岩の島
フカヒレに案内されて辿り着いたのは、海のど真ん中に槍のように突き出した巨大な岩だった。
近場の漁師からは台風岩と呼ばれる、太古の精霊由来の巨岩を中心とした岩場だけの島らしい。
護衛の中に地元の人がいたらしくてそのあたりの話を多少聞くことが出来た。
「あれが台風岩ですわね、派手ですわ!」
「待ってろよミリー、たすけにいくからな!」
船首に立つマリークレアとブラッドが岩に向かって咆えている。
ぼくたちが同乗する小型船は島から離れた位置で待機することになったので、敵陣をハッキリとは目視できない。
ただ、すごく巨大な巻き貝のようなものが接岸しているのが見えた。
状況的に考えてあれが魚人の使う船みたいなものだろうか。
あれが海の上をぷかぷか漂うのなんて想像出来ないし、可能性が高いとすれば海底か。
海に適性のない種族が海底を探索するためには入念な準備が必要になる、しかも海底を行くなら昼夜は関係ない。
やっぱり時間を与えてたら逃げられてたな。
襲撃のあった地点から船で1時間程度の距離。
寂しくなったフカヒレが超高速で戻ってきたのもあって、あちらもまだ出航の準備が終わってないようだ。
追撃隊に加わった大人たちもやる気まんまんだし、幸いまだ日も落ちてない。
状況は有利に働いている。
「つーかなんでお前らまで来てるにゃ」
そんな中、移動中誰もがずっと考えていた疑問をノーチェがぶつけた。
相手はもちろん、ブラッド、マリークレア、それから何故かついてきたクリフォトの3人である。
「クラスメイトがさらわれたってのに黙ってられるかよ! ぶっとばしてやる!」
「いきなりクレアちゃんに腕を掴まれて、気付いたらこの船に……」
「級友を、守るべき民を見捨てるなんて……地味ですわ!」
「地味を"不実"だとか"不正義"だとかの文脈でつかわないで」
地味に属する側の人間としてそこは抗議させてもらう。
それはともかく、どこからか話を聞きつけた3人はこっそり船に乗り込んでついてきてしまったのだ。
気付いたところで送り返す時間もなく、仕方なく一緒に待機している。
おかげで監視がきつくなってしまった。
「君たちはここがどれだけ危険なのか理解しているのか?」
「たぶんルークは人のこと言えないにゃ」
話を聞いていたもうひとりの少年は普通に残ることを決めた、自分の能力と立ち位置を考えた賢い判断だと思う。
一方でルークは冷静に見えてやっぱり感情的になっているのか、普通に同行してきた。
まぁ戦闘する気なんて無いからいいんだけどさ。
「よし! 乗り込むぞ!」
「派手に救出して差し上げますわ!」
「ダメに決まってるでしょうが!」
乗り込む気満々のブラッドとマリークレアを護衛のお兄さんが怒鳴りつける。
ハリード錬師にぼくから絶対に目を離さないように重々言い含められてたのは把握してるけど、まさか突進型が追加で2人も来るとは予想もしていまい。
ご苦労さまだ。
「ついてきておいてなんだが、僕になにか出来るとも思っていない。魚人相手にすら、自分の身を守るので精一杯だった……」
ルークはたしか11歳だっけ、年長の男として年下の女の子に武力で負けたのが結構堪えているようだ。
でもそういう落ち込み方してると『力が……欲しいか……』って変なのが近寄ってくるから程々で割り切ったほうがいいと思う。
あの手合と関係を持つとろくなことにならない。
「いや、その年で賊相手に自分の身を守れたら充分だと思いますよ……」
ルークも別に弱くはないんだよ、騎士を目指してるだけあって普通に強いと思う。
武器を持った魚人のならず者相手に対抗できた生徒なんて、ルーク以外ではほぼ居なかった。
「そっちの子たちがおかしいだけですからね?」
「アリスのわるくちいわないで!」
「うちのおチビを悪く言うのはやめるにゃ!」
「そうじゃ! こやつは人より変わっておるだけじゃ!」
「スフィ、ノーチェ、シャオ……」
3人ともぼくが船酔いと陽射しで死にかけてなかったら海に突き落とされてたからな。
シャオに至っては結局「おかしい」って言ってるようなものだし。
「わぁ、雷」
そんな中、クリフォトのよく通る声が響いて全員の視線が島に向かう。
岩場から雷が迸り、魚人っぽい小さい影が海に向かって吹っ飛んでいくのが見えた。
戦闘がはじまったようで、魔術の応酬が起こっている。
「派手ですわ!」
「大丈夫なのか、人質は」
「まぁ、多分」
拐われたのが愛し子だと言っていいのか悩んで曖昧に濁す。
あっちも迂闊に人質に使えないのだ、精霊がブチ切れたら敵味方関係ないし。
雷の魔術はハリード錬師だろうし、彼が派手にやってるってことは巻き込まれる範囲には居ないのだろう。
さて、この岩の島から脱出するため、敵はどう動くか。
相手の出鼻をくじくためにも、ぼくは静かに観察をはじめる。
戦闘する気はないけれど、相手の妨害をしないなんて言ってないからね。
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