錬金術師ギルド・アヴァロン地区支部
錬金術師ギルド、アヴァロン外周第8地区支部。
「でっかいお屋敷にゃ」
「すごーい」
そう支部、アヴァロンの中には本部だけじゃなく地区ごとに支部が存在してる。
フォーリンゲン支部よりも大きいあたり、流石は本部の所在地って感じがする。
徒歩で移動するなら端から端まで数日はかかる大きさだ。
「入るよ?」
「あ、待って!」
5階建ての白い建物を見上げて口をぽかんと開いているノーチェたちに声をかける。
怪訝そうに見てくる門番の脇を通り過ぎて玄関をくぐると、まるでホテルのラウンジだ。
柵越しに高級そうなソファに腰掛けてお茶を飲んだり、書類を読んでいる錬金術師の姿がちらほら見える。
それを横目に受付まで進み、息を整える。
「何か御用でしょうか?」
「しばらく滞在するから挨拶にきた」
「……」
バッジを見せると、受付の女性が穏やかな表情のまま数秒フリーズした。
「
ただしそれも数秒の出来事。すぐに調子を取り戻した女性はとても慇懃に頭を下げて、かつてないほど丁寧な対応を見せた。
なんというか、出来る感じがする。
「ううん、今日は顔見せ」
「承知致しました、お名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「アリス、会員認定はラウド王国のフォーリンゲン支部のはず」
「確認に少々お時間を頂戴します。ご滞在と言うことですが、期間は決まっておられますか?」
「未定だけど、可能ならここを本拠地にしたいって考えてる」
「左様でございますか、でしたら長期滞在者として記録させて頂きます。居留地はお決まりですか?」
「まだ」
滞在登録っていうのは、一定期間以上その地域に留まる時にするもの。
数ヶ月程度の滞在なら必要ないんだけど、税金関係とかの影響もあって1年以上滞在するつもりならしなきゃいけない。
今回は暫くアルヴェリアを拠点にするつもりだから、一応しておこうと思ったのだ。
「滞在先がお決まりになった際にはお伝え下さい、登録書類への記入をお願いいたします」
「わかった……届かない」
因みに現在、ほぼ真上を見て会話をしている。
カウンター越しに書類を出されても書けない。
「ええっと、踏み台は……ないですね。良ければそちらのラウンジをお使い下さい」
「うん」
背伸びをして指で摘んで書類を引っ張り、落ちてきたペンを片手でキャッチしてラウンジへ向かう。
「何してるの?」
「にゃ……」
「冒険者ギルドと全然雰囲気違うのじゃ」
普通にしているスフィと妙に萎縮してる3人に手招きをして奥にあるラウンジに向かう。
カフェみたいな感じだけど、かなり広い。居る人たちも色とりどりだ。
大きなテーブルに本を積み上げて必死に書き物をしている10代なかばくらいの少年少女の集団、揉み手をする商人らしき人と話している壮年の錬金術師。
顔を突き合わせて論戦をしている若い男性の錬金術師たち。
「なにか頼む?」
「……おまえほんとメンタル強いよにゃ」
「?」
みんなが居心地悪そうにしているのがわからない。
確かに獣人は少ないし匂いは独特だけど。
「なんか雰囲気がにゃ」
「そうかなぁ?」
「フォーリンゲンの錬金術師ギルドと雰囲気は変わらないでしょ」
建物はこっちのほうが豪華だけど、雰囲気って意味なら大差はない。
「そもそもあっちのギルドもちょっと苦手にゃ!」
「なるほど?」
駄弁りながら滞在登録書に必要事項を記入して、内容を確認する。
……不備はなしっと。
ハーブ茶が運ばれてくるのと時を同じくして、受付の女性が何かを持ってこちらに来た。
「アリス様の会員情報が確認出来ました。こちらはアヴァロン内で使用できる会員証となります」
「会員証?」
高級そうなケースの中に、金属製らしき青色のカードが収まっている。
「1年ほど前から使われるようになった新しい会員証です、魔石を加工したチップが内蔵されていて、ある程度の情報のやりとりがカードだけで完結できるようになっています」
「はじめて聞いた」
「ようやくアヴァロン内での運用が安定してところですからね、他国には情報も出ていないと思います。使用法はこちらに」
「ありがとう」
そういうことか、確かにバッジだけだとちょっと取り回しが悪い部分はあった。
ケースの中に同梱されている紙には使用法が書かれている。
機能的には錬金術師ギルド内でのキャッシュカード、クレジットカード、錬金術師の身分証明。
アルヴェリア国内限定だけど、錬金術師向けの銀行業もやっている様子。
なんというか、冒険者カードって単語が脳裏をよぎった。
「なんか便利そうだにゃ」
「……そこそこ?」
普及すれば使えるだろうけど、今の時点だとキャッシュカードとクレジットカードの間の子くらい。
何しろ書かれている限り、各地区のギルド支部と提携店でしか使えない。
システムとしては学術機関では少々持て余すだろうけど……。
「商人ギルドが目をつけてそう」
「ご慧眼で……では書類も確認致しましたので手続きは終了となります。良き滞在となりますように」
お姉さんはぼくの書いた登録書類を受け取り、笑顔を浮かべて受付に戻っていった。
「それいいにゃあ」
「キラキラしてる、スフィもほしい」
「錬金術師やる?」
「……うーん」
スフィならいけると思うけど、やっぱり抵抗があるみたいだ。
「冒険者ギルドでもこういうカード作らないかにゃ」
「ギルド同士仲いいみたいだし、技術提携する可能性はある」
話をしながらカードをケースにしまって不思議ポケットの中へ。
「ひとまず行かなきゃいけないところは終わり、後は工房探しだけど」
「……金はあるにゃ?」
「ない、だから稼がなきゃ」
生活するにも出費はかさむし、そろそろ厳しい額になってきた。
「大変なのじゃな……ズズズズ……」
シャオはお茶が熱いのか日本茶みたいな飲み方をして他人事を装った。
もちろん同じパーティとして働いてもらうけど。
「あてはあるの?」
「どっかで商売できればいいかなって」
果たして露店許可証の管轄は商人ギルドか区役所か……。
「ぐぬぬ、せっかくFランクになったのに歯がゆいにゃ」
「言っても子どもがギリギリ暮らしていける程度が基準だしね」
冒険者の依頼にも報酬基準はしっかりあって、ギルドで斡旋されるものは基本的にそのラインに沿っている。
依頼する側が報酬を積み上げようとしても、過剰だと弾かれるくらいにはしっかりと。
今までの生活を維持するならFランクの報酬基準じゃまだまだ厳しい。
「結局まだアリス頼りにゃ」
「そこは頼って」
みんなに頼って貰えるのは嫌じゃない。
むしろそれくらいしか役に立てないからな、ぼくって。
「みんなには店員としてがんばってもらうし」
「そういや力仕事できなかったにゃ」
「おねえちゃんにまかせなさい!」
店頭に立つのは体力のいる仕事、ぼくには到底できない。
「頼りにしてるよ」
「私も頑張るからね」
「ふむ、わしの凄さを見せてやる時がきたのじゃな!」
スフィ、ノーチェ、フィリア、シャオ。
ひとりも欠けることなくたどり着けた。
ぼくたちのアルヴェリアでの暮らしが幕を開ける。
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