第4話
クラスメイトたちは、組ができた順に着席していき、いつも僕はあぶれてしまう。気づけば教室内に立ち尽くすのは僕と、僕と同じように誰からも声をかけてもらえなかった結崎だけになっていた。
だから僕と結崎は残り者同士、いつもペアを組まされていた。みんな同性と組んでいる中で、僕だけ異性と組まされて少しだけ恥ずかしさがあったけれど、それ以外の不満はなかった。
僕に嘲りを含む視線を向ける悪意の塊のような他のクラスメイトと組むくらいなら結崎と組む方が何倍もマシだ。
それは結崎も同じだったみたいで、僕たちは授業中のペアに始まり、クラスの係、委員会、クラブまで事あるごとに同じものを選択した。特に示し合わせたわけではない。ただ気がつけば僕の隣には結崎がいた。
いわば僕たちは協力関係にあった。そう、ひとりぼっちにならないための協力関係だ。
そんなふうに一緒に過ごす機会が増えるにつれて僕たちはいつのまにか一緒に下校する仲になっていた。
意外に知られていないかもしれないけれど、下校中は休み時間と同じくらいいじめっ子からの攻撃に遭うリスクが高い。
投石、付きまとい、背後からの罵声、エトセトラ……。大人の目がない分、やることが校内に比べてえげつなくなる。
それを回避すべく、僕と結崎は結託したのだ。
一人より二人だ。二人だといじめっ子側も抵抗があるのか、そうそう手を出してこないし、もし狙われたとしても仲間がいるという安心感は何よりも心強いものになる。
僕と結崎は草食動物が肉食動物から身を守るために群れをなして行動するのように、必ず一緒に帰宅した。
この作戦は功を奏し、僕たちは安全な帰り道を歩くことができた。
ただし、いじめの被害が減少する一方で、毎日一緒に下校する僕たちを見て、僕と結崎が付き合っているんじゃないかとクラスで噂になってしまった。
二人で通学路を歩く度、冷やかしの声が飛んでくる。
馬鹿にされて恥ずかしかった。
だけど、何度も何度もからかわれるうちに僕は結崎のことを徐々に異性として意識するようになっていった。
結崎は控えめに言っても美しい容姿をしている。それに思慮深く、頭もいい。あとは、なんと言っても彼女といると幸せだ。いじめっ子の陰口ですら僕たちを親密にする道具になっている。
よく考えれば、こんな宝石のような女子が平々凡々の僕のそばにいつもいるというのは稀有なことだ。
そんなことを考えては胸が高鳴った。
正直に言おう。僕は結崎に恋してしまったのだ。
結崎とのあの約束をしたのはその年の八月だった。
お盆も終わって、ひぐらしが鳴き始めた八月二十日。その日は夏休み中の唯一の登校日だった。
宿題の提出と、「夏休みも残り少しだ。ハメを外しすぎるなよ」という担任から注意を聞いた僕たちは昼過ぎには解放された。
真夏の太陽が空から厳しい日差しを浴びせる中、僕と結崎はいつものように一緒に帰る。そのまましばらく歩いていると、いじめっ子たちが囃し立てた。夏休み前より肌を黒くさせた彼らは僕たちが歩く後ろから「ヤラシイ」だの「ヘンタイ」だのと騒ぐ。
やいやい、がやがや。
まるで祭りのように騒ぎ立てながら彼らは僕たちの後をついてくる。関係のない他クラスの子たちまで、その声に釣られてなんだなんだとこちらをジロジロと見てくる始末だ。恥ずかしいったらありゃしない。
「やめろ!」
あまりのしつこさに堪忍袋の緒が切れた僕は振り返ると、足下に落ちていた石を拾って投げつけた。
怒った僕にいじめっ子たちはさらに喜び声を上げる。
しまった、と思ったとき急にナツノに手を掴まれた。「え?」と思った束の間、彼女は僕を引っ張って駆け出した。
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