3. 理屈じゃないのよね。

「人を好きになるのって。タイミングっていうか…。理屈じゃないのよね。イケメンとかじゃないのに放たれるフェロモンに抗えない、ときめき不可避なのよ」

 うっとりとした可憐な表情で言い放つのは同じクラスの和歌子だ。和歌子は返事を待っていない。これは彼女のこの昼休みにつとつとと語り続けた一連ののろけ話の最後に添えられた締めくくりの一言のようなものだと私は受け取った。私は彼女の今回のお気に入りの彼についての語りを、売店のキャベツたっぷり極薄とんかつサンドとカニクリーム風コロッケパンを食べいちごミルクを飲みながら聞き終えた。和歌子はバスケ部の練習で手首をひねったかなんかで整骨院のようなところに行ったらそこの整体師かなんかのお兄さんがかっこよかったそうだ。通いたいと思ったが、湿布ですぐ治るからもう来なくていいと言われたそうだ。

「イケメンじゃなくてもモテる人はモテるもんね。フェロモン過多男なのかもね」

「え!!!じゃあモテるのか…。イケメンじゃないから女子高生だしイケるかなって思ったのに…。ねえ今日ひま?蝶子一緒に見にきて!」

「えぇぇ…。めんどくさいけどひまだからいいよ。てか女子高生だとふつうのまともな大人ならアウトだよ」

 和歌子はお弁当箱を片付けると、なにも乗っていない机を手で払った。

「あ~!!タカノさん!見れるかな~!ドキドキする~!楽しみ!!」

 額を机に押し付けて興奮して声を弾ませて、足までじたばたと床を踏み鳴らしている。恋する乙女的な表現として少女漫画とかでこういうの見たことあるし、クラスの女子もこういうのをよくやっている。

「街中のほうなら、なんか用があって清村しむらくんが歩いてるかもしれないしね!!清村くんに目を光らせながらついでにそのタカノさんとやらも見てやるよ!」

「つむじ狩りじゃ~!!」

 私たちは、遠くから男性を眺めることを、ただ紅葉を眺めるだけのもみじ狩りに倣ってつむじ狩りと読んでいた。和歌子の前に好きになった人を見に行ったが、後ろ姿だけでつむじしか見えないことが何度かあったのでそうなった。


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