24. 元執事、帰還する
その後のことを話そう。
俺たちは迷宮全体が浄化されていることを確認すると地上に戻ってきた。
「地上はやっぱいいわね」
「あぁ、迷宮の中だと気が抜けないしな」
「ワンワンッ」
「ハクも地上の方が好きなんだな」
和やかな会話。三人揃って大量の怪我をしていたが、それも全て〈
「ギルドで報告したら騒ぎになりそうね……」
「そうか? 別にあの迷宮は未攻略だったわけじゃないんだし……」
俺の言葉にリリアナが呆れたような表情になる。
「四階層に
「お、おう……」
リリアナの剣幕に思わず気圧される。騒ぎになるのは困るんだけどな……
そんな話をしながら歩いているとギルドに着く。
「ハク、中では静かにな」
「わんっ」
腕の中に大人しく収まるハクの頭をよしよしと撫でながら中に入る。癒されるなぁ……
俺たちが入ってくるのを見てか、受付に座っていたフィルナが驚きの表情を浮かべる。
「リリアナ様、フェール様、いらっしゃいませ。お二人揃ってとは珍しいですね」
「ちょっと色々あってな」
「色々、ですか?」
フィルナが首を傾げる。俺は苦笑するしかない。プライドが高いリリアナは助けられたなんて言いたくないだろうし。
そう思ったのだが。
「私が助けてもらったのよ」
素っ気ないが正直に言う様子に驚く。
「リリアナ様が、助けてもらったんですか!?」
「えぇ、そうよ」
フィルナがさっきとは比にならなら驚きようを見せる。それだけSランク……リリアナが強いと思われていると言うことなのだろう。
「フェールは思った以上に強かったわ」
「リリアナ様が言うほどですか……」
リリアナの言葉にフィルナがさらに驚く。驚きっぱなしだな。
てか変なこと言わないで欲しいのだが。
「おい、でたらめ言う……」
「事実だもの」
「……はぁ」
俺の言葉を遮って平然と言うリリアナにため息しか出ない。
俺の様子を無視してリリアナがフィルナが本題に入る。
「フィルナ、ギルドマスターと話したいのだけど今大丈夫かしら? 急ぎなのだけど」
「急ぎ、ですか? 少々お待ちください」
リリアナの言葉にフィルナは奥に入っていく。ギルドマスターに会うだなんてそう簡単にはできないはずなのにすぐに呼びに行ったところを見ると、Sランク冒険者にはそれ相応の対応をしているようだ。
「これでこの場で騒ぎになることは免れるわね」
「助かる」
「私だって騒ぎになって質問攻めにされるのは嫌だもの」
心底嫌そうな表情を浮かべるリリアナに苦笑する。
「リリアナ様、フェール様、奥にどうぞ。ギルドマスターがお会いになるそうです」
「ありがとう」
フィルナに続いて奥に行くと木製の重厚そうな扉が目に入る。
「マスター、お二人をお連れしました」
「入ってくれ」
フィルナがノックして声をかけると、中から男性の低い声が返ってきた。
「どうぞ」
「お邪魔するわね」
「失礼する」
中に入ると、正面の大きな机の後ろにいかついスキンヘッドの男がいた。
「私はこれで失礼します」
「あぁ、ありがとう」
フィルナが出て行くのを見るとスキンヘッドの男がこちらを見る。
「マスター、久しぶりね」
「久しぶりだな、リリアナ。そっちのスーツのが噂のやつか?」
「えぇ、そうよ」
噂のって……街で聞いた「半端なく強い奴が新しく冒険者になったらしい」ってやつのことだろうか。こんなところにまで届いているのか。
内心うっとおしく思っていると、バルドが興味深そうな視線を向けてくる。
「確か名前はフェールだったか。俺はここのギルドマスターをしているバルドだ。よろしくな」
「よろしく」
差し出してくる手を握ると、バルドが目を見開く。
「どうかしましたか?」
俺が問いかけるとバルドがこわばった笑みを浮かべる。
「お前……化け物だな」
「はい?」
なぜ急に化け物扱い……俺何もしてないんだけど。
そんなことを思っていると、リリアナがうんうんと頷いているのを視界に捉える。
「マスターならわかるわよね。フェールは化け物だわ」
「失礼だな!?」
「だってあなたの能力おかしいもの。ちなみにマスターは相手の能力を感じ取れるから、ごまかしても無駄よ」
「ごまかしてなんていないんだが……」
俺はいたって普通だ。なぜ化け物なんて言われないといけない。
俺とリリアナのやりとりを見てバルドが笑う。
「お前ら仲良いな」
「「仲良くない」わよ」
声が被って思わず顔を見合わせる。そして気まずくなって顔をそらした。
「いや行動被りすぎだろ……」
バルドが引いていた。
「ま、まぁ、それはいい。で、話はなんだ?」
「あぁ、そうだったわね」
リリアナが迷宮で起こったことを一通り報告する。話を進めて行くうちにバルドの顔がどんどん険しくなっていく。
話が終わった時、バルドは俺たちに向かって深々と頭を下げた。
「すまない、こちらの調査不足だった。そして、赤竜を倒して
「まぁ、フェールがいなかったら私は死んでたし、死んでいなくても赤竜は倒せなかっただろうから九割フェールの手柄ね。私からもお礼を言うわ。ありがとう」
「い、いや、俺は当たり前のことをしただけだ」
お礼を言われ慣れていないからむず痒くて思わず目線をそらす。
俺の様子にリリアナが笑い声を漏らす。
「あなたって意外にシャイよね」
「そんなんじゃない。ただ慣れてないだけだ」
「ふーん、顔はいいから女の子が寄ってきそうなのに」
「そんなこと初めて言われたぞ」
「あなたがどんな環境で過ごしてきたのかほんと謎だわ……」
「お前らそこまでにしてくれ。話が進まない」
「あぁ、ごめんなさいね」
「すまない」
俺たちの様子にバルドが苦笑いを浮かべる。
だが、すぐに真剣な表情になると、それで、と切り出した。
「赤竜のコアを見せてくれないか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます