16. 元執事、攻略を開始する

「そろそろ迷宮の攻略をしなきゃな」

「ワンッ!」


 俺たちは迷宮の前に立っていた。隣にはハクもいて尻尾をピンと立てて

 真剣な表情をしている。


「ハクのおかげで苦戦してた部分がどうにかなりそうだ」

「ワン!」


 ハクがどうだ! と言わんばかりに吠えるのを見て思わず笑みが浮かぶ。


 なぜどうにかなりそうかというと、話は今朝にさかのぼる。




 ***




 昨日はあのまま寝落ちして気がついたら朝だった。ハクも腕の中で寝ていて、温かな体温のおかげで毛布なしでも寝れたようだった。


「計画を立てようとしていたのになぁ……」

「わふ……?」

「あ、起こしちゃったか。ハクおはよう」

「わん……」


 俺の声にハクが起きる。寝起きの目が開ききっていない様子がまた可愛いんだよなぁ……

 もふもふしながら思考を巡らせる。と。


「ハクはさ、迷宮の罠の位置とかわかったりする?」

「わふ?」


 昨日ハクが壁を見つけたことを思い出したのだ。

 もしかしたらハクがいれば……


「昨日みたいに俺には見えないものが見えてたり、感じ取れてたりするのかと思って」

「わん!」


 ハクが肯定するように吠える。

 まじか……ハクすげぇ……


 俺は思わず立ち上がって床に膝をついていた。ちなみにハクは椅子の上。


「ハク様、お願いがございます」

「わふ?」


 急な俺の態度にハクが戸惑いの声を漏らす。が、俺はそのまま言葉を続ける。


「もし罠を見つけたら俺に教えてくださいませんか?」

「わん!」

「ありがとうございます!」


 俺の言葉に少しドヤ顔で吠えるハク。それに嬉しそうにお礼を言う俺。


 ……とんだ茶番である。


「フェール様、起きておられますか?」


 唐突な声にビクッとする俺……とハク。まだ寝起きで頭がぼーっとしてたらしい。感知系の魔法を全部切っていたとは……


 俺はすっと立ち上がると扉を開ける。


「おはよう、ミホ。どうした?」

「おはようございます。昨夜レストランにいらっしゃらなかったので心配になりまして。特に何もなかったら良いのですが……」

「あぁ……特に何もないぞ、昨日はすぐに寝てしまっただけだ」


 そういえば寝ちゃったせいで何も食べていなかった。

 そのことを思い出したからだろうか、俺のお腹が鳴る。


「……」

「ふふっ、朝食のご用意ができておりますから、レストランにお越しくださいね」


 ミホの温かい眼差しに思わず顔に熱くなる。


「……ありがとう」

「いえいえ。では、ごゆっくり」


 ミホがいなくなると俺は恥ずかしいのを誤魔化したくてハクを撫でまくったのだった。




 ***




「なんで関係ないことまで思い出してるんだ……」

「ワン?」

「い、いや、なんでもない」


 俺は今朝のことを思い出してまた顔が熱くなっていた。なんで今から迷宮攻略をしようという時にこんなことを考えているんだ。


 俺は深呼吸して気持ちを落ち着かせると、真剣な眼差しで迷宮を見据える。


「ハク、攻略しような」

「ワン!」


 俺たちは迷宮に踏み入った。


 転移陣を使って三階層にいく。着いた時、俺は思わず声を失った。

 眼に映るのはいっぱいの


 砂。砂。砂。


 そう、そこに広がっていたのは……


「砂漠……」

「ワンッ!」


 見渡す限り広がる砂漠は二階層で見た草原以上に俺に衝撃を与えた。


「迷宮……なんでもありかよ」

「ワンワンッ」


 転移陣を出たばかりだというのにすでに暑かった。なぜかある太陽の光が俺たちに燦々と降り注ぐ。


「これはやばいな……スーツの中が暑いぞ……」

「ハァハァ……」


 ハクも暑いのか息を荒げている。それにハクは俺と違って靴を履いておらず、足裏から直接熱を受け取っていた。さっと抱き上げる。


「あんまり魔力を使いたくないがしょうがないな」


 俺は即座に決心すると魔法式を展開する。


「〈冷却〉〈断熱〉〈保冷〉」

「ワンッ!」

「だいぶ涼しくなったな」


 俺らを魔法式で囲み、その空間だけ温度を下げる。それは抜群の効果を発揮した。

 熱を感じなくなり、涼しく快適になる。ハクも尻尾を振っていた。


「ふぅ、結構魔力を使うから早めにここから抜け出そうか」

「ワン!」

「んじゃあ、飛ぶぞ! 〈飛翔〉」

「ワフッ!?」


 体が浮き上がる。急な出来事に固まったハクを撫でると、俺は目をこらす。


「あっちか」

「ワフッ?」

「転移陣が見えてな」

「ワン!」


 だいぶ遠くだが、転移陣の光が見える。それを頼りに進めば上空からならすぐ着くはずだ。

 三階層を戦闘なしで終えられればだいぶ楽に進めるが……


「嫌な予感がするから、気をつけていこう」

「ワンッ」


 この時の俺はこの予感が最悪な形で当たるとは思っていなかった……



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