25. 元執事、仲間ができる

「赤竜のコアを見せてくれないか?」

「ああ、もちろんだ」

「あ、赤竜の前に魔鬼王キングオーガから頼む」


 バルドの言葉に俺はアイテムボックスから魔鬼王のコアを取り出す。


「これだ」

「ほぉ……かなり大きいな」


 バルドが感嘆の声を漏らす。


「あぁ、俺が以前見た魔鬼王のコアより大きい」

「見たことがあるのか。確かに平均より大きいな。よくこの大きさのコアを持つ魔鬼王を二人で……」

「ワンッ!」

「おっと、ハクもいたな。よく三人で倒せたな」


 ハクの吠え声にバルドが笑みを浮かべて訂正する。ただの子犬に見えるだろうが、迷宮に連れて行っている時点で何か普通の子犬とは違うと気づいているのかもしれない。


「まぁ、凶暴化したのを一人で倒したこともあったし、リリアナもハクもいたからな」

「お前はほんと何者なんだよ……」


 最近よく聞かれている気がする。そんなに俺は違和感あるのだろうか。


「違和感だらけだ」

「勝手に表情を読むな」

「あなたわかりやすいわよ?」

「……」


 最近は執事モードが抜けていたからポーカーフェイスを忘れていたようだ。これからは気を引き締めていこう。


「まぁそれは置いといて」


 バルドが顔を引き締める。その雰囲気に、俺とリリアナも真面目な表情になる。

 そう、本題は……


「赤竜のコアは……」

「これだ」

「っ……!?」


 アイテムボックスから赤竜のコアを取り出すとバルドが息を呑んだ。想定していたよりもはるかに凄かったのだろう。言葉を失っている。


 そう、赤竜のコアは魔鬼王のコアの何十倍も大きく、しかも燃えるような赤い輝きを放っていた。


「これはまた……」

「あぁ、SSランクの魔物のコアの中でも最上位に位置するレベルだろうな」

「その通りだ。こんなコアは見たことない……!」


 バルドが目を輝かせてコアを様々な角度から観察する。


 これがドロップした時は俺もリリアナも声を失ったものだ。ハクですら固まっていた。


 しばらくそうしていると、バルドがようやく落ち着く。


「こほん。すまない、あまりに素晴らしくて興奮してしまった」

「いや、大丈夫だ」

「さすがにこのコアはね……」


 俺たち三人は沈黙する。既に一度見ていた俺たちですら、このコアには衝撃を受けてしまうのだ。


 ようやく立ち直った時、バルドは真っ先に頭を抱えた。


「こんなコア、市場に流すわけにはいかないぞ……」

「そうだな。そもそも値がつけられないだろう」

「しかも、このコアの存在が知られればあなたは闇ギルドから狙われるでしょうしね」


 リリアナの言葉に俺はため息をつく。闇ギルド……裏社会のまとめ役で犯罪者集団の総称だ。そいつらに狙われたところで死ぬとは思わないが、めんどいことには変わりない。


「これは王家に献上するのが一番だろうな」

「それだけは困るんだが」


 俺の言葉にバルドが首をかしげる。


「何故だ?」

「それは……」


 俺が口ごもると、リリアナが鋭い視線を投げかけてきた。

 ここは、話すしかなさそうだな……口止めできるといいが。

 俺は意を決して口を開いた。


「俺はもともと、第一王女殿下専属の執事だったんだ」

「はっ?」

「やっぱり……」


 バルドは唖然として、リリアナはそうだと思った、という表情になった。

 俺はこれまでのことを全て話した。


 左遷されそうになったこと。

 それで辞表を叩きつけてきたこと。

 冒険者に元から憧れていて冒険者になったこと。


 全部話し終えた時、二人は呆れた表情を浮かべていた。


「下手したら罪人として指名手配されるところだったんじゃねーか?」

「あなた……大胆すぎるわ」

「まぁ、逃げられるだろう、と」

「バカか」

「バカね」


 二人に言われて俺は黙り込む。


 しょうがないと思うんだ、国境守備隊は地獄なんだから……!


 心の中で叫ぶ。


「てことは食事をご馳走した時の私の予想は当たってたってわけね」

「ああ、そうだ」

「嘘ついたのね。悲しいわ……」


 急に泣き真似を始めるリリアナ。


「下手な泣き真似はやめろ」

「ひどい」


 俺の言葉に一瞬でやめて今度は頬を膨らませた。


「お詫びを所望するわ」

「例えば?」

「あとで私のお願いを一つ聞いてもらう」


 どんなお願いが来るか予想できる気がするんだが……

 俺がジト目を向けるとリリアナが気まずそうにそっぽを向く。


「はぁ、なんでそんなに俺とパーティー組みたいんだよ」

「やっぱりバレてた……」

「当たり前だろ、一番最初にそう言ってきたんだから」


 今度は俺が呆れる番だった。てかなんでパーティーにこだわってるんだ。


「だって、あなたならパーティー組んでも私を置いていかないだろうから……」

「……」


 リリアナの言葉に俺は思わず黙り込んだ。四階層での言葉を思い出す。


『足がなくなって働けなくなった父も、腕をなくして冒険者をやめた仲間も、みんな、みんな治ったってこと……!? 運が悪かったって、あなたに出会えなくて運が悪かったってこと……!?』


 もしかして……


「こいつはパーティー組んだ仲間にことごとく死なれてきたんだよ」

「っ!」


 バルドが頭をガシガシとかきむしりながら言葉を発した。


「なるほどな……で、俺ならお前を置いて死なないだろう、と?」

「えぇ……一人で冒険者を続けるのは、一度パーティーの温かみを知ってしまうと寂しいのよね、でも死ぬのが怖くて今までパーティーを組めなかった……。でも、あなたなら私を置いて死んだりしないでしょ?」


 すがるような眼差しを向けて来る。なぜこんなにも俺のことを信用しているのかわからない。

 俺の様子にバルドが聞いてくる。


「そこまで仲良いってことはリリアナの魔法についても知ってるんだろ?」

「魅了魔法のことか?」

「やっぱり知ってたか」


 バルドの様子に違和感を覚える。


「ん? どういうことだ? ただ好かれたくて発動してるわけじゃないのか?」

「はっ? もしかして……」

「何も説明してないわよ。ただ魔法を見抜かれただけだもの」


 リリアナの言葉にバルドが口をあんぐり開ける。


「まず説明してからパーティーに誘えよ……」

「別にいいじゃない、先に見抜かれたのだし。フェールには効かないんだもの」

「はぁ……そりゃ、パーティー拒むに決まってんだろ……」


 バルドが深いため息をつく。

 そんなにため息ばかりついてると幸せが逃げるぞ……


 俺のそんな思考を感じ取ったわけではないだろうが、バルドがこっちを見る。


「……リリアナの魅了魔法はこいつにはどうしようもないんだ」

「と、言うと?」

「勝手に発動状態になってしまうんだよ、なぜかわからないけどな」


 バルドの言葉に腑に落ちる。


「だから俺の前でも魔法を使いっぱなしだったのか」

「そうよ。私だって止めれるものなら止めだいけどできないんだもの。魔力が勝手に消費される以外はデメリットがないから良かったけど……」


 リリアナが俯く。その様子に、最初の時にひどいことを言ってしまったと後悔の念が沸き起こってくる。


 俺はため息をつくしかなかった。こんなの断れるわけない。


「わかったから。パーティーになってやる」

「ほんと!?」

「ああ。あと、魔法が発動しっぱなしになるのは魔力の扱いが下手だからだ。だから魔力の扱い方も教えてやる」


「「っ!?」」


 俺の言葉に二人が目を見開く。


「ど、どういうこと?」

「さっと感知したところ、お前の魔力は常に外に向かってて、放出されっぱなしになっているんだ。だから魔力の扱いさえ学べば魔法は止められるはず」

「あなた凄いわね……」

「規格外、って言葉がぴったりだな」


 俺の言葉に二人が感心したように、いや、半ば呆れたような、諦めたような声を漏らした。

 俺は気にしたら負けと思ってスルーする。


「で、どうするんだ? 俺に教わるのか?」

「教わりたいわ!」

「わかった。じゃあ、そういうことで」

「ありがとう!」


 俺の言葉にリリアナが満面の笑みを浮かべる。バルドもその様子を見て笑みを浮かべた。


「そしたらリリアナの名前で王家にコアを献上すればいいんじゃないか? そうすればお前の名前を出さずに報酬が受け取れるはずだ」


 バルトの言葉に俺はなるほどと大きく頷く。


「その手があったか。リリアナ、いいか?」

「えぇ、あなたがいいなら私は大丈夫よ」


 これで全てが解決した。パーティー組んでよかったかもしれないな……


「じゃあ赤竜のコアは王家にギルドから献上しておく。魔鬼王は金貨二十枚でギルドが買い取ってもいいか?」

「リリアナが決めてくれ。これはお前のだ」

「でも……」

「いいから。とりあえずお前が受け取っておけ」


 四階層で言った言葉を覆すつもりはない。これは、腕を食いちぎられたのに怯まずに戦ったリリアナがもらうべきだ。


「え、っと、じゃあそれで、金貨二十枚で買い取ってちょうだい」


 リリアナの言葉にバルドが笑みを浮かべる。金貨二十枚は魔鬼王のコアに出す額でもないんだが、ギルドにとってはそれだけ欲しかったものということだろう。


「助かる。そうしたら少し待っててくれ、一緒にフェールのランクアップの手続きもしてくるから」

「ランクアップ?」


 初耳だ。そういえばどうしたらランクアップできるのか聞いてなかった。


「ああ。ランクアップはこなした依頼数と売ったコアや、迷宮以外の魔物なら素材の数で査定されて決まるんだが、さすがにお前をGランクにしたままなのはギルドとして損失だからな。特別措置でCランクまで上げてやる」

「ああ、助かる」

「今回だけだから、適当な時に依頼は受けるようにしてくれ。じゃないとこれ以上はランクアップさせられないから。ランクアップすれば迷宮内の依頼も受けれるようになって、より報酬が出るからな。今のままだと報酬なし、コアを換金したお金のみで生活していくことになっちまうぞ」

「わかった。ご忠告ありがとう」


 俺の言葉に頷くと、バルドは部屋から出て行った。

 

 しかし、すぐ戻ってくると青銅のギルドカードを投げ渡してくる。


「ギルドカードだ」

「早いな。ありがとう」

「あと、これは魔鬼王のコアの代金だ。確認してくれ」


 リリアナの前に麻袋が置かれた。リリアナが中身を確かめる。


「確かに金貨二十枚。受け取ったわ」

「ああ」

「それじゃあ、俺たちはこれで」


 リリアナが麻袋をしまったのを見て立ち上がる。


魔物大氾濫スタンピードが起きそうだった件に関しては俺の方でしっかり調べておく。だいぶきな臭いからな」

「ああ、頼んだ」

「おう。今回は助かった。感謝する」

「これくらいどうってことない」

「また会いましょう」


 バルドに別れを告げると、俺たちはそのままギルドを後にしたのだった。




 ***




 バルドと別れてギルドを出ると、もう夜になっていた。だいぶ長居してしまったらしい。

 ホテルに向かいながらリリアナが言葉を発する。


「なんか、いろいろなことがあったわね……」

「あぁ、本当に。お前もめちゃくちゃだし」

「あなたに言われたくないわ」


 俺らは笑い合う。

 初めて出会った時は、まさかこんな風に笑いあえるようになるなんて思ってもみなかったから、不思議な感じがした。


「フェール、これからよろしくね」

「あぁ、こちらこそよろしく」


 差し出された手を握る。と。


「ワンワンッ」


 俺たちの様子を見て、「僕も忘れないで!」と言うよう腕の中のハクが吠えた。思わず笑みがこぼれる。


「忘れてないから大丈夫だ。ハクも、改めてよろしくな」

「ワン!」

「これからよろしくね、ハク」

「ワフッ!」


 星空の下を三人で並んで歩く。


 こうして俺の初めての迷宮攻略が幕を下ろしたのだった。




 ーーーーーーーー




 ここまで読んで下さりありがとうございました! 1章完結です!

 この後、番外編を2話更新して、その後2章開始になります。まだまだフェールの迷宮攻略は続きますので、ぜひ読んでいただけたら幸いです。


 また、この作品はカクヨムコンテストに出すために連載を開始したのですが、更新速度が早く、追いつかない、という声を多く頂いたためコンテストから取り下げ、しばらくは1日2話更新で進めていくことにします。本当に申し訳ありません。

 コンテストから取り下げたからといって連載を停止する訳ではありませんのでご安心ください。


 今後とも元最強執事を、そして美原風香を、どうぞよろしくお願い致します!




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