15. 元執事、名前をつける

「フィルナ、なんか疲れてたな……」


 ギルドを出た俺はホテルに向かって歩いていた。ちなみにコアの代金は金貨一枚に。

 それを受け取った時のフィルナの顔には


「こいつまたやりやがった」


 とはっきり書いていた。


「二階層の攻略、だいぶ時間かかったと思うんだけどな……」

「ワンッ! ワフッ」


 神狼がわかっているのかわかっていないのか、同意するように吠えた。


「そういえば、お前に名前つけないとな……」

「ワフッ?」

「いつまでもお前とか呼ぶわけにいかないからな」

「ワンッ!」


 神狼が嬉しそうに吠えた。

 神狼のもふもふな毛並みを撫でながら考える。


「うーん、フェン、リル、シロ……は単純すぎるな。ハク。あ、ハクなんてどうだ?」

「ワンッ!」

「お、気に入ったか?」

「ワフッ!」


 ハクいう名前が気に入ったのか尻尾をブンブン振る。

 毛が顔にかすめて痒い。


「わかったわかった、落ち着けって」

「クゥン」


 俺の言葉にシュンとする。怒ってないのに、上目遣いで俺のことを伺うハクに可愛いしか出てこない。


「ほんとかわいいなぁ……今日からよろしくな、ハク」

「ワンッ!」


 俺の言葉に機嫌良くなるハク。コロコロ変わる表情に笑みが浮かぶ。


「とりあえず、ホテル戻ったらミホとリュウイさんに聞かないとだな……」

「ワフッ?」

「ダメって言われたらどっか違う場所に移るしかないよなぁ……てかそろそろホテル変えないとか。ずっと払ってもらうわけにはいかないからな」

「ワンッ!」


 ハクと連れ立って街中を歩くと人目をひく。


「あの子犬可愛いわね……」

「ころころしてて触り心地良さそう」

「お母さん、あの子欲しい!」


 いやあげないよ? 

 小さな女の子の言葉に内心で反射的に返しながら歩くこと数分。俺たちはホテルに着いた。


「フェール様おかえりなさいませ」

「ただいま、ミホ。子犬を面倒見たいんだけど……」

「わぁ、可愛いですね!」


 俺の言葉が終わる前に、ミホの目がハクに釘付けになる。

 あ、ここにも子犬好きが……


「あ、すみません、話を遮ってしまって」

「いや、大丈夫だ。気持ちはわかる」


 笑顔を浮かべると、ミホはほっと息をついた。


「えーっと、この子を部屋でお世話したい、ということであっていますか?」

「あぁ、やっぱりダメか……?」

「うーん……」


 ミホが考え込む。なぜか緊張しながらジャッジを待つ。

 そして……


「二つ、守っていただければ問題ないです」

「二つ?」

「はい、一つ目は部屋から出たら絶対抱っこして歩くこと。二つ目はレストランには入れないことです」

「なるほど」

「この二点さえ守っていただければ問題ありません」

「全く問題ない」


 むしろ当たり前だろう。本当にそれだけでいいのだろうか。

 俺の表情から何を言いたいか読み取ったのか、ミホが笑顔を浮かべる。


「お客様の要望にお応えするのが当ホテルの売りですから!」

「助かる。ありがとう」


 俺はミホと別れると部屋に向かった。と。


「ホテルの宣伝にもなるものね……」


 ミホのつぶやきを拾い、思わず苦笑する。

 確かにハクがいれば宣伝になるだろう、完全予約制な時点で宣伝する必要があるのかわからないが。


「ハク、あんまり大きな声で吠えないようにな。他の客の迷惑になってしまうから」

「わふ」

「いい子だな」


 小さい声で鳴くハクの頭を撫でる。


「俺たちの部屋はここだ。〈浄化〉」


 ハクの体を綺麗にしてから床に下ろす。キョロキョロしている様子にとっても癒される。


「とりあえず、明日からの計画を立てなきゃな」

「わん?」

「早めにあの迷宮を攻略したいんだが、二階層で手こずっているようではこの先心配だなと思ってな」

「わん」


 納得したように小さく鳴くと、椅子に座った俺の膝にジャンプして飛び乗ってくる。


「あーあったかい……」


 抱っこして抱きしめるとハクの体温がダイレクトに伝わってくる。


「あ、待って、寝そう……」


 ハクの暖かな体温と触り心地の良い毛並みに眠気を誘われて、俺は眠ってしまったのだった。



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