23. 元執事、決着をつける
「ギャオォォォォォォォォォオ!」
「くら、え!!」
大量の魔法を投げつける。
だが……
「その漆黒の靄はなんだよまじで……」
漆黒の靄が大抵の魔法を呑み込んでしまうのだ。大量に魔力を込めたものであれば靄が威力を吸い取ってもそのまま着弾していたりもするのだが、威力が弱いために
「とりあえず最大限の威力の魔法を出すしかないけど、そんなのポンポン放てないし……久しぶりに剣を使うか」
アイテムボックスから愛剣を取り出す。
「セイバ、頼んだぞ……!」
特に何か特徴があるでもない、細身の剣。だが、思い入れのある剣だ。
上から迫って来る巨大な手を避けて赤竜めがけてジャンプする。
「はぁぁあ!」
「ギャッ!」
目に向かって思いっきり突き刺す。
すると、漆黒の靄が俺を包もうと迫ってくる。悪い予感がして飛び退くと……
「っ!?」
少しだけ靄に触れたスーツの裾がボロボロになった。
「なんであろうと靄に触れちゃいけないのか」
赤竜にまとわりついている靄にも触ってはいけないとなると相当難しくなる。
近づくことさえままならないからだ。
「厄介だな。しかもこうして戦っている間にも魔物は増えていっているし……っと」
突進してきた魔物を切り捨てる。すでに空間いっぱいにいて、リリアナとハクが応戦していても明らかに追いついていなかった。
リリアナの表情は苦しそうだし、ハクもあちこちに傷を負っている。
「早めに片付けないと魔物で窒息死しそうだな」
呟くと魔法式を展開する。
「〈武器強化〉〈守護〉〈
とにかく大量にセイバに魔法を付与する。あの靄を切り裂いていかなけれならないのだ。魔力を出し惜しみしている暇はなかった。
「こんなところか」
俺が大量に魔法を付与したセイバは白銀に輝いていた。
「だが大してもたないだろうな」
目を伏せる。この剣は使用人養成学校を卒業する時に師匠にもらった飾りの剣。
『執事は主人を守る盾です』
「あの時は護衛じゃないというのにと不思議に思ったな……」
だが、今ならその言葉の意味がわかる。執事の仕事はその言葉と態度を持って主人の仕事を補佐し、品格と尊厳を守る盾であると。そしてその言葉の意味をわからせるために剣を送ったのだと。
だからこれは飾りの剣なのだ。でも飾りの剣でも扱えなければならない、主人を守るために。
師匠の言葉を思い出したからだろうか、自然に背筋が伸びる。
「今の俺は執事じゃない。だが、守りたいものはある!」
白銀に輝くセイバを持って走る。赤竜に向かってまっすぐと。
「〈風爆〉〈凍結〉」
走りながら魔法を展開し、起動。靄を風で飛ばし凍らせる。
パラパラパラ。
黒い結晶が降り注ぐ。その中を走り抜け心臓に向かう。
「くっ……」
だが次から次へと発生する靄が俺の体を蝕む。
だが、俺は足を止めなかった。そんな俺の姿を見て赤竜が炎を吐く。
「グワァァァァァァァァア!!!」
「はぁ!」
剣で炎を切り裂く。
ドゴォン!
俺の背後で炎が爆発した。
「二人とも無事でいてくれよ……!」
振り返らない。二人なら大丈夫だと信じているから。
俺が止まらないことに危機感を持ったのが、赤竜が翼を羽ばたかせて暴れる。
「ギュアァァァァァァァア!!!!」
「〈硬化〉〈爆破〉〈雷撃〉」
立て続けに魔法を放つ。距離が近くなっただろうか、魔法が着弾し始めた。
だが、俺の体の腐食も進んでいく。だいぶ動きが鈍くなっている感覚。
「これくらいっ……!」
ふっと笑う。早く浄化の魔法を使うべきだろう。だがあれは戦闘中に使うには難しいくらい集中がいる。
「その前に倒してしまえばいいだけだ」
硬化の魔法が当たったところから赤竜の動きが鈍くなっていく。そして……
「届け—————————!」
床を蹴り心臓に向かって跳ぶ。赤く光る心臓、その一点に切っ先を向ける。
突き刺すと同時に魔法を展開した。
「〈
「ギャアァァァァァァァァァァア!!!!!」
空間を震わせるほどの絶叫。
パキパキパキ。
セイバを中心に赤竜が凍りつく。綺麗な氷華が広がり赤竜が動きを止める。
そして……
「〈爆破〉」
ドゴォンンンンンンンン!!!!!!!1
大きな音を立てて凍りついた赤竜が爆発した。同時にすべての魔物が一瞬で消え去る。
終わったのだ。俺たちの戦いが。迷宮の攻略が。
「何が……」
「ワゥン」
リリアナとハクの声が聞こえてきた。無事だったことに安堵しながら振り向く。
「赤竜を倒したからだろう」
「倒した、の……?」
「あぁ、倒した」
リリアナの呆然とした声に俺は笑みを浮かべ頷く。
「ワンワン!」
ハクガ駆け寄ってくる。
「ハク、無事でよかった。頑張ったな」
「ワンッ!」
撫でると尻尾を振って喜ぶ。そんなハクの様子に自然と笑みが浮かんだ。
「さて、この迷宮を浄化しないとな」
「浄化?」
俺の言葉にリリアナが首をかしげる。
「あぁ、赤竜を倒したことで漆黒の靄は消えて魔物も消えたが、この迷宮全体で魔物が増えていたと言うことは迷宮全体が靄に侵されていたということだろう。浄化しないとまた同じことが起きかねない」
「なるほどね。でもこの迷宮全体なんて……」
「大丈夫だ」
俺は目を閉じ集中する。ここまで大規模に使うのは初めてだが今の俺ならできる。その自信があった。
含有魔力量は最大に設定。魔法式展開。
「はっ……」
巨大な魔法式が今いる空間を超え広がっていく。その様子にリリアナが息を呑んだ。
「〈
俺の言葉とともに魔法式が強い光を放つ。そして……
「綺麗……」
空間全体に光が降り注いだ。きっと俺たちが見えないところでも同じことが起こっているだろう。
俺たちは戦闘の終わりとは思えない幻想的な様子にただただ魅入ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます