第二章 死の天使編

第6話 「召喚論者の悲しみ」

二人がマーロン王国から旅立ち、二日間が過ぎた。

しかし、アレスタに言われた場所には一向にたどり着かない。


「おかしいな…。ちゃんと教えられた道を歩いてるはずなのに。」

「やっぱり、だまされてたんじゃないの?」

ここ数日お風呂に入れてないからか、かなりイライラしているモンゴメリ。

敦はそれを宥めるように、

「まぁまぁ、どっちみち頼れるような人はいなかったんだし。」

「…それもそうね。」

「うん。…それにしても、この森の木、凄く大きいね。」

「ほんと…。樹齢なんて、三千年はくだらないんじゃないかしら?」

「日本にもこんな感じの木、あったよね?」

「屋久杉…だっけ?忘れちゃったわ。」

そんなとりとめのない話を続けながら、二人は歩く。



ふと、誰かが後ろにいる気配がした。

「…モンゴメリちゃん。」

「えぇ。わかってるわ。」

二人は警戒心を強める。

すると、気配が消えた。

常人なら、ここで安心して気を緩めるだろう。

しかしこの二人は、いつ狙われるかわからない、暗く物騒とした横浜を生きていた。

こんな所で気配が消えるなど、恐怖でしかないのだ。

二人は意を決して、後ろを振り返る。

「…誰もいない、ね。」

「そ、そうね。。」

「誰がいないって?」

「「!?」」


再び前を向くと、目の前に一人の女が立っていた。

少し痩せ型の体で、青く長い髪が煌びやかにのびている。


「誰だ!」

「んもぅ、いけずな事言わんといて?」

はんなりとした喋り方に、敦は戸惑う。

「そのかばんに入ってるの、異能石やろ?」

敦はさらに困惑した。

そんな物、入っていた覚えがないからだ。

「あれぇ?なんや、身に覚えがないっちゅう顔してまんな。でもな、うちには分かん

 ねん。モモンから聞いたからな。」

「モモン…!」

「おぉ?思い当たりありそうやな。ほな、特別に教えたげるわ。」

そういうと、女は手を広げるようなポーズをとった。

「私は旧王国軍堕天派、[片翼の大罪人]5番隊隊長、アナスタシア言います。

 以後、御贔屓に。」

堕天派、つい最近聞いた名前だ。

「うちが言付けられてるのは二つでな?一つ目は、奪われた異能石の奪還。

 もう一つは…」


「二人の抹殺☆」


言い終わった瞬間、とんでもないスピードでアナスタシアが迫ってきた。

終わった。

敦はいきなり訪れた死を受け入れ、せめて彼女だけはと思い、

モンゴメリを抱きしめる。

そんな敦の背中に、無情にも刃が届く…ことは終ぞなかった。


「あれぇ?あんた達、守られてばっかりやなぁ。」

「そっちこそ、こんな冒険初心者ばっかり狩ってて、楽しいのかい?」

「嫌やなぁ。うちは、アルカディア様の意思に従ってるだけやで?」

「つくづく気持ち悪いねぇ。…二人とも、大丈夫かい?」

「あ、あぁぁぁ…!」


何の偶然だろうか。

そこには、何年さまよっても見つけ出すと覚悟を決めて探し始めた人物がいた。

「よ、与謝野さん…!」

「安心しな。あんな命を大事にしないクズどもに、あたしが負けるわけないだろう?」

「ありゃ、こらえらい人が来てもうたな…。今日は帰らせてもらうわ。」

「まちな!」

「じゃ、また会いましょ。死の天使さん♪」

「…」



「…ここが。」

「あぁ、そうさ。ここが、妾の拠点さ。」

敦たちは、森の中の小屋…というには少し大きすぎる建物に連れてこられた。

「よく…よく、生きていてくれました。」

敦は、与謝野に今まであった全ての事を話した。

「なるほどねぇ…つまり、私たちは同時期にこっちに連れてこられたって

 ことになるのかい。」

「はい。でも、谷崎さんはもう何百年も生きているって…。」

「人間はね、ちゃんと壊れるときに壊れないと、今度は体じゃなくて精神が

 イカれてくる。多分あいつは…。まともじゃなくなっているね。

 すぐにでも診てやりたいんだが、生憎私は心までは直せなくてね…。」

与謝野の顔が、悲し気に歪む。

「もう、私のせいで壊れる人を見るのは…嫌なんだ。」

「…。」

「…済まない、ちょっと、一人にしてくれるかい?」



敦は館の廊下を歩く。

いつもは好きな月明りが、今日はなんだかひどく恨めしかった。

「クソッ…。」

このままでは、もしかしたら…。

敦の脳裏を、不安が染め上げる。

どうしよう。怖い。不安だ。

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。

敦の心も、既に壊れかけていた。



敦は部屋に戻った。

ふと、クラクラするような、甘い匂いが鼻をくすぐる。

目線の先には、モンゴメリがベットで横たわっていた。

微かな吐息をたてて、目を瞑っている。寝ているのだろうか。

隣に座ってみる。

髪を触ってみる。

その髪が、息が、顔が、モンゴメリが、とても愛おしいと思った。


「…どうしたの?」

「うわぁぁぁぁ!」

「驚きたいのはこっちよ!…本当に、どうしたの?」

「いや…可愛いなって。」

敦の天然が炸裂!

モンゴメリの理性に五万のダメージ!

「え、えぇぇぇ!?」

「あぁ!い、嫌だったら、ご、ごごごごめ」

「…じゃない。」

「え?」

「嫌じゃない!」

二人の顔がみるみる赤くなる。


意を決したモンゴメリは、遂に秘めていた恋心を打ち明ける。

「私は…。貴方が…敦…君が、…好きです。」

「…うん。」

「あの時私が、どれだけ貴方に救われたか、言葉にも表せない。」

「…」

「こっちに来てからも、向こうにいても、何度貴方にときめいたか、私自身も

 わからない。」


だから…だから。


「一緒にこっちに来た人ってだけじゃなくて…。恋人として、見て欲しいの。」

「…うん。」

「駄目…かしら。」

敦は、しばし考え込む。

そりゃもちろん、彼女が欲しい。

ずっと隣にいて欲しい。

悩みも、全て打ち明けられる、パートナーであって欲しい。

でも…、でも。

「僕なんかで…いいの?」

「敦君だから、いいの。敦君が、いいの。敦君じゃなきゃ、嫌なの。」

「じゃあ、なおさらだ。」

「え…?」

「僕は、このたった数日で、いろんな物をなくした。谷崎さんや与謝野さんは見つか 

 ったけど、他の探偵社の人は、まだ無事かさえも分からない。

 異能も失った。

 今、ここに在るのは…汚い過去から逃げているだけの、薄汚い、見る目も当てられ

 ない、ただの中島敦だ。君なんかとは、釣り合わない。」

「それが、いいの。」

「え…?」

「貴方のそんな所も、全部好き。いい所も、悪い所も、全部好きよ。」

この言葉に、敦の心にあった何かが、ストンと消えて、なくなった。

「いい…の?」

不意に、涙が出てきた。

モンゴメリは、その涙を愛おしそうに押さえ、笑う。

「もう一度、聞いていいかしら?」

「うん。もちろん。」

「恋人に、なってほしいの。敦君。」

「うん…。もちろん!」

「じゃ、じゃあ…。」

早速、と言わんばかりに、モンゴメリが顔を近づけてくる。

敦もおずおずと、顔を近づける。

極限まで近づき、そして、重なる。

舌を出す。絡める。

ゆっくりと、ゆっくりと…はなす。

「ん…はぁ。」

既に二人には、理性というものがなくなっている。

そんな中、若い二人が、この誰も入ってこない秘密の部屋で。

ついさっき、愛を確かめたばかりの二人。

完全に、ソッチの雰囲気になった。

そして、すっかり興奮したモンゴメリは、普段では絶対口にしないような事を言う。


「辛かったわよね…。慰めてあげる。」

夜は、深まる。


______________________________________

いやぁ、疲れた。

表現難しいのぉ!でも、自分なりにですが、真っすぐに二人のイチャイチャが

書けたので、僕は満足です。

ちなみに、次のお話では普通に朝になります。朝チュンです。

別の小説として作ろっかな…。一応、R15の範疇に収めたいですしね。

まぁ一つ言えることは、たとえ僕がエロを書いたとしても、あんまり期待するな!

ってことです。

感想などいただけましたら、一日一万回感謝の夜叉白雪を忘れません。

それでは!

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