├仲間を探して

「変な廊下を抜けたと思ったらまた変な廊下で、ふたりの声が聞こえて慌てて走ってきたにゃ」


 出会った冒険者と行動をともにしていたノーチェとスフィは、渡り廊下エリアに入った所で聞こえたふたりの悲鳴に気づいたようだった。


「……なんか、おしっこくさい?」

「わしじゃないのじゃ?」

「えっ?」


 すんすんと匂いを嗅いでいたスフィの疑問に反射的に応えたシャオリンに、押し付けられたと思ったフィリアが無表情になりかける。


「ビビりだからしゃあないにゃ」

「びびびびびびってないのじゃ! わしほどきものすわった女はいないと」

「後ろにサメ人間にゃ!」

「のびゃああああ!?」

「にゃはは!」


 安心したのか調子に乗りかけるシャオリン。それをノーチェがからかい、緊迫していた空気が少し和らぐ。


「ノーチェちゃんだめだよ……それより、アリスちゃんは?」

「こっちは見てないにゃ」

「無事だとはおもうけど、場所がわかんない……」


 首を振るノーチェに対して、スフィは思案げに眉を寄せる。


「スフィちゃん、わかるの?」

「なんとなーくだけど」


 これも双子の神秘なのか、スフィにはアリスの安否がわかるようだった。


「アリスのこと考えてたら、なんかわかるようになってきた!」

「……そ、そっか?」


 少し不安そうにしながら、フィリアはそれ以上突っ込むことをしなかった。


 どちらにせよ無事を祈る以上のことは出来ないのだ、他ならぬ双子の姉が言っているのなら従おうと心に蓋をした。


「それで、何があったにゃ」

「ノーチェちゃん、それがね……」


 フィリアから聞かされた、分断されてからのいきさつ。


 大人しく聞いていたノーチェは、最終的にキントナーの行いに怒りを見せた。


「最低なやつにゃ、なんであんなのがDランクなのにゃ!」

「ほんと! シャオが無事でよかった!」

「おぬしら……」

「そんで、あいつらはどうなったにゃ?」


 ちょっと瞳をうるませるシャオに、気を取り直したノーチェが尋ねる。


 サメ人間だけでも厄介なのに、更に危険人物がうろついているのは厄介極まりないと考えているようだった。


「わからないのじゃ、上の方でばたばたしてるのは聞こえてたのじゃ」

「私が行った時にはシャオちゃん以外誰もいなかったよ、その……死んじゃってる人も」


 シャオはキントナー達のその後を確認しておらず、助けに向かったフィリアも姿を見ていない。


 少なくともあの場から逃げ延びていることは確実だった。


「ノーチェちゃんたちはどうしてたの?」

「あぁ、あたしらは逃げてるうちに怪我してる姉ちゃんたちと合流してにゃ……」


 話している最中、誰かが走る足音が近づいてきた。真っ先に気付いたフィリアの表情に警戒が浮かび、続いて察知したスフィとノーチェが武器を手に前に出る。


「あぁ、良かった居た! もう! 急に走り出して!」

「錬金術師のお姉ちゃん」

「あー、わりぃにゃ、仲間と合流したにゃ」


 廊下の暗がりから明かりを手に近づいて来たのは、右手にガントレットを付けた錬金術師のエレンだった。


 そのすぐ後ろには気弱そうな青年と、湾岸騎士クイントの姿もあった。


「それは何よりだけど、ここだと合流できるかわからないんだから……」

「ごめんにゃ……そっちは?」


 謝罪しながらも警戒を滲ませながら聞いたノーチェに、クイントが姿勢を正しながら前に出る。


「湾岸騎士のミリアム・クイントだ、そちらのふたりを保護していたのだが隙を突かれてな……すまなかった。ひとまず無事で何よりだ」

「すぐ下の廊下を走っていたから合流したのよ、あなた達とはまた合流できるかわからなかったし」

「にゃはは……」


 笑って誤魔化すノーチェをジト目で見ていたエレンだったが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。


 かくして合流を果たしたノーチェ一行とエレンたちは、お互いの状況を確認し合うのだった。



「確かに素行が悪い冒険者も少なくないが、それではただの犯罪者ではないか」


 渡り廊下を歩きつつ、諸々の事情を聞いたクイントが先程のノーチェたちと同じように怒りを見せた。


 真っ当な騎士である彼女には、キントナーの身勝手にも程がある行いが許し難いようだ。


「やっぱ怒るよにゃ」

「当たり前だ!」


 先頭を行くのはクイントとノーチェ。


 他のメンバーを間に挟み、最後尾にエレンとスフィ。


 即席パーティは長い渡り廊下を進んでいく。


「なんか安心するのじゃ……」

「安全ではないけどね」


 人数が、それも戦えるメンバーが増えて気が抜けたのか、シャオはフィリアの背中で安心した様子で息を吐く。


「なんだかちょっと変な気分」

「なんじゃ?」

「ううん、いつもはアリスちゃんだったから」


 こうした状況で誰かを背負っているのはいつもどおりなのに、背中の常連はここに居ない。


「あやつは身体が弱いからのう」

「ほんとにね」

「だから、早く見付けてあげなきゃ!」


 気合を入れて妹を探すつもりのスフィに、エレンは痛々しいものを見るような視線を向けた。


 身体の弱い女の子がこの環境で生き残れるとは思っていないようだ。


「私も、あいつらと早く合流したいわ」


 エレンの口から、ぽつりと言葉が漏れた。


「また来たぞ!」

「後ろ警戒するにゃ!」


 7人が向かう先、巨大ザメが潜む船内ホールの方から5体のサメ人間が武器を手にやってくる。


「後ろからは来てない!」

「上も下も何も来てないよ!」

「狙ったようにこの廊下だけか!」


 クイントがカットラスで即座に1体を斬り伏せ、ノーチェが突き刺したナイフから雷撃を流し込み1体を昏倒させる。


「一体どれだけいるんだこいつらは!」

「次々出てくるにゃ」


 ノーチェが2体目を倒す頃、クイントは3体目を斬り捨てたところだった。


 斬られた勢いで廊下から落下していくサメ人間が、遥か下方で水音を立てた。


「下、やっぱ水あるのにゃ」

「そのようだ、落ちたくはないな」


 ノーチェとクイントは縁から下を覗き込むものの、底の様子は見えない。


「……さっきは勢いで飛び降りたけど、あんまり派手に動かない方がいいにゃ」

「それがいい」


 つい先程の自分の行動を反省して肩をすくめるノーチェに、クイントは苦笑を浮かべる。


 慎重さを増して、7人は船内ホールを目指して再び歩き出すのだった。

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