11. 元執事、再び迷宮へ
「さて、昨日の魔法を試してみるか!」
翌日、俺は再び迷宮に来ていた。入り口のそばにある転移陣に立つと二階層に送られる。
この転移陣の仕組みもよくわからない、どうやって人を識別して目的地に送り込んでいるのだろうか。
ちなみに攻略した階層はいつでも行けるらしい。便利なものだ。
「体内に擬似コア生成……できたとは思うが、これで罠が避けれなかったら昨日の努力は全部無駄になるな」
街の門が閉まるギリギリまで粘って創った魔法が使えなかったら誰だってショックだろう。使えてくれよ……!
願いながら魔法式を展開する。
「〈擬似コア生成〉」
起動とともに体内に何かが現れた感覚がある。
「この異物感……やっぱ気持ち悪いなぁ……」
魔物のコアを真似したが、体に害を与えないように調節はしている。大丈夫なはずだ。
正直再現するのめっちゃ難しかった……
「よしっ、これでサクッと攻略しちゃいますか!」
そんな簡単にいかないのはわかっている。だが、罠に引っかからないのは重要だ。
……これで罠に引っかかったらどうしよ。
「そんな怖がってもしょうがない。いくか!」
俺は二階層の攻略を開始した。
***
「何も現れない……?」
数十分後、俺は首を傾げていた。攻略を開始してから今の今まで、何も起こっていなかった。
「罠に引っかかっていないのは魔法のおかげだとしても、魔物に遭遇していないのはおかしい」
何か、嫌な予感がする。
周りを見回す。そして……
「待て、俺はなぜここにいるんだ?」
そう、俺はなぜか一番最初と同じところにいた。すぐ後ろには転移陣があり、疑いようもなく一番最初の場所である事実を俺に突きつける。
「ずっと同じところをぐるぐる回っていた……? いや、他に道はないから回って来たなんてないはずだ」
俺は必死に頭を働かせる。
混乱するな。
パニックを起こすな。
落ち着いて考えるんだ。
「迷宮が意思を持って俺をここに戻した……?」
突拍子も無い考えだが、なぜかしっくりくる。
と、その時だった。
『貴様ハ人間、カ?』
「っ!?」
突如頭の中に響いてくる声。俺は警戒して辺りを見回すが、声の主らしきものの影は見えない。
『探シテモ無駄ダ。私ハ
「迷宮……」
『サテ、貴様ノ疑問ニ答エタノダカラ貴様モ私ノ疑問ニ答エタマエ。貴様ハ人間、カ?』
「あぁ、人間だが」
俺は落ち着いて答える。非現実的な状況すぎてむしろ落ち着いた。
想定外の事態が起きた時に落ち着けない執事など、使い物にならないしな。
『ソノ、コア、ハドウシタ?』
「魔法で俺が創った」
『ホォ……』
なぜか感心したような声を漏らす。なんか人間味強いな。
『遥カ昔、貴様ト同ジヨウニ魔法ノ才ニ恵マレタ者ガイタナ……』
「それが?」
『貴様ト縁ガアル者カト思ッテナ』
「俺は孤児だ。縁者など知らない」
『ソウカ……』
黙り込む迷宮。そもそもなぜ迷宮は話しかけて来たんだ。
『ソノ、コア、ハ迷宮内デハ使用スルナ』
「なぜ?」
『貴様ノ魔力量ガ多スギテ魔物ガ予想外ノ動キヲシテシマウ』
「そうなのか。それは確かに他の冒険者にとって危険極まりないな」
『貴様ナラ罠ニ引ッカカッタトコロデ死ヌコトハナイ。心配スルナ』
なぜ迷宮が助言をしてくるのか。意味のわからない状況に首をかしげるしかない。
「本当なら助かるが、迷宮がそれを俺に教えるメリットはなんだ?」
『……貴様ナラ我ラ迷宮ヲ解放シテクレルダロウ……頼ンダゾ、若キ探求者ヨ、我ラヲ解放シテクレ……』
遠のいていく声。いやちょっと待て!?
「ちょっ、おい! なんだよ解放って!? おい、答えろ!」
だが、俺の問いに声が返ってくることはなかった。
「いやわからなすぎるだろ……なんでここにいるか教えてくれなかったし」
頭をガシガシと掻く。こんなに苛立ったのは初めてだった。
「同じように魔法の才に恵まれた者、か……」
孤児として育った俺に縁者はいない。それに魔法の才に恵まれていてもまだまだ弱い。
だが、迷宮が言っていたことが本当ならもしかしたら……
「って何を考えてるんだ俺は」
もし縁者がいたとしても関係ない。俺は昔も今も、そしてこれからも一人だ。
「とりあえずコアを取り除くか……あーあ、無駄になってしまったな……」
落胆しながら魔法を解除する。
「まぁでも、罠に引っかかっても死なないって言われたのは少し安心できるな。迷宮の言葉を完全に信じるわけにはいかないけど」
だが、とりあえず迷宮に意思があることはわかった。
それだけでも収穫だ。
「さて、とりあえず進むか。今度こそここに戻ってこないといいんだが」
多分ここに戻したのは迷宮の意思だったのだろう。
なぜか根拠のない自信があった。
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