80話 二層へ

「下も上と変わらずに殺風景な場所だな」

「冥府なんてものはそんなもんなんだろ」


 雑談をしながらリュウガとテンネンは探索する。上にいた時は骸兵や死神に襲われたりもしたがここでは襲われずに済んでいる。理由は同じく二層にいる龍帝に全てのヘイトが向けられているからなのだが2人がそれを知るはずもなくラッキーくらいにしか思っていない。


「もう一回地面をぶち抜かないのか?」


 ある程度歩いてからテンネンがリュウガにここに来た時と同じように下層への道を繋ぐためにぶち抜かないのか聞く。


「何だよ? 疲れたのか?」

「そういう訳じゃないがその方が早いだろ?」

「それもそうだが全部で何層になってるか分からないから無駄に体力を使いたくないんだよ。三層目にギールスがいたら階層をぶち抜いた瞬間に殺される可能性があるからな」


 リュウガが危惧しているのは下層へと行く時の落下だ。テンネンは死神なので浮く事が出来るので問題ない。しかし、リュウガは出来ない。だからといって手段がない訳ではない。空中を歩法する事がリュウガには出来るのだが地上と冥府では空気の密度が違い上手く出来ないのだ。あくまで上手く出来ないだけで全く出来ない訳ではないのだがそれでも隙が出来てしまうのだ。それを狙われると正直厳しい。だから、


「もう少しだけ探索したい。とはいえあんまり時間をかけたくないから面倒になったら諦めてぶち抜く」

「分かった。そう言うことなら付き合うよ」


 そう言って2人は探索を続ける。そんな2人を出迎えるのは冥府の住人などではなく、


「何だそいつは?」

「案内人のテンネンだ」


 龍帝であった。そんな龍帝から発せられる異常な気配に驚く。


(リュウガと同等下手したらそれ以上のバケモノ。聞いてはいたがここまでとなると挑む気なんてなくなるな)


 龍帝の強さがあまりにも常軌を逸してる事を感じてしまう。


「この下が最下層のようだぜ」

「それを伝えるためにわざわざ来たのか?」

「少し問題があるんだよ。骸龍を100は殺した頃にようやく下層へと繋がる穴を見つけたんだがそれが急に閉じたんだよ。お前ら正規のルートで来たのか?」

「あ〜すまん。ぶち抜いて来た」


 正直に謝る。


「それが原因かもな。お前の死を与える力は神殺しにはうってつけだから閉じ込もっていやがるな」

「そんなビビりな事があるのか? ゼーリオに下剋上したり地上を侵略するような奴が」

「何か予想だにしない事が起きてるんだろうよ」


 2人の会話を聞いていたテンネンが口を開く。


「そういえばここ暫く急に骸兵、死神、骸龍が増えたのも関係しているかもな」


 その言葉に、


「天界の神々が攻めて来るのか? 冥府にも」

「ありえなくはないな。オレ様とお前を相手にしてる時にギールスから横入りされる可能性がある以上は先に潰しに来てもおかしくはない」


 そんな会話をしていると、


「正解です」


 突然現れた気配を感じてリュウガと龍帝は瞬時に距離を取るがテンネンは数テンポ遅れて気配を感じて距離を取ろうとするが間に合わずにあまりにもあっけなく殺されるのであった。


「流石は我々の最大の脅威ですね」


 現れたのはグレーの髪色をした優男だった。


「おい、リュウガ。こいつは・・・・」

「分かってる」


 相手が神である事など明白だ。神の気配は特徴的なので神だというのは普通の人間でも気づくレベルだ。


「そんなに警戒しないでくださいよ。敵対したい訳ではないのですから」

「冗談言ってんじゃねえよ。案内人殺しておいてよ」

「それはすみません。ですがここから先はあの程度の実力者ではいる意味がありません」


 現れた神に言葉を発しようとしたら、


「そのような物言いは良くありませんよ」


 少女の声がグレー髪の神の背後から聞こえる。


「お前は誰だ?」

「初めまして。龍神の末裔と龍帝。生命神フルールドリスです」


 白髪の幼い少女の姿をした神はそう名乗った。


(生命神か。冥府とは相性が悪いのにわざわざ来るもんか?)


 訝しむ龍帝。そんな龍帝に気づきながらも、


「ギールスを殺しに来たようだが共闘出来ると思うなよ。ここでお前ら殺して戦争前に戦力削ってもいいんだぜ。こっちはよ。ちょうど2対2だしな」


 やる気満々のリュウガに対してフルールドリスは、


「落ち着いてください。私たちは敵対する気はありませんよ」

「信じると思うのか? 戦争をふっかけられてるのに」

「それはもっともです。しかし、本当に敵対する気はないです。今回はギールスの討伐が目的なのですから」


 その言葉に龍帝が口を挟む。


「やっぱり戦争の時に横やりを入れられるのが嫌だったか」

「そうです。貴方たち2人を相手にしてる時にギールスも相手にするのはゼーリオ様も避けたいようです」


 その言葉に、


「協力してメリットがあるのか?」

「もちろんあります。私たちはそもそも人間を滅ぼしたくはないのです。それでもゼーリオ様には逆らえないのです。だから戦争の始まりを5年後にしてみせます」

「5年後」


 小さく呟く。それはオズワルドの国王が未来視で視た結果と一致している。


(ここで協力したから5年後が戦争の始まりなのか? それとも元々5年後に始まるのを当初の予定より遅くしてるように話てるだけか?)


 真意を探ろうとするリュウガは、


「本来は何年後の予定なんだよ?」

「龍神の攻撃によるダメージはもちろん器である剣聖との同化を加味して3年後になります」

「なるほどな」


 その言葉を信じる。


(2代目が残したお土産はそれくらいはあるだろうな)


 神の言葉よりは2代目の実力を信じたのだ。


「さらに戦争の時には人間を残す派がしれっと貴方たちに協力します」

「がっつりとしろよ」


 リュウガのツッコミが入る。そんなリュウガに、


「仕方ないのですよ。ゼーリオ様がその気になれば大体の神々は抵抗出来ずに死ぬのですから」


 そんな彼女の言葉を信じる気はない。だから、


「ギールス討伐に協力しろと言ったがそれの結果次第だな。お前の言葉を信じるのは」

「つまりは結果で信じさせろという事ですね。わかりました。それでは彼からも挨拶をさせますね」


 グレー髪の神に挨拶を促す。


岩神がんしんグレーストです。よろしく」

「あぁ、よろしくなっ!!」


 リュウガは挨拶すると同時に顔面を思いっきり殴り飛ばす。


「何のつもりですか?」

「さっき殺した死神は協力者だ。あいつが言うように実力不足だったがそんな事は知った上で俺はそいつの同行を許していたんだ。それを殺したんだから殴られても仕方ないだろ」

「なるほど。良かったですね。グレースト。今のでチャラにしてくれるみたいですよ」


 ガラガラと音を立てながら瓦礫からグレーストは鼻血を垂らしながら出て来る。


「全く神に鼻血を出させるとは」


 文句を言うグレーストに、


「それで済んで良かったじゃないですか。彼がを使えば死んでいましたよ」

「それもそうですね」


 そう言いながらゴシゴシと鼻を擦るグレースト。


「それではギールスを討伐しようじゃないですか」


 人間、龍、神の共同戦線が始まる。


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