第8話 「訓練」

「今日は、鬼狩りに行くよ。」

「鬼狩り…ですか?」

「あぁそうさ。この辺りは昔から、鬼が出ることで有名でね。いっつも村の女を攫っ

 ていくんだ。だから駆除依頼が来てね。」

「それ、私たちいるの?」

「訓練だよ。異能石を使えるようにね。」

「あ…。これですね。」

そう言うと、敦は鞄から異能石を取り出す。

アレスタからもらった、貴重な石だ。

「今の所は、肉弾戦の得意な敦に使ってもらおうかと思ってるんだが、いいかい?」

「もちろん。敦君がやるなら、何も異論は無いわ。」

「やっぱり、君付けだね。」

「あ、ごめん…。嫌だったかしら?」

「いやいやいや、嫌なんかじゃないよ?でも、なんか、調子狂うと言うか…。ムズム

 ズしてくるんだよね…。」

「昨日もうるさかった癖に、まだ足りないのかい?」

「「本当に申し訳ございませんでした。」」

「いいってことよ。」(イケボ)



「気を取り直して…。」

「はい。」

「まずは、その石を握りながら、普段使っていたようにしてみな?」

「はい…。じゃあ、いきます。」


「月下獣!」


瞬間、異能石が光る。

その光と同時に、敦の体に虎の模様が浮かんでくる。

「いいね。初めてにしては、上出来じゃないか。」

「えっと…敦君?普段使ってる時と、何が違うの?」

「うん…。なんていえばいいんだろう?石に意識を委ねている感じ?」

「そ、そうなのね…。」

「それでいいンだよ。合格だ。」



「それじゃ、本題の鬼狩りと行こうか。」

「え…。でも、与謝野さんも異能、使えないんですよね?けがしないんですか?」

「いや?妾は使えるけど?」

「何で!?」

「知らないよ。お蔭様で、妾も近くの村でおじいちゃんどものぎっくり腰に掛かりっ

 きりだ。ま、それがあって、このお屋敷を貸してもらってるんだけどね。」

「与謝野さんって、重症しか直せませんでしたよね…?」

「異能石ぐらい持ってるよ。村から貰ったんだ。」

「あぁ、それで…。」

「だから、敦も異能力のデメリットがなくなって、今までより細かい制御が効くかも

 ね。ま、頑張りな。」

「分かりました。頑張ります!」

「そう。それでこそ、誰かを守れるようになるってんだ。自分の道は、自分で切り開

 くモンさ。」


与謝野が言っていた鬼は、想像以上に鬼だった。

「これ、モンゴメリちゃんにも見せたかったな…。」

敦は、本物の鬼も虎のパンツを履いているのに驚いた。

「やめときな。アンタは、好きな女が犯されてるのを見るのが趣味なのかい?」

「そ、そんなわけ!」

「冗談だよ。さ、さっさと始めようじゃないか。」

敦もいたので、いつもより二十分早く終わった。


それから、ひと月が過ぎた。

敦はある程度異能力を使う感覚を取り戻していて、前までと同じ程度には戻った。

「でも、前みたいに芥川と戦えるかって言ったら、まだなんだよね…。」

「そんなに違うの?私は、前と同じようにしか見えないけど…。」

「うん…。なんでだろう?異能石を媒体としているからかな。」

「私は、暫く使ってないし、その石も触った事が無いから分からないわね…。」

「そうだね。でも、もう少し頑張ったら、何かあるかも。」

「そうね。頑張って!」

「うん。ありがとう。」



夜。例の如く一戦終えた後、モンゴメリが疲れて寝たタイミングを見計らったかのように、部屋に与謝野が入ってきた。

「アンタ達ねぇ…。大事になっても知らないよ?」

「そうですよね…。でも、何だか彼女に求められている事に、酷く安心してしまって

 いる自分がいる気がして…。あぁ、生きていていいんだなって。」

「…敦は、過去とは決別したんじゃないのかい?」

「まさか。今も時折現れて、[正しい事を成せ]と呪いを吐き続けています。」

「ここ最近の敦は、正しい行いをできているのかい?」

与謝野は、なおも厳しい言葉をかける。

「…無責任ですよね。」

「いや、妾の所為でもあるから、気にしないでくれ。」

「じゃあ、今日は何の用でここに?」

「別に憎まれ口叩きに来た訳じゃあないよ。大事な話だ。」

「…?」

「…敦、もう、異能は使えるね?」

「え…。実践は暫くしていないので、分かりませんが。」

「そうかい。じゃ、一つ頼まれてくれないか?」

「買い出しの荷物持ちですか?」

ふふっと笑う敦。

「…なんだかアンタ、変わったねぇ。」

「こんな状況で、大切な人も増えましたから。」

「それでいいんだよ。人間、そう来なくっちゃ。」

「じゃあ、谷崎さんも大切にしたいので、頼めますよね…?」

顔を近づける敦。

その目が狂気的な目をしている事を、敦自身も知らない。

(…これじゃ共依存じゃないか。)

与謝野は、今になって初めに谷崎の治療を断ったことを後悔する。

「で?頼み事って、なんですか?」

「あぁ…。明日、外せない用事があってね。屋敷の護衛を頼まれて欲しいんだ。」

「護衛…ですか?」

「あぁ、そうだ。これを見てくれないかい?」

敦は、与謝野から手紙を受け取ると、読み始める。

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予告状


僭越ながら、以下のものを奪わせて貰います。

・ナカジマアツシが御身命

・異能石御二つ

・屋敷の書庫にある、機密書類や極秘事項など。


明日、お屋敷に向かいます。

**************************************

「これ、いつ届きました…?」

「たった今だ。配達員には逃げられた。」

「敵、ですかね…。」

「そう考えない方がおかしいだろう。」

「…わかりました。この話、引き受けました。ただし…。」

「言ってみな。」

「この屋敷を守りきれたら、谷崎さんを治療しについてきて貰います。」

「…わかった。」

こうして、夜の会合は幕を閉じた。



月の光に照らされながら、一人の少女が歩く。

「…楽しみやなぁ。」

黒い花柄の刺繍が施されたそのドレスは、返り血で染まっていた。

「この森の生き物はみんな捧げた。近くの村も、明日や。」

くすっ。笑いが止まらない。

「アハハハハハハ!!!」

「あ、あの…大丈夫ですk」

ビシャ。粉々に砕かれた男の血が雪に飛び散る。

「うるさいなぁ。邪魔しんといて。」

彼女は、その男のあえて破壊しなかった心臓を手に取ると、愛おしそうに舐める。

「まっててや…。必ず見つけて捧げるね、アルカディア様。」


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次回から、やっとバトルします。

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文豪異世界ドックス 宮谷ロク @harimoruto

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