信じられない・コト
車は何とか、トンネルを抜けた。後続車は白いライトバンだった。老女が運転していたようにみえたが、追い抜きざまにこちらを向いて不気味ににやりと笑っていた。ハザードランプをつけて山あいの路肩に電気自動車を停止させて御厨は息をのんでルームミラーで自分の姿を確認した。
「あ、まずい。俺じゃねー。この美人、やばいな」
隣にいた、そう、過去形になってしまうが相棒は飛び切りの美人になっている。
「あの、サイドミラーを見てもらっていいですか?」
「ああ」
恐ろしいけれど、事実を知ることがまずもって最優先なのだ。
鏡は嘘をつかない。
そこには柴咲コウと吉高由里子が写っている。
お互いに呆然として顔を見合わせる。
そうか、このトンネルに問題があるのではないか?
違う違う、この事件を扱うことが間違いでこれは呪いなのではないだろうか?
御厨は自分の上着のポケットから手帳を出した、警察手帳には御厨遥巡査部長と書かれている。自分の名前は悠輝(はるき)だった。
「まさか」
「俺も、女になっとる。戸越恵子だって。あははははははははははははっはは」
少しおかしくなってしまったのかもしれない。
自制心が外れていく音が心と頭の中で聞こえる。
「戸越さん、しっかりしてください。このトンネルを戻ったらいいんじゃないでしょうか」
「あほか? そんな単純な問題じゃないんだよ。だったら先ほどのばあさんたちは本当は爺さんだったという根拠と証拠でもあるのかよ」
「いいえ、でもさっきと違うのはそれだけじゃないですか」
「じゃあ、調べに行くことはやめて戻るっていうのか? 片道二時間もかけてきてこんな女のナリをしてどうして署にもどるんだ? 家に帰れば妻も子供もいるんだぞ」
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