15話 ヒカリ・クルルガ

「ご褒美はが良い!」


 隠れ鬼のご褒美としてヒカリはナイフを欲した。リュウガはヒカリにはナイフは必要ないだろと反対したが、


「身を守るための護身用に持ってても良いじゃない」


 マイの意見に周りも賛成し、 


(必ず誰かが側にいるとは限らないか) 

 

 と考えを変えて、


「分かったよ、今度武器屋に行って買ってやる」


 そう約束したのだが、


「最低! 緊急依頼とはいえ約束を守らないなんて!」


 ルイが怒るのも仕方ない。リュウガは緊急依頼を受ける事になった。何でもフェンリルが国から出たのは良いが今度はモンスターが増えすぎた。結果としてそのモンスターを餌にするSランクモンスターが現れたそうだ。


「ごめんな、ヒカリ。明日は絶対武器屋に連れてってやるからな」


 リュウガはそう言い、ヒカリの頭を撫でる。ヒカリは酷く悲しそうにしてはいたが頭の良い子だ、邪魔をしてはいけないと判断し泣かなかった。その様子を見たルイはヒカリと一緒に出かける事にした。


「怒らないでリュウガの事。緊急なら仕方ないよ」


 怒るルイにヒカリは言葉をかける。


「ヒカリ、優しいのは良い事だけどあなたは子供なんだからワガママを言って良いのよ。無理しないで」


 ヒカリにルイは言う。ヒカリは優しく頭も良い。だからといって我が儘を言ってはならない理由にはならない。


「確かにサブマスはあなたにとっては恩人かもしれないけど恩人に対してずっと下手になる必要はないんだからね」


「、、うん」


 ヒカリは小さく頷く。


「さて、そろそろ帰ろっか? 帰ったらサブマスに文句言ってやりましょう!」


 元気良くルイに喋りかける。そこへ、


「それは出来ないな」


 いきなり目の前に人が現れる。


(嘘! いつの間に!)


 ルイはヒカリを連れて逃げようとするが、


「あ、、れ?」


 ドサッ


 と、膝から崩れ落ちる。お腹と両足を切られている。


(気づかないなんて、、、、)

「ヒカリ、、に、逃げて、、」


 ヒカリは動けずにいる。なぜなら、


「ヒカリ? お前の名前か? エース」


 相手はヒカリに暗殺術を教えた師であり喉を潰した張本人だからだ。体が覚えている。彼に逆らってはいけないと、


「喉が治っているな。魔法使いの仕業か。また潰さなくてはいけないだろう、面倒な」 


 と呟くこの男はまたヒカリの喉を潰す気でいる。


「組織が潰されて残ったの俺とお前だけだが充分だ。これからまた働いて貰うぞ」


 ヒカリの頭に手が届く、そこへ、


「待ち、なさい、、よ」


 ルイが立ち上がる。


「立ったか。素晴らしい精神力だな。だがその出血では俺が手を出すまでもなくお前は死ぬ」


 その通りだ。ルイは根性だけで立っている。それでも、


「その娘は、、わたしの妹よ! 手を、、出したら殺す!」


 ゼェゼェと息も荒く血は流れているがそんな事は関係ない。


(守る!)


 ルイは男に立ち向かう。

 

「そうか、では死ね!」


 ルイの顔目掛けてナイフを振り下ろす。それを、


「やめて!」


 ヒカリが腕を掴むことでそれを阻止した。


「邪魔をするな!」


 男はヒカリを振り払い壁に投げつけた。ルイの突進を避けその背中にナイフを突き刺す。


「あっ、、」


 ルイは力なく倒れた。


「エースめ! 無駄な手間をかけさせるな」


 男はヒカリを連れて闇へと消えた。

 


 とある山中にて、


「お前と俺がいれば暗殺組織は終わらない。いつまでも続く」


 男はジョーカーと呼ばれている。暗殺組織ではトップの実力者であり教育も行なっていた。リュウガが暗殺組織を壊滅させた時は暗殺の依頼で外に出ていたため無事だった。


「帰ったら組織は潰されていて驚いたぞ。調べてみたら相手はたった1人の男というじゃないか。だがお前は生きていた! 俺の最高傑作であるお前が!」


 ジョーカーは気絶し眠っているヒカリに話しかける。


「さて、気絶してる間に喉を潰そう。今度は回復魔法でも治せないほどにグチャグチャにな」


 ヒカリに手を伸ばすがそれは叶わない。なぜなら伸ばした手がなくなったからだ。


 ドサッ! 


 音がした方を見ると腕が落ちている。


「ぎゃああー!」


 ブシャー! 

 

 と血が吹き出す腕をギュッ! と掴み出血を抑える。


(何が起こった!)


 いきなりの事に頭が混乱している。そんなジョーカーに声が届く、


「よぉ。うちのガキ共に手を出したバカはお前だな」


 声がした方向を向くとそこには刀を持った男がいた。刀は。自分の腕を斬ったのは目の前の男だと判断し即座に懐からナイフを出して襲いかかる。ジョーカーは暗殺者であるが対人戦にも通じている。Sランクの冒険者とも正面から戦える程にだ。


 しかし、ジョーカーは気づかなかった。斬られた痛みと怒りにより普段ならば気づいた事に。相手は一切の殺気も見せずに自分の腕を斬り落とした事に。相手がエースよりも自分よりも多くの命を奪ったである事を。


「遅ぇ」


 ジョーカーはその声が耳に入ると同時に首を飛ばされた。背後をとった完璧な動き、Sランク冒険者ですら殺せるモノだったが相手が悪すぎる上に彼がやった事は龍の逆鱗に触れたも同じ。生き残る方法はなかった。



「ごめんね! 守れなくて!」


 ルイがヒカリを抱きしめて謝る。ルイは瀕死の重傷を負っていたがマイの回復魔法によって一命を取り留めた。


 あの日マイが総本部に顔を出しておりその帰りにルイを見つけ速攻で回復魔法をかけた。もしマイが総本部へ向かっていなかったらルイは死んでいただろう。ルイは瀕死でヒカリがいないその状況に緊急事態だと把握してマイは魔法でギルドに連絡を入れた。その時、緊急依頼を終えたリュウガが帰ってきており事態を把握してヒカリを捜索して無事犯人を見つけてヒカリを保護したわけだ。


「いや、お前は良くやった。悪いのは俺だ。緊急依頼なんざすっぽかせばこんな事にはなってねぇ」


 ルイとヒカリに頭を下げる。


「でも、負けたら意味ないでしょ」


 ルイが言うが、


「お前が立ち向かわなかったらヒカリはもっと遠くに連れて行かれてたかもしれない。そうなりゃ、俺の鼻でも追跡が厳しい。だから本当に良くやった」


 そう言い、リュウガはルイの頭を撫でる。基本リュウガからは厳しくされる事が多いルイは照れ臭そうにする。


「それから、ヒカリ。ごめんな。怖い思いさせて。それから良く手を汚さなかったな」


 手を汚さなかったというのはヒカリはルイが殺されそうになった時にジョーカーの腕を掴む事で妨害したがナイフを奪い殺す事も出来た。それでも、


「約束したから、2度と人を殺さないって」


 ヒカリは、暗殺が失敗したあの日、


「ガキ、お前は2度と人を殺すな。お前の仕事は食って、遊んで、寝る事だ」


 そんな言葉をかけられていた。今まで自分は暗殺ばかりで死を振り撒いて来た自分には幸せになる事はない。だから感情はいらない。そう思い生きて来たがあの日変わったのだ。


「これからもよろしくね♪ ♪」


 笑顔でリュウガに笑いかける。まさかのパパ発言に流石にリュウガは固まる。


「俺がパパはないだろ」


 そんなリュウガに構わず、


「じゃあママはわたしかな?」


 マイがヒカリに問いかけ、


「あたしは姉ね」


 ルイが断言し、

 

「それじゃ俺は兄ですね」


 ソウもこの流れに乗る。


 わいわいと誰がどのポジションを取るがで騒ぐのを見てヒカリは嬉しそうに笑っている。


 


 

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