を無視していたのだが、限界突破した私なら怖いものなどない。


 怪我したら嫌だとか、襲われたら怖いとか、あまり気にしなくてすむもの。


 そういった理由で、男を奪われた私は、行動開始。


 敵を見つけては、なぎ倒してなぎ倒して、ひたすらなぎ倒していった。


 特にメスとかは容赦しない。


 八つ裂きだ!

 串刺しだ!

 ぼっこぼこだ!


 魔法スキルで火あぶり、そして電気びりびりもだ!


 途中でドラゴンとかゴーレムだとか、幻獣とか魔界の主とかをふっとばしていったような気がしたけど、どうでもいい。


 何か魍魎みたいな奴とか、死神とか悪霊とかも轢いていった気がするけど、無視無視。


 男を奪われたこの感情を、とにかくぶつける先が欲しい。


 前世での私は、めっきり男運がなかった。


 色々な男にだまされ、利用され、お財布扱いされたものだ。


 だから、乙女ゲームのような世界にうまれて、イケメン達にちやほやしてほしいと思っていたのに。


 まさかの悪役令嬢だし!


 記憶を思い出したのが断罪後だし!


 友人に男を奪われるし!


 ふんだりけったりだ!


 だから、私は破壊神と化して各地で暴れまわった。


 そのあとは、乙女ゲーム内にあるサーチシステムを使って、猛者をもとめてさすらった。


 サーチシステムとは、自分のレベル数値と近しい人間が付近にいる場合、その人間が地図に点として表示されるのだ。


 円滑にレベル上げをおこなうために用意されたシステムらしいね。


 周辺地図を確認しながら、私は互角に戦える存在を見つけては、決闘を申し込んだ。


 実力が拮抗した者同士だから、戦いはいつもギリギリ。


 けれど、それは私に失恋の痛みを忘れさせてくれるには十分だった。


 やがて私は、戦神と呼ばれるまでになった。


 荒れに荒れた私だが、知名度が上がるにしたがって、慕われる事が多くなった


 強くなる過程で狂暴な生物を倒しまくった影響だろう。


 勲章とかもらったり、褒美とかもじゃんじゃんもらってしまった。


 けれど、私の心はまだ静まらない。


 ついでとばかりに私は、おまけ要素としてゲームにあった、隠しダンジョンに赴いた。


 その乙女ゲームをクリアしたものだけが遊べる要素だ。


 向かったそのダンジョンには、かなり強い生物ばかりがいたので、いろいろたぎった。


 耐久力も抜群。


 ライフも多い個体ばかり。


 これほどうってつけの存在はいない。


 私は、失恋の痛みをこれでもかとぶつけ始めた。


 その内、モンスターとか魔物とか、害獣は私によってこなくなってしまった。


 戦えなくなってしまったが、けれど、その頃にはすっかり気持ちが収まっていた。


 私が纏っていた漆黒のオーラも、小さくなっていたようだ。


 気が済んだので、どこか別の辺境に腰を落ち着けて、新しい生活でも送るかと思っていたら。


 そこになんと、あの裏切りの友がいた。


 友は、結局私から奪った男とは一緒にならなかったらしい。


 ちょうどモンスターを退治し終えたばかりの私と遭遇した友、いや(元)友は悲鳴をあげてその土地から去っていった。


 血まみれになった私を見て、何かただならぬ存在だと誤解したらしい。


 戦いに明け暮れていた私は、もう友の事なんてなんとも思っていなかったが、やりかえせたので少しだけすっきりした。





 それから私は、たまに付近を荒らす害獣やモンスターや良くない生物を退治しながら、静かに余生を送っていった。


 色恋のごたごたに巻き込まれるのはもうこりごりなので、生涯一人で過ごす事にはしていたが。


 なぜか恋愛に興味をなくした途端、求婚してくる男性が多くなったのは、どういう運命なのだろうか。



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