12. 清村くんは10万円
清村くんを追いかけて、東京まで行ったこと。AVデビュー(結局何もしていないけど)までしてしまったこと。いまではすべてが夢のようだ。
私は、あれきり清村くんのことを想うのをやめて、高校時代の友だちとも、もうあの頃のような話はしない。たまにメールしても、仕事の話とか、上司の話とか、夫や子供、美容、健康の話。趣味の話はそれぞれがそれぞれの趣味の友だちを持っているから、あまり話さなくなった。
ただ、私は見つけてしまった。
清村くんはあれからAV男優として成功し、今年から女性向け風俗のお店を始めたようなのだ。しかも、10万円で清村くんも指名できるという…。
私は悩んでいる。
清村くんとは、ほんといえばもっとお話ししてみたい。
思ってたのと全然違ったとしても、それでも
あの時、どう思ってたのかなとか。お互いが、隣同士で勉強頑張ってたはずのあの頃の話がしてみたかった。
10万円か…。
いま私は、週4日パートで働いている。そのお金は子供の習い事代の足しにしてるのだけど、少しずつ貯金をすれば、払えない額ではない…。
私は10万円払ってでも、清村くんとまた会うべきなのだろうか。私にとってそれは、なにか大きな意味のあることになるのだろうか。清村くんは私のことなんて覚えてなかった。あの日会ったことも多分絶対覚えてない。それでも私はその話がしたいし、そうしたらきっと、営業スマイルとホスト的なふるまいで優しく接してくれるかもしれないけどそれはきっとかなりショックだ。
わざわざショックを受けるために10万円を払う意味あるのかな。そもそも、女性向けの風俗なんだから、ただ会うだけじゃない…。清村くんの体を目当てに10万円を払うっていうことなのだ。私は初恋の清村くんに抱かれたいと思っているのだろうか。
いや…。私の初恋の清村くんは小学生なのであるから、抱かれたいとは思わない。初恋の清村くんだった人に抱かれたいかどうかなのだ。10万円で。
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