さまきゃん4
結局ロドの説得のおかげで探検行きたい派のブラッドが折れた。
それから少し歩いて、海を見下ろせる森の外側……そこの木陰に拠点を決めた。
水場も近いしここで大きな問題はないだろう、それから探検へ繰り出した男児グループを見送って、居残り組で設営に勤しんでいた。
「アリスちゃん、身体大変なのはわかるけどはたらいて!」
「はたらいてる」
「椅子に寝そべってるだけでしょ!?」
「……あれ、その椅子どこから持ってきたの?」
「え? プレッツちゃんが出してあげたんじゃないの?」
適当な流木を錬成で加工して作ったビーチチェアに寝そべっていると、さっきからテントの中で荷ほどきをしていたポキアが怒ってきた。
さっきはトイレ用の穴を作ったし、椅子とテーブルも作ったし、串も量産したし。
結構働いてると思うんだけど、裏でこっそりやったから気づかれていない。
それは別にいいんだけど、サボっていると思われて関係悪化するのは面倒だ。
「でもポキアちゃん、アリスちゃん身体よわいよ。荷ほどきもけっこう力仕事だよ、させられないよ」
「うん……わかってるけど」
ポキアはなんというか根っから真面目な子みたいで、ふらついて見えるぼくに対してちょっとあたりが強い。
嫌味とか強制とかはないんだけど、少しばかり相性がよくない気がする。
「わるいけど、ほんとに身体が動かない」
「わかった……休んでていいよ」
不服そうではあるけど、溜息混じりにポキアがテントへと戻っていく。
「あ、プレッツちゃん、裏のおトイレ用の穴掘ってくれてありがとう」
「へ? ポキアちゃんじゃなかったの?」
仲良く荷ほどきに戻った女児組を見送って、ぼくは静かに息を吐く。
錬金術師としての立場は絶対に隠し通さなきゃいけない情報でもないけど、知られた範囲に応じて面倒臭くなる筆頭のような情報だ。
誘拐犯ならまだいいけど、まかり間違って暗殺者なんて送られてきた日にはシラタマたちがどんな行動を取るかわからない。
起き抜けに『元人間、現壁紙とこんにちは』って身体の変な部位から悲鳴が出るくらいびっくりするんだよ……。
前例が殆どないだけにどこまで明かして大丈夫かの物差しもない、慎重になるしかないのだ。
もうしばらくは姉の庇護を受けるただの落ちこぼれとして過ごすことになりそうだった。
「ままならねーなー」
「チピピ」
木々の合間をすり抜け吹いては髪を撫でる潮風の暖かさに、シラタマが嫌そうに鳴いた。
■
「やっとおわった、暑いー」
「そうだね、汗すごいや」
設営が終わったのは太陽が傾きはじめた頃だった。
なんだかんだでみんなそれなりにバラけた場所に設営しているようで、子どもの気配が遠い。
護衛らしき大人の気配は森の中にちらほら感じるんだけど。
暇つぶしに木の上で気配を殺してる斥候職っぽい男の人をじっと見ていると、あちらも気づいたのか目が合った。
風で揺れる木の葉に紛れて木を飛び移る男の人を視線で追いかける。
右隣、後ろの木、左に行くと見せかけて枝が揺れた瞬間に右に、強い風に乗じて連続で跳んで元の木に。
あ、木の上で項垂れた。
「アリスちゃん、何かいるの?」
「風で揺れる枝がおもしろくて」
「そ、そうなんだ……」
お兄さんと遊んでいると、汗まみれのプレッツが声をかけてきた。
……この気候の中で動いてたらそりゃ汗もかくか。
「シラタマ、氷作るのお願いしていい?」
「キュピ」
先程ぼくが作った、小さな麦わら帽子を頭にのっけたシラタマが頷いた。
白い氷の柱が3本ほど地面に突き立つ。
子どもが抱えられる太さで、高さはぼくと同じくらい。
「わ、氷だ! すずしい!」
「連発はできないけど、しばらくは持つはず」
「ありがと!」
「そっか、アリスちゃんのお姉さんって愛し子様なんだっけ」
「うん」
素直に氷に近づいて涼むプレッツの横で、ポキアは何かに納得した様子だった。
シラタマは麦わら帽子のプレゼントでご機嫌のためか、勘違いも気にしていない。
「この氷って消えちゃわない?」
「精霊の作る氷だから、溶けることはあっても消えることはない」
かなり加減して作ったみたいだから夜まではもたないだろうけど、魔術の氷みたいにすぐ消えてしまうこともない。
そんなことを説明していると、森の中を突っ切るように聞き慣れた足音が近づいてきた。
「あ、いたいた! アリスー!」
「スフィ、設営は?」
飛び出してきたのはスフィで、まっすぐにチェアの横まで駆けてくる。
その速度にプレッツが目を見開いていた。
スフィの班分けは知らないけど、好きに動いて大丈夫なんだろうか。
「みんなでやってね、とっくに終わったよ! スフィたちは自由行動!」
「設営した後で水場のことに気づいてのう、探しておったのじゃ」
「あぁ、それでこっちに」
どうやらスフィたちは設営こそ全員ですぐ終わらせたけど、不備に気付いてフォローをかねて自由行動しているようだ。
「班長ってノーチェ?」
「そうだよ!」
「アリスが縁の下で倒れてどうとか言っておったのじゃ」
「だれが縁の下の死体だ」
縁起でもない。
「場所選びとか水場みつけるのとか、いっつもアリスがやってたもんね」
「え、全然気付いておらんかったのじゃ……」
スフィたちとの行動中は一切隠さずに動いてたんだけど、シャオには認識されていなかったようだ。
「そだ、氷ちょうだい! 海いこう!」
「氷はあげるから、海遊びは明日にして今日は普通にキャンプしよう」
「うん!」
適当な木を錬成して作ったバケツに白氷を詰め込んで渡しつつ、スフィをなだめる。
帰還予定は明後日の昼……今日でスポットを探して、明日は一日かけてみんなで遊ぶことになるだろう。
他の班との合流は禁止されていないし、どうせ一緒になるだろうし。
「じゃあスフィいくね! あ、いもーとをよろしくおねがいします!」
スフィはぼくを一度ぎゅっと抱きしめてから、涼んでいるポキアたちに丁寧に挨拶をしてから水場へと旅立った。
「待つのじゃ、もっとゆっくりああああ!」
シャオの手を掴んで森の中を引きずりながら。
……スフィはいつでも元気いっぱいだなぁ。
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