12. 元執事、子犬を助ける
「魔物も襲ってくるようになったし、罠にも引っかかるようになったし、なんかホッとするな……」
うん、こいつ何言ってるんだ、っていう目で見ないで。さっきまで魔物が全然襲いかかってこなかったからむしろ安心できてしまうだけだ、うん。
「罠はシャレになんないけどな……」
まだ大きな罠には引っかかっていない。だが、壁に手をついたらレンガが奥に行って下から針山が出てきた時は本当にびびった……
「っとうわっ」
そんなことを考えていると早速罠に引っかかる。
って、おい!?
「水!?」
大量の水が上から降ってくる。
「どうしたらこうなるんだよ! 水とかどっから湧き出た!?」
大量すぎて回避のしようがない。
と、みるみるうちに腰くらいまで水が溜まる。
「泳ぐか」
魔法式を展開。
「〈水中呼吸〉」
起動すると水の中でも呼吸ができるようになった。ふぅ、とりあえずこれで死ぬことはないな。
水の中は別世界のような雰囲気が漂っていた。
「迷宮ってこんなに危険だったのか……急に水が降ってきたらそれこそパニック起こす奴も多いだろうし。あ、なんかきた」
水に流されてきたのか、大きな黒い物体とぶつかりそうになる。
「え、これってもしかして……」
それを避けて恐る恐る進行方向を見ると……黒い集団が流れてくるのが見えた。
「あれって……魔物、だよな……」
引きつった笑みしか出ない。
「迷宮ぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!」
水の中でくぐもった叫び声が響いた。
***
「ぷはっ、死ぬかと思った……」
水に流されながら魔物を避け、時々なんか襲いかかってくるパワフルなやつを倒し、気がついたら目の前には草原があった。
「今度迷宮が話しかけてきたら文句の一つくらい言おう、言ってもいいと思うんだこれは」
多分そんな機会ないな、と思いながら湖のような場所からゆっくり出る。びしょ濡れだったが、全身に魔法をかけて水気を取れば元どおりになった。
「これ、まだ二階層、なんだよな……?」
さっきまでいた地下のような雰囲気から一転、青空が広がりそよ風が吹く、外としか思えない空間が広がっていた。
「迷宮は謎だらけだな……」
これも人を引き寄せる一因なのかもしれない。
「さて、どうやってこの空間から抜け出せばいいんだろうか」
正直進む方向もわからないし、ここに罠があったり魔物がいたりするかもわからない。
「手詰まりになったな……」
穏やかな風を感じながら顔をしかめる。と。
「ん? なんだこの音」
遠くの方から何か音が聞こえてくる。
「……ゃ……ぁ……」
「動物の鳴き声?」
耳を澄ますがどうしても聞き取れない。
しょうがないから魔法式を展開する。
「〈感知・極〉」
常時展開している感知系の魔法のレベルをあげると……
「ギャオギャオ!」
「ギュルルルルルル!」
「クゥーンクゥーン……」
「いやいやいや、多すぎだろ。しかも子犬が囲まれてるし!?」
大量の魔物の叫び声を感知。同時に子犬の悲痛な鳴き声が。
俺は急いで叫び声が聞こえてきた方に向かった。
***
「この量であんな小さい子犬追いかけるとか魔物としてのプライドないのかよ……」
魔法を使って全速力で走って見た光景に、俺は呆れることしかできなかった。
大量の大小様々な魔物が一匹の真っ白な子犬を追いかけているのだ。
「弱肉強食の世界だろうけど、こんなに沢山の魔物で子犬を追いかけても腹を満たせるは一体か二体しかいないぞ……」
だんだん怒りが沸き起こってくる。俺、犬好きなんだよな。
「ふぅ、とりあえず子犬救助してっと」
走って子犬と魔物の間に入り込む。そして子犬を抱きかかえると真上にあった木に飛び乗った。
「クゥン……?」
「よしよし、もう怖くないからね……」
あ、やばい、めっちゃ気持ちいい。俺が撫でているはずなのに、ほわほわした毛並みに優しく撫でられているような感覚がする。
「ギャッ!? グギャー!!!」
「ギュルルルルルルル!!!!」
「シャァァァァア!」
木を揺らされて下を見ると、大量の魔物が取り囲み、こちらに向かって吠えていた。
「うるさい」
俺の言葉に不穏な気配を感じ取ったのか、魔物の叫びが小さくなる。
「俺は子犬と戯れたいんだよっ」
魔法式を展開。
大量の魔物達は自分の周りをぐるぐる回る魔法式に戸惑った様子を見せる。
「〈雷撃〉」
「ギャッ!?」
「ギュルッ!?」
「シャァッ!?」
全ての魔物に小さな雷が落ちる。それも、心臓を貫くように、正確に。
「これでもう大丈夫だ」
「ワンッ」
「おーよしよし、可愛いなぁ……」
下でコアが大量にドロップしているのを無視して、子犬と戯れる。
つぶらな目とかやばい……
子犬に癒されていると、足首のあたりに血が滲んでいるのを見つけた。
「お前、怪我してたのか」
「クゥン……」
「ちょっと見せて」
そっと触ると体をビクッとさせる。魔物の爪にやられたのか、肉がえぐられたような状態になっていた。
「ごめんな、気づくの遅くなって……」
「クゥン、ワンッ!」
大丈夫、というように俺の手に頭を擦り付けてくる。いい子すぎる……!
俺は片手で撫でながら魔法式を展開。
「〈浄化〉〈治癒〉」
起動とともに緑色の光が子犬に降りかかる。
光が治った時、子犬の体は綺麗になり足の傷も治っていた。
「よし、これで大丈夫だね」
「ワンッ、ワンッ」
見るからに元気になった子犬の様子に、俺は笑みを浮かべたのだった。
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