街歩き
「ていうか何よあの雷、加護持ちであの魔力ってまさか
「そんで、てめェらはこの後どうすんだァ?」
座り込んでブツブツつぶやいているリンダを余所に、パドルはマイペースにノーチェに話しかけていた。
「街ぶらついて、空港に行く予定にゃ」
「空港ォ? 飛竜船使う金なんざあんのかァ?」
「一応見に行くにゃ」
「そうかァ」
パドルはぼくたちを疑っていると言うか、様子を見ている感じだった。何かあるのはわかっているけど、必要以上に突っ込む気がないようだ。
「おまえらほんとに強いんだな……」
「なぁメシまだだよな、腹減ってないか?」
「うまい串焼きの店あるんだけどさ、よかったら」
「いらない!」
あっちでは犬系獣人の男の子に囲まれたスフィがばっさり切り捨てている。
「そういうのは妹と食べるからいいの」
「お、おう」
こっちに振らないでほしい、男児連中はぼくの方もちらちら見てきてちょっとうざったいし。
「なんか、わしらって」
「空気だね」
クランリーダーが犬人だからか、保護されてる子たちも犬系が多いんだよね。
「何よ、ちょっと可愛いからって」
「年下の癖に生意気……」
そのせいかまずぼくたちに男児の注目が集まって、その余波で女児からも熱烈な視線を受けてしまっている。
なんか初めての感覚だ。
スフィも居心地が悪いのは一緒なのか、素早くぼくの手を握って外へ出ようとした。
「フィリア、シャオ! いこ!」
「ぼくの意思確認は」
「アリスはおねえちゃんと一緒に行くの!」
「はい」
別に嫌なわけじゃないからいいんだけど……!
「ノーチェ! スフィたち街見てくるね!」
「にゃ!? 空港はどうするにゃ!」
「ぼくがやっとく、あと自由行動でー」
「お、おう!?」
手を引かれながらノーチェに声をかける。
「だってよォ、どうする? 俺らの仕事付き合ってみるかァ?」
「ついていってもいいなら行ってみるにゃ」
「あ、スフィちゃん、わたしもノーチェちゃんと一緒でいい?」
「うん、あとでねー!」
ノーチェはパドルたちの仕事に同行するつもりのようで、フィリアもそちらに行くことになった。
合流は夕方になるかな、ついでに宿も確保しといた方がいいか。
■
「紹介状……しかもパナディア支部長の、ってことはその徽章も本物!?」
「アルヴェリアまで、できればもう一室使いたい」
本来であれば4人でピッタリだったんだけど、1人増えた。
出費は痛いけど許容範囲ではある。
「わ、わかりました! 少々お待ちくださいませ!」
首都ハイドラの端にある枝の先、飛竜船の発着場となっている場所の入口。
受付の事務員がバッジと紹介状を何度も確認しながら書類に記入している。
「威力は絶大じゃのう、いつもは"事務的"ってやつらしいのじゃが」
「本人を前に言う?」
シャオの物言いに事務員のお兄さんの口元が引きつっている。
そもそも搭乗手続きなんて事務的なのが普通だ。
「……利用出来るのは最短で10日後のフランク行きの便ですね。ガレリアを経由するので途中で乗り換えて頂くことになりますが」
「結構先だね」
「意外とかかるのじゃ」
「乗る便はそれでお願い……一般部屋を同時に取ろうとしてるせいだよ」
恐らくというか、先になった原因は間違いなくそれだ。急ぐ旅じゃないから良いけど、条件が増えると時間がかかるのは必然だ。
「かしこまりました。出発は10日後の午後の鐘になりますので、午前中には乗船をお済ませください」
「支払いはこれで」
「はい、確認いたしますので少々お待ち下さい」
パーティ費用の入った袋を渡し、中を確認するのを横目で見ながら息を吐いて肩を叩く。
これでようやく、アルヴェリアが目前に迫ってきた。
「あの子たちこっち見てるよ! おーい! あ、頭下げた!」
「本当なのじゃ、飛竜って頭下げたりするんじゃな」
スフィたちは休憩所にいる飛竜たちを眺めてきゃっきゃとはしゃいでいる。
……動物園かな?
飛竜って凄くプライドの高い生き物だって聞いてるので、怒らせないようにしてほしい。
「お待たせ致しました、こちらがチケットになります」
「……確かに」
金貨の残りが合っていることと、チケットにぼくたちの名前が記載されている事を確認して不思議ポケットの中にしまう。
「スフィ、シャオ、終わったよ」
「あ、うん!」
「おーい! おーい! ……あいつらわしを無視するのじゃ!」
「……休憩中の飛竜へ声をかけるのはご遠慮ください」
騒ぐシャオがとうとう怒られて、ぼくたちはそそくさと空港を後にすることになってしまった。
「怒られちゃったじゃん!」
「ぐぬぬ……すまぬのじゃ」
スフィの背に揺られて樹の上の道を歩く。
「あとは武器屋によって、ノーチェが壊しちゃった代わりの剣も買わないと」
たしかマチェットみたいな、幅広の山刀だったはずだ。
「錬金術師じゃろ、おぬしが直したりはせんのか?」
「必要以上に目立ちたくないし、やりすぎる恐れがある」
あの人たちを疑うわけじゃないし、悪い扱いはしないと思う。
だけど噂が広まってしまうと余計な連中に目をつけられる可能性が高い。
ここをゴールとして生活基盤を作るならそれでもいいけど、目的地までついてすら居ないのに縛られたくはない。
「ふむ、おぬしの錬金術師としての格がわからんのじゃがそんなに目立つのかのう?」
「格ならえーっと、下から数えた方がはやいくらい」
「なんじゃ、そんなものなのじゃな」
「…………」
何故かスフィが頬を膨らませているけど、ぼくは事実しか言ってない。
0から10まで、全11段階の4段階目なわけだし。
「なんだろう、あのぷるぷるしてるお肉」
「……ラゾラゾ串? シャオ知ってる?」
「水トカゲなのじゃ、ぷるっぷるなのじゃ」
スフィが匂いを嗅いで指を向けた屋台には、重力に従ってぷるんと垂れてる串焼きが並べられている。
近くに水桶があって、中には薄っすらピンク色のウーパールーパーが入っていた。
……あれがラゾラゾね。
「高級食材じゃが……こぶりじゃし固そうじゃな」
「ふーん」
流石は良いところの娘、こっちの食べ物には詳しそうだ。
独特な食べ物っぽいし危険性もなさそうなので気になる。
「スフィ、食べてみる?」
「アリスは?」
「食べる」
「あ、わ、わしも食べるのじゃ!」
せっかくの街歩きだし、買い食いしながら武器屋に向かうのもいいかもしれない。
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