祭りの終わり
適当に食事を済ませた頃、宴もたけなわで解散が告げられた。
事件そのものはとっくに終息していて、後片付けの人員だけが残っている状態だったようだ。
「ほんとに寝てる間に終わってた」
「よかったね」
スフィと身を寄せ合いつつ、片付けられていく空の食器を見送る。
手伝おうかと思ったけれど子どもが余計な気を利かすなとたしなめられてしまったのだ。
手持ち無沙汰のまま周囲の様子を伺う。
「うまかったにゃ」
「食べ過ぎたのじゃ、うっぷ……」
ノーチェとシャオは隣で座り込み、ぽっこり膨れたおなかを撫でている。
「そっかー、ラウド王国からここまで……」
「子どもたちだけで!?」
「は、はい、みんなとってもすごいので」
フィリアは兎人のお姉さんたちに捕まって、旅の話をさせられていた。
他の子どもたちは奥で着替えて、保護者と共に教会を後にしているようだった。
さっきより明らかに数が減っている。
「それでは、お世話になりました」
「お姉ちゃん! ありがとー!」
「はい、お気をつけて」
この辺では一般的らしいエプロンドレスに着替えた女性の母娘が部屋を出ていく。
「残党の取り漏らしはないか?」
「えぇ、街区にいた不審者は全て捕らえました。それと港で奴らの拠点らしき場所が……」
「確認が取れ次第突入せよ。星竜オウルノヴァ様の
「ハッ!」
扉が開いた瞬間、赤竜騎士団の人たちの会話が漏れ聞こえてきた。
多分ヒソヒソ話なんだろうけど全部聞こえてる、耳が良いのも困りものだ。
広場の方でも騒ぎは落ち着いているみたいで、もう残っている人も少ない。
「じゃ、私らはあの人たちを送ってくるから」
「この酔っ払いたちは?」
「適当に道に放り出しときゃいいんじゃね」
「そろそろ暖かいしね」
残っているのは酔って寝ているおじさんが大半で、自警団らしき腕章をつけた獣人の女性が物騒な相談をしていた。
もう普通の服装の人ばかり、バニー姿の人は殆ど残ってない。
「あなたたちはどうするの? 行く宛がないならここの教会にいてもいいけど」
「あ、7区に宿を取ってるにゃ、ミカロルの玩具箱亭ってところにゃ」
「今から行くにはちょっと遠いわね……」
シスターのひとりに聞かれてノーチェが答える。
態度を見るに、半ば孤児のような扱いをされているような。
いや孤児で間違ってはないんだけど、獣人の女児ってこっちの文化圏では本当に庇護対象なんだなって痛感する。
「今日は泊まっていきなさい、騒動があった日の夜に子どもを歩かせる訳にはいかないわ」
「ひとり心配なのもいるし、正直助かるにゃ」
カーペットの上であぐらをかいたまま、ノーチェがぼくを見た。
ついでに何故かシャオとフィリアまで。
……心配って多分、体力的なやつだよね。
「着替えはある?」
「あぁ、それにゃら……」
「うん」
「あるにゃ」
確認の視線を受けて頷いて見せる。
着替えの場所を貸して貰えるならなんとかごまかせる範囲だろう。
子ども5人分の服だし、そこまで嵩張るものじゃない。
「じゃあ奥の物置貸してあげるから、着替えちゃいなさい」
「わかったにゃ。スフィ、アリスは任せるにゃ」
「おっけー。アリス、おいで」
「はい」
抵抗しても仕方ないので、大人しくスフィの背中におぶさる。
示された扉をくぐり、薄暗い部屋へと入る。
視線がなくなったのを確認してから、
「こっそりしか使えないのが難点だにゃ」
「仕方ない」
空間系のアーティファクトはすごく貴重みたいだから、無闇に使うわけにいかない。
因みに現存してる物自体はそれなりにある。
不思議ポケットの亜種のカバンタイプに、箱タイプ。
鍵が本体になる404アパートの亜種みたいなものは、大型の倉庫代わりに。
とはいえ所有者は王侯貴族をはじめとする大陸でも有数の人間ばかり。
ぼくたちの立場ではどう転んでもトラブルの元なのだ。
「うむ、尻が痛いのじゃ……」
「そんなきついの着るから」
「シャオちゃんって勇気あるよね」
この衣装って動くと結構食い込むんだよね。
シャオのは特にピッタリしてるタイプだし、動き回ったら痛くなるのは必定だ。
「ね、アリス、次はどんなの着ようか」
「普通のでいい」
別に何か変な視線を送られたわけじゃないけど、こういう格好はやっぱり精神的に疲れる。
ぐだぐだと駄弁りながら着替えを済ませ、脱いだ貸衣装を綺麗にたたんでまとめる。
予想以上に長引いたけど、ようやく普通の服に戻れた。
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