ケンチを治療する

 リオは自分の首元に手をやるとボタンを外し、スルスルと服を脱ぎはじめた。上着、スカート、キャミソール、ブラジャー、ストッキング、そしてパンツを脱いで、丁寧に畳んで床に置いた。


「さあ、ケンチも脱いで。」

「ダ、ダメだ。脱げないよ。」

「どうして? ほら、脱いで。」


 リオが賢一の服を脱がそうとする。賢一は軽く抵抗したが、リオはそんなことに構わず賢一のシャツを脱がしてしまうと次はズボンに手をかけた。賢一は自分の肌に触れるリオの指先に刺激され反応してしまった。リオはそんな賢一の状態が目に入ってもまるで気にしないかのように、すっかり賢一を脱がせてしまう。


「さ、こっちに来て。」


 裸のリオに手を引かれて賢一は部屋の風呂場に入った。辛うじてトイレとは別になっているが、二人が入るには少し狭い。リオはシャワーを出して温度を確認している。

 賢一はその間も、リオの裸から目を離せなかった。日焼けしていないような白い肌はシャワーの水をよく弾いていた。その胸部の膨らみには薄茶色の丸い突起が付いていてツンと上を向いている。


「こら! またおっぱいを見てるな。」

「あ、ご、ごめん!」


「言ったでしょ、ケンチが好きな時に触っていいんだよ。ほら、手を出して。」


 リオは賢一の方に向き直るとその胸を突き出すように立って、また上目遣いでじっと賢一の目を見つめた。


「ほ、本当にいいのか?」


 賢一はそう言いつつも、手はすでにリオの膨らみに向けて動いている。そして、またその感触を手のひらで確かめた。


「ケンチの望むようにしていいんだよ。」


 賢一は今度は両手でリオの胸を自由にした。リオは何も言わず、賢一のしたいがままを受け入れている。

 本当にこの目の前の女の子はロボットなのか? もしかして本当は人間で自分を騙しているのではないか? それともすべて夢なのではないか? 賢一はまだ目の前の状況を信じられないでいた。……しかし、この心臓のドキドキと脈打つ下半身は何とも耐えがたい。


 ゴクリと生唾を飲むと、賢一はとうとうその右手をリオの下腹部へ、そしてその下に伸びる健康的な脚の間へと進めてしまった。


「……んん。」


 リオの切なげな声が漏れる。

 ところが、賢一の指先が触れたそこは想像した造形とは違っていた。……何もない。


「ごめん、ケンチ。これ以上は規約に違反しちゃうから……。私はそういうことが出来るようには作られてないの。」

「リオは本当にロボットなのか……。」

「もしかして、ケンチは私が本当は人間なんじゃないかと思ってたの? もう! 私がロボットだから許されるけど、人間の女の子にいきなりこんなことしちゃダメだからね!」

「……ごめん。」


「でも、これは大きな進歩だよ。さっきまでは自分からおっぱいも触れなかったんだから!」


 リオは賢一を励まそうとしたのか変な褒め方をした。賢一は余計に自分が恥ずかしくなった。



 賢一と一緒にシャワーで軽く体を洗ったリオは、風呂場を出て体をタオルで拭いて服を着ると、改めましてと話しはじめた。


「ちょっと順番がおかしいけど、これから私のことを説明します。私はセラピーロボットです。ケンチの自己肯定感障害の治療のために派遣されました。自己肯定感障害の治療は、自分を見つめ直して自分自身を受け入れること、自分に自信を持てるようになることです。そのために私はこれから毎日いっぱいケンチのこと褒めるから! そしてケンチのこと、全部受け止めるから! ……まあ、出来ないこともあります。私はセラピーロボットだからね。それはごめんなさい。」


 申し訳なさそうに眉をハの字にして謝るリオを見て、賢一は後悔した。自分が悪いのに。リオは何も悪くないのに。


「……さっきは自分がいけなかったんだ、謝るのは自分の方だ。」


 賢一は自分が情けなくて涙も出てくるようだった。


「そんな、ケンチ、自分を責めないで。しょうがないよ、人間なんだから。人間には私と違って心があるんだもの。どうしようもない時もあるよ。」

「そうは言っても……。」

「ほ、ほら、もう一度おっぱい揉もう? ……それともロボットのおっぱいじゃイヤ?」

「……そんなことない。リオのおっぱいは……好きだよ。」


 賢一はリオの胸の膨らみを両手で掴み揉んだ。柔らかい。そして、自分の気持ちが落ち着いていくのがわかった。


「リオは今までもずっとこうしてきたのか? こうしてっていうのは、おっぱいを……。」

「ううん。今までの派遣先は女性ばっかりだったよ。男性のところに派遣されたのはケンチが初めて。」

「……そっか。リオはこんな男のところに派遣されて嫌じゃないのか?」

「ロボットには心が無いんだから、嫌なんて思わないよ。ケンチは私のことなんか気に掛けなくていいんだよ。」


 リオが賢一の体に手を回し抱き寄せる。リオの手が賢一の背中をさする。賢一もリオの体を抱きしめた。


「そうそう。」

「……ありがとう。」


 賢一はリオに何を言うべきか迷った末、ありきたりな感謝の言葉を口にした。



 それから、リオは賢一が何かをするたび賢一を褒めた。賢一が落ち込んでいる時は慰め自信を付けさせようと励ました。次第に賢一は仕事でも成果を挙げられるようになり周囲にも認められるようになっていった。そしてついに大きな仕事のリーダーを任されて、何度も心が折れそうになりながらもリオの励ましや助けを借りて、ついにやり遂げたのだった。

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