“『東洋深淵奇譚』
―己が望んだ物語を書くべく、虚本を生み出した名も無き男はその後、自身の作り出した男の晩年と同じように狂い、謎の死を遂げたと言われております。西洋の有名な哲学者のニーチェが残した言葉に、“Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein.(深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。)”という非常に知られた言葉がございますが、男が見たのは深淵であったのか、男が死んだ今となっては真偽の確かめようもございません。明らかなのは、男はナニカを見た、ということだけでございます。
さて、話は変わりますが私の語りをお聞きして頂いている皆様の中に、ご自身が虚構の存在ではないと照明できる方はいらっしゃいますでしょうか?私がこうして言葉を喋り、我々は考えそしてここに確かにいるではないか、そうお考えの方もいらっしゃるかと思います。しかし、そんなものは何の証拠にもならんのです。いえ、お気になさることはございません。この問いはいわば、“悪魔の証明”と呼ばれるものでございますので。まあ、だからといって自身が虚構の存在であるという証明もできない訳でございますが。我々が虚構の存在であるか否かは、“シュレディンガーの猫”に近い状態。箱が閉じたままではどちらであるかすら、はっきりさせることはできない訳でございます。
ところで、私さっきから何処からか見られている感覚が常につきまとっているのでございます。いや、皆様の中にもそんな感覚に襲われている方がいるやもしれません。いえいえ、お客様の皆さまの視線ではありません。私の中まで見透かそうとしてくるような、そんなねちっこい視線が頭の天辺から注がれているような感覚があるのです。目ん玉がふたーつ、よっつ、むっつ_。そらどんどん、どんどん増えてきた。どんどんどんどん増えてきた。じっと見る奴、適当に見る奴、私を見る奴、あなたを見る奴、どんどんどんどん増えてきた。ええい、我慢ならねえ!
お前は、誰だ?」
ああ、いけねえ…。見えちまっ、た…。
_パタリ
“『東洋深淵奇譚』 竹拓屋 @chikutakuya
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