アーティファクト保有者

 サーカスを見終わって無事に宿に帰り着くなり、ぼくは速攻でベッドの住人になった。


「…………ワラビ、おねがい」


 ぼくの要請を受けたワラビが窓のふちにぶらさがり、チリンチリンと音を散らす。


 それを確認してから、ぼくはようやく息を吐き出した。


「大丈夫にゃ?」

「さすがにつかれたよね?」


 今日は一日遊び倒したからね、正直手足が動かない。


「でもアーティファクトってすごいよにゃー、あんだけ燃えてて火傷しにゃいんだから」

「……加護持ちのノーチェちゃんが言う?」


 ノーチェの呑気な発言にフィリアが怪訝そうな表情を浮かべている。


 そもそも希少さで言ったら『愛し子』、『加護持ち』、『アーティファクト』持ちの順番だ。


 明らかにノーチェやフィリアのほうが珍しくて凄い能力の持ち主である。


 扱いやすさと制御しやすさで言えば順番は逆になるそうだけど、結局加護持ちが一番いい塩梅に収まる。


 というかうちのパーティ、加護持ち2人に愛し子2人、アーティファクト持ち1人って何気に凄まじい状況になってる。


 そのせいで加護持ちと愛し子に対する認識が「居て当然」になってるのかもしれない。


「フィリアだって加護持ちにゃ」

「そうだけど……」


 フィリアも身体能力高いし、魔力もある。


 更には制限はあるけどかなり硬い光の盾をぽんっと生み出せる防御特化の加護を持っている。


 何ならBランクまでいけるパーティですら主力候補らしいんだけど、ツートップがその更に上を行く逸材のせいで自信喪失気味だ。


 ぼく以外まとめて大きなクランからスカウトされてるって聞くし、もうちょっと自信持ってもいいんだけどな。


 なんで詳しく知ってるのかといえば、治療院を利用する主な顧客は怪我や病と隣合わせの冒険者や兵士だからだ。


 プライバシーなんて概念ないから、機密情報以外なら簡単に教えて貰える。


「みんないいなぁ、スフィもアーティファクトとか加護ほしい……」

「スフィは、契約してくれる精霊探せば?」


 ノーチェたちを羨ましがるスフィに声をかける、どっちもほしいとおもって手に入る物じゃない。


 相性の良い精霊を探すのが一番の近道な気がする。


「精霊さんかー」

「光の系列なら、相性良いって、シラタマが言ってる」

「本来は選べるものではないのじゃが……」


 現役の愛し子曰くそういうシステムではないみたいだけど、精霊側が選べるといってるんだから仕方ない。


「でも光の精霊さんってどこにいるの?」

「やっぱり未踏破領域?」

「問題はそこ」


 未踏破領域まで精霊探しなんて危険すぎるわけで。


 なんか呼べば集まりそうだけど、何がどれだけ集まるかわからないし、集まったのが素直に帰ってくれるとは限らないし。


「……急がなくてもいいでしょ」

「えー」

「スフィには、ぼくがいるから」

「うーん」


 これでもサポート役としてはそこそこだという自負はある。


 悩まれるとちょっとショックなんだけど。


「アリスは……なんだろう、なんか、うん?」

「…………」


 文句を言いたいけど起き上がる気力がないので仕方なく顔をベッドに埋めた。


「やー、だいすきだから落ち込まないでー」

「つかれただけ」

「えー」


 髪の毛を撫でられる感触に顔をあげる。


 というかスフィに関しては魔術をぶっぱするだけで下手なアーティファクトや加護より強いんだよな。


「それにしても、アーティファクト持ちの獣人に演舞だけさせるとはのう。わしでもわかるくらい無駄なのじゃ、ラオフェン最強の道士タオシーもアーティファクト持ちなのじゃぞ」

「たおしー?」

「他の国でいうところの騎士じゃ、今はねね様の護衛をしておるが」

「アーティファクト保有者はだいたい厚遇されてるからね、あの子のあれは明らかに戦闘型だし確かに変」


 アーティファクトと一言でまとめても、別に武器ばかりが存在してるわけじゃない。


 ぼくが持っているビームライフルも、不思議ポケットも、404アパートを開けるための鍵も分類上はアーティファクトだ。


 便利系道具の保有者ならまだしも、獅子人の子が持っていたのはどう見ても武器。


 それなのにサーカスであんな演舞をさせるだけっていうのは不自然だ。


 旅の最中の護衛を兼ねてたりするんだろうか。


「!」


 突然フィリアが立ち上がり、窓から身を乗り出して外を覗き込む。


「どうしたにゃ?」

「ううん……アリスちゃん、えっと、今物音聞こえなかった?」

「あぁ、サーカス出てから、ずっとついてきて、さっきまで、聞き耳立ててたやつ?」

「え゛っ」


 ずっとぼくたちをつけてきていたのは気付いていたけど、別にいいかと放置してた。


「か、加護の話とか聞かれちゃったんじゃ」

「大丈夫」

「なんでわかるの?」

「部屋に戻ってからワラビに防音頼んでた、何も聞こえないから諦めたんじゃない?」


 恐らく昼間の商人かサーカスの関係者かのどっちかだろう。


 もしもサーカス関係だとしたら、あの獅子人の境遇にも大きな疑問が浮かぶ。


 そういえば、あの子が姿を現した瞬間に空気がピリつくのを感じたっけ。


「あの程度なら、寝ててもわかるから平気だし……あとブラウニー」

「…………」

「何か来ても壁にけちゃっぷぶちまけないように、フカヒレかシラタマにまかせてね」


 名前を呼んだ瞬間まかせろとばかりに両腕をあげたブラウニーに注意すると、あからさまに肩を落とした。


 いやだって手加減出来ないじゃん、交通事故か工事現場事故のどっちかじゃん。


 くまのぬいぐるみに対する恐怖は克服したけど、トラウマが消えたわけじゃない。


 不意打ちで大きなくまのぬいぐるみが視界に入るとビクゥっと身体が硬直するのは、今でも変わってないのだ。


「少なくとも宿が加担するってことはないだろうし、戸締まりちゃんとして……寝よ」

「どこにでもついて回るにゃ、誘拐犯ってやつは」

「サイテーだよね!」


 憤るスフィたちの声を聞きながら、ぼくの意識は疲労の中に沈んでいく。


 折角の休みなんだし、心置きなく休みたい……なんてのは贅沢かもしれない。


 価値のある存在ってのはどうしたって狙われてしまうものなのだ。


 だからといって無抵抗にやられるわけもないので、手を出してくるなら相応の被害を覚悟してもらうことになる。


 そう、いつぞやの海賊騒ぎの時とは比較にもならない被害を……。

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