14. 元執事、子犬の正体を知る
「思ったんだが、こいつは
迷宮の魔物が外に溢れ出たことはある。だがそれは異常現象に分類されるもので、普段は起こり得ないこと。
この子犬が外に出れるかはわからない。
「そもそも魔物に見えないんだよなぁ、魔力もってるから魔物なのは確かだけどただの犬にしか見えない……」
「ワフゥ!」
元気よく吠えると俺の顔を舐めてくる。
くすぐったいが可愛い。
「とりあえず〈鑑定〉」
名前:
状態:子供
「はっ?」
待て待て待て。
「神狼って……あの神狼?」
「ワフッ」
つぶらな瞳で見つめてくる子犬改め神狼。
「え、なんで神狼がダンジョンにいるの!?」
「ワン?」
首を傾げてキョトンとしている。可愛いなぁ……
「って違う違う! 魔物じゃないじゃん! ダンジョンいるのおかしいでしょ! てかそもそも実在したの!?」
「ワンッ」
「あ、これはわかった気がする、当たり前じゃんって言われた気がする」
「ワフッワン!」
俺は思わず天井を仰いだ。
神狼とは神が遣わしたとされる聖なる狼のことを言う。遥か昔、それこそ神話の時代から今に至るまで神狼が崇められないことはなかった。
だが、実在したという話は聞かない。伝説とされ、神話やおとぎ話の中にしかいない存在。
そんな神狼が目の前にいる。
俺はその事実に呆然とするしかない。
「どうしたらいいかわからないんだが……てか神狼なら迷宮から出れるよなぁ。そもそもなぜここにいるのかの方が不思議だ」
「クゥン」
俺の言葉に尻尾を垂らす神狼。耳まで伏せていて本当に子犬にしか見えないって……
「別にお前を責めてるわけじゃない。ただ、迷宮は謎がいっぱいだなと思っただけだ」
「ワン?」
「本当だよ」
「ワンッ」
首を傾げ、それから俺の言葉に嬉しそうにじゃれついてくる。
「神狼って子供の時はこんな感じなのか……てか会話が成立し始めてるし」
「ワンッワンッ」
とりあえず色々思うところはあるものの、こいつが迷宮から出れることはわかったからよしとしよう。
「じゃーそろそろ出るか」
「ワンッ!」
俺は神狼を抱えると転移陣に乗った。
***
「結構長い時間潜っていたのか。もう夕方だ」
迷宮から出てギルドに向かうともう日が傾き、あたりはオレンジ色に染まっていた。
「二階層の攻略に手こずってるんじゃ六階層なんて無理だよな。明日からはもう少し気を引き締めていこう」
「ワン!」
「お前もくるか?」
「ワンワン!」
「わかったわかった」
むしろなんで連れてかないんだ、くらいの雰囲気に苦笑する。
「さて、ギルドに入るからその間は吠えないでくれよ?」
「ワンッ!」
神狼は小さく鳴くと俺の腕の中で丸まった。
「よし、入るか」
俺はギルドの扉を開けた。
「フェール様、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「今日もコアの換金を頼む」
「かしこまりました」
いつも通りフィルナのところに行くと俺は受付のデスクにコアを無造作に放り出す。
だがその間、フィルナの目は神狼に釘付けに。
「フェール様、その子犬……」
「あぁ、迷宮で拾ったんだ。なんであそこにいたのかわからないが」
「冒険者が連れて行ったんでしょうか……でもこんな子犬……」
神狼とはさすがに言えない。そんなことしたら大混乱になるし、最悪王宮に連絡がいって俺の居場所もバレてしまう。
俺の言葉にフィルナが顔をしかめる。
「襲われそうになっていたところを助けてな。助けられてよかった」
「えぇ、こんな子犬が魔物の餌食になったら悲しすぎます! フェール様はその子をどうするのですか?」
「せっかくだし面倒を見ようと思ってな。子犬好きだし」
俺の言葉にフィルナの表情が明るくなる。
「それならよかったです! あ、あの……」
「うん?」
「よかったら泊まっているところに伺ってもよろしいでしょうか……?」
もじもじとしながら聞いてきた。相当子犬が好きなようだ。
「ああ、構わないぞ」
「ほんとですか!?」
「あぁ、チェラートに泊まってるから空いてる時にでも。ただ日中は迷宮にこもってるから来てもいないが」
「ありがとうございます! あとで伺います!」
「お、おう」
フィルナの興奮した様子に少し気圧される。
俺の様子に気づいたフィルナは恥ずかしそうに俯き、デスクに目を落とす。
「す、すみません。コアの換金でしたね、すぐ……っ!?」
「ん? どした?」
なぜか目を見開いて固まるフィルナ。
ギギギ、と音が出そうな動きで顔を上げたフィルナは恐る恐るといった様子で言葉を発した。
「もしかして……二階層攻略しました……?」
「あぁ、攻略したが」
「……」
俺の言葉にフィルナはなぜか沈黙する。
そして……
「もういいです、あなたが規格外というのはよくわかりました。コアの換金して来ます……」
「え、ちょっ、お、おい!?」
「少々お待ちください……」
俺はなぜか疲れた様子で奥に行くフィルナを呆然と見送るしかなかった。
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