85話 冥府への帰還
ギールスを殺すまでは考えてなかったが普通なら考えておくだろという事に今更リュウガは気づく。
「ギールスを殺す事ばかり考えていたが冥府の支配者を殺したらどうなるんだ?」
「それを今更聞くのですか? 普通はここに来る前に考えません?」
あまりの考えなしっぷりに思わず呆れた顔を見せる。幼い少女の姿をしているフルールドリスは神らしからぬ見た目通りの反応を見せる。
「仕方ないだろうが。ここ最近立て続けに冥府の穴を開けるような野郎を野放しにするほうがやばいだろ」
「だとしても少しぐらいは気にして欲しいものですね」
「で? 実際どうなるんだ?」
「問題はないですよ。多少の混乱は起こるでしょうがそもそも冥府は支配者なんて存在しない状態の方が長かったくらいですからね」
「だったら今後もずっと支配者がいなくても良いのか?」
「ずっとは流石にダメですね。ギールスが支配者となってから冥府は今のように三層構造になって広くなり多くの死者の魂が眠れるようになったのです。そんな広い冥府ですが来たる戦争では人もモンスターも神も多くが死ぬ。被害がどれだけ多くなるか予測がつかない。そんな被害者たちが眠る冥府がパンクすると大変なので戦争終結時には誰かしらが新たな支配者にならなくてはいけませんね」
「「じゃあお前がやれ」」
新たな支配者としてフルールドリスになるように言うが、
「無理に決まってるじゃないですか。私は生命の神ですよ。冥府の支配者になれると思いますか?」
「生と死両方を支配すれば良いだろ?」
「そんな無茶苦茶な事が通ると思いますか? それに戦争で生き残らなくては話になりませんからね」
「それもそうだな。その問題は戦争が終わってからで良いだろ。それよりも合流時に言ってた戦争に時期の件は任せるぞ」
戦争の時期の件というのはギールス討伐協力をフルールドリスが要請した時に言っていた戦争開始を5年後にするというものだ。
「それはもちろん任せてください。約束は守ります」
「それじゃあ帰、、る、、かって思ったがどうやって?」
「あ!?」
リュウガも龍帝も帰りの事を全く考えていなかった。冥府の門が開いていたので行く事自体は簡単であった。しかし、行きに使った門は流石にもう閉じている可能性か高い。
「本当に考えなしな方たちですね。仕方ありませんね。私が地上への道を開きます。そのためにもまずは一層へと行きましょうか」
こうして3人は地上へと帰るために一層へと向かうのであった。行きは死神、骸兵、骸龍といったギールスの兵隊たちが襲わなくなったので道中はすいすいと進むのであった。
「ここまで来るのは簡単だったな」
「支配者を失ったってのに仇撃ちとか考えないんだな」
「自分たちの頂点に君臨しているギールスを殺すような相手には敵わないと分かってるからでしょうね」
「まぁ、何にせよ簡単に一層まで戻る事が出来たんだ。それじゃあ頼むぜ」
「任せてください」
フルールドリスは地上への道を開くとそこから太陽光が射す。ずっと薄暗い冥府にいたせいでリュウガは目が眩み思わず目を瞑ってしまう。
「おいおい。隙だらけだぞ。そんなんでこの先やっていけるのか?」
「生理現象なんだから仕方ねぇだろ。お前はどうなんだよ?」
「俺たち龍は自動で目が明暗切り替え出来るようになってるから問題ない」
「それはずるいだろうが」
こうした軽口を交わしてる間に目が慣れてから3人は冥府から脱出するのであった。
「久しぶりの地上だな。太陽がないのもあってどれくらいの間冥府にいたか分からないが実際どうなんだ?」
「やはり知らないんですね。冥府と地上では時間の流れが違うのですよ」
フルールドリスの言葉にリュウガは、
「おい? 嫌な予感がするんだがどっちだ? 流れが早いのか? 遅いのか? 俺としては早いのが嬉しいんだが」
「残念かもしれませんが流れが遅いんです。それもかなり。冥府での1日は地上では半年が過ぎます。貴方たちは2日間冥府にいました。ですので地上では既に一年が過ぎています」
「マジかよ」
ギールスを殺して余計な横槍がなくなった事を喜ぶべきか一年という長い時間を潰した事を悲しむべきかで表情が定まらないリュウガ。既に神とも戦えるまでに強くなっているがそれでもゼーリオを相手に反乱を企てていたギールス相手にはサポートありきで苦戦させられて最後もギールスの攻めが大雑把になった上にフルールドリスの生命の力が働いて死の気配が弱まったから即死しなかっただけで普通なら即死であり死双閃を出す前事も出来なかっただろう。
(ギールスよりも強いであろうゼーリオ相手だとまだまだ俺は弱いんだよな)
と色々考えるリュウガ。そんなリュウガを他所に龍帝は、
「おい、まさか5年後に開戦っていうのは地上の時間でか?」
「そうなりますね」
龍帝はフルールドリスが答えると雷撃を落とす。その雷撃を難なく防ぐフルールドリスであるがそんなフルールドリスの首にリュウガは刀を突きつける。
「信用してなかったとはいえ流石に今の発言はなしだろ」
「お気持ちは分かりますが私は嘘は言ってませんよ? それに良いんですか? ここで殺してしまったら開戦時期は更に早くなりますよ?」
「チッ!」
舌打ちをして大人しく刀をおろす。
「言葉足らずだったのは謝ります。ですが貴方たちも悪いんですよ? 冥府の時間の流れについて知っていたらこうはならなかったんですからね」
「よくもまぁ抜け抜けと」
呆れるリュウガであるが言った所でこれ以上は無駄だと判断して、
「まぁいいや。とっと神界に帰ってゼーリオのご機嫌取って少しでも開戦日を遅らせる努力しろよな」
「分かってますよ。それでは戦争の時にはよろしくお願いしますね」
そう言ってフルールドリスは消えるのであった。
「リュウガ、分かってると思うが」
「あいつは絶対に何か隠してるな。それに冥府の支配者に関しては俺かお前を新しく据える気だろうな」
「お前なる気はあるか?」
「ある訳ないだろ。あんなクソ陰気な所の支配者なんかによ。お前だってそうだろ?」
「まぁな」
そうして会話していると何者かが近づく気配を2人は感じる。その気配を龍帝は知っているものであった。
「聞いたぞ。冥府にギールスを殺すに行ったんだって? 速さが売りの龍帝様が一年もかかるなんてな! それも龍神の末裔と一緒にいてこの結果とはな。ダセェな」
「うるせぇな。そもそもテメェじゃ瞬殺されて終わりだよ」
「そもそもこいつは誰だよ」
「あぁ初めましてだな。龍神の末裔。俺は風獄龍。そこの雷野郎と同格だ。よろしくな」
そう言った男は確かに龍帝とも遜色ない気配を纏っているがそれでも、
(龍帝の方が強いな)
確信があった。ギールスは強かった。そのギールス相手にタイマンで結構な時間戦ったという実績があるし戦った相手であるので贔屓したくなるのだ。
「何が同格だ。負けた癖によ。クソザコが」
「盛ったな」
「ウルセェよ。で? 帰って来たって事は殺したのか? ギールスを?」
「まぁな。それについて話す事あるし翁の所に行く所だよ」
「聞いてないぞ」
「今言ったからな」
「クソがよ」
「ちょうど良いな。翁も報告したい事があるらしい」
こうして3人で今は破壊の後が残る古代遺跡に向かうのであった。そこには翁だけでなくウェンとスイもいた。
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
「おう」
ウェンに出迎えの言葉を貰い冥府での出来事を報告する。
「それで戻るのが遅くなったのですね。貴方たち2人であっても神が相手となるとやはり厳しいのだと思ってましたよ。ギルドの面々も心配してましたよ」
「そう思ってすぐに帰りたかったのにここに連れてこられたんだよ」
「現状の最高戦力での報告会はした方がいいだろ。それで翁の報告ってのは?」
龍帝に話を振られた翁は戦力として確保しておきたかった金剛龍が死んだいた事を報告する。
「金剛龍が殺されていたのか。雷神龍モードなら一撃だが通常時だと全力の雷撃を10発は叩き込まないとあいつの金剛の鱗を破壊出来ないってのに殺した相手は相当強いな」
「だとしてもおかしいんだよ。あいつが引きこもってる場所は冥府に最も近いとされるほどに深い地中ではあるが戦闘が起きたら普通は気づくはずの魔力に気づけなかったんだよ。誰も」
「確かにおかしいな。あいつも黙って殺されるはずがないとなるとまさか一撃で殺したのか? 戦闘に突入する事なく」
「そんな暗殺者みたいな事を龍相手にするとなると神が相手なの?」
「それはないだろ? 神の気配は特徴的だからな気づくはずなんだがな」
う〜んと皆が考えるが結論は出そうにない。それでも結局は、
「まぁ守りだけの引きこもりがいなくても問題ないだろ」
「それもそうだな」
龍帝と風極龍の言葉で金剛龍を殺した相手についての考察は終了するのであった。しかし、リュウガは、
(まさかと思うがハクが殺ったのか?)
かつてギルドにいたフェンリルのハクを思い浮かべるのであった。そんなハクは、
「殲滅戦ではお前の神速に期待しているぞ」
神界にてゼーリオに撫でられて嬉しそうにしているのであった。
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