7. ルノルマンカード

 この学校には、図書館の中央奥に屋外に出られるドアがある。図書館は二階にあるので、ドアから出たテラスは二階にあり、校庭には面していないが裏門に向かう人などを見下ろすことができる。コンクリートの打ちっぱなしのテラスにはプラスチックの白いテーブルのまわりに椅子が4脚ほどのセットがいくつか置いてある。テラスなら飲食OK、おしゃべりもOKなので文化系の生徒たちにはまあまあの人気スポットだ。

 和歌子が壁際の椅子に座って、ルノルマンカードの本を真剣に読んでいるような表情をしている。ルノルマンカードというのはタロットのようなカード占いの一種だ。タロットほど名前を知られてないという点で和歌子のハートを射止めた。和歌子は一見モテなそうなフェロモン男子とか、イケそうな気がする系の掘り出し物っぽい見た目の男によく一目惚れをする。ルノルマンカードもそんなに知られてないから、今必死に極めたら、ルノルマンカード使いの女子高生占い師として一発当てられるんじゃないか!と昨日電話で息巻いていた。放課後に寄った本屋のタロットカード特売コーナーでルノルマンカードを見つけて買ったらしい。

「やっぱね。セーラー服のうちにイッパツ当ててやらなきゃいかん」

 いつから和歌子がなにかでイッパツ当てたいひとだったか、考えても思い出せない。聞いたこともなかった。でも一目惚れをするときの勢い同様の熱量を感じる。まあ同様にすぐ冷めそうだけど。

「さ。なにが聞きたい?」

 和歌子はポケットから木綿のハンカチーフを出して真知子巻きにしようとしたが寸が足らず、苦労してあごギリギリのところでハンカチの端を結んだ。

「え、占って、くれるんですか?」

「ハイ。特別に、このカードで一番最初に占ってあげましょう」

 和歌子は神妙な顔でもったいつけて、新品ピカピカのなんの貫禄もないルノルマンカードを箱から出してみせた。付属の解説書を読みながらカードを切って並べていく。

「えー、なににしようかなぁ。悩んじゃうなぁ」

 若干の寸劇っぽさを和歌子に合わせて入れつつ考える。

「まあ、ルノルマンは全般占えますから。じゃあ、やりますね」


 風が強くてその日はテラスでのカード占いには向かないようだった。和歌子がカードを並べようかな、思うタイミングに合わせたようにあまりにも強い風が吹き出すので、何度もカードが飛ばされて、私たちは二人で爆笑をした。やばい、私の占いの力が偉大すぎて天が邪魔してくるわ、などと和歌子は言い出すし、私も風に妨害されすぎる和歌子が、飛ばされるたびにせっせとカードを拾い集めながら自分の未知のパワーを確信するようなことを言うのでほんとに可笑しかった。





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