13. 元執事、子犬に感謝する
「さて、そろそろ、移動しないとだな」
子犬を抱えて木から飛び降りる。子犬を地面に下ろすと俺の足にじゃれついてきて微笑ましい。
コアを集めてアイテムボックスに入れる。
「お前も一緒についてくるかい?」
「ワンッ」
子犬は元気よくしっぽを振る。本当にかわいいなぁ……
「そうかそうか、一緒にくるか」
「ワンワンッ」
俺の周りを駆け回る子犬。小さな毛玉が転がってるような光景に笑みが浮かぶ。
「っと、これからどこに行けばいいんだろうか」
周りを見回すが、やはり見渡す限り草原である。ここからどうしろと。
俺の表情が曇ったのに気づいたのか、子犬が立ち止まってじーっと見てくる。
「ん? どうした?」
「ワフッ! ワン!」
「ちょっ、おい! どこに……!」
急に駆け出す子犬。驚くが、何か目的がある様子にとりあえずついていくことに。
「どこに向かってるんだ……?」
子犬の後ろを走りながら周りを見回すが、やはり特に何もない。
「ん? 何だこれ……」
走っていると違和感を感じて感覚を集中させる。
「壁、か……?」
子犬が向かう先に、何か薄くて硬い壁のようなものを感知する。
だが、どんなに目を凝らしても何も見えない。
「でも、こいつが目指している方角にちょうどそれがあるということは、こいつには見えているのか……?」
「ワンッ。ワフ!」
「お、おう、多分、わかってるってことだよな……?」
子犬の反応に思わず苦笑する。俺に犬の言葉がわかったら良かったんだが、さすがにわからない。
「犬の言葉がわかるようになる魔法も今度作るか」
「ワフワフッ」
「お前はこっちの言葉わかってるよ絶対」
「ワンッ!」
明らかに理解しているような反応。この子犬、ただの子犬じゃないんだろうか。
「まぁあとで鑑定すればいっか」
そんなことを呟いた時、急に子犬が何もないところで止まる。
「シャー!」
「いや、何もないところじゃないな」
そこはさっき俺が感知した薄い壁のようなものがあるとこだった。
「だがやっぱり何も見えない……結界、か?」
思い当たるのはそれだけだ。もしこの薄い壁のようなものが結界ならば、これを破ることで何か変わるかもしれない。
「よし、やるか」
「ワン!」
「おーお前も応援してくれるのか、ありがとう」
元気よく飛び跳ねる子犬をワシャワシャと撫でて、俺の後ろに運ぶ。
「さて、これで魔法に巻き込まれることはないよな。やるか」
俺は目をつぶって感知に集中する。そして魔法式を展開。
「〈爆破〉」
バンッ。
起動とともに魔法式が大規模な爆発を起こす。煙が俺の視界を覆った。
「ゲホッ。強すぎたか……?」
俺の言葉とともに煙が晴れていく。そして……
「はっ……?」
煙が完全に晴れた時、俺の目の前には草原はなかった。
「戻ってきた、のか……?」
そう、俺は草原に来る前にいた洞窟のような空間に戻ってきていた。
そして何より……
「転移陣……」
目の前には転移陣があり、二階層を攻略したことを知らせていた。
「待った、子犬はっ……」
「ワフ?」
俺が思わず振り返ると、俺が運んだ位置にそのままおすわりしていた。
「あ、お前も一緒にいたのか。よかった……」
「ワンワンッ、キュッ」
「てかあの爆破の音にもビビらないとか、お前だいぶ大物だな……」
「ワフッ」
尻尾をブンブン振って俺の手を舐める。
「とりあえず、お前のおかげで二階層を攻略できたみたいだ。ありがとう」
「ワンッ」
俺の言葉に得意げに吠える。あー癒される……
「さっきのは多分、結界というより空間を隔てている壁、みたいなものだったんだろうな」
だから、壁を壊したことで元の空間に戻れたんだろう。
「気づかなかったら一生あの草原でさまよう羽目になったかもしれないのか……こわっ」
俺は身震いしながら子犬を抱きしめたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます