踊る時間軸
樹 亜希 (いつき あき)
しらんがな
「おい、どこよ。どこへむかっているんだ?」
「それがですね、あの事件の被害者の実家という事だけは確かなのですが。親が今も住んでいるのかは不明ですわ。それ以上のことは……。行ってみないとなんともわからないという感じなのです」
御厨刑事はバディである、戸越へと運転しながら返事をした。
「どんどん、山の方へ向かっていくけれども、それで合っているのか?」
「ナビではあの死体の由佳という男性の実家の住所なのですが、よしかと読むらしいですね。確かに住民票では男になっていますね。それを自称由香利と名乗っていたそうですわ」
「へえ、そう」戸越はつまらなそうに返事をした。
「なかなか興味のある事件かなと思ったら、男女が逆転しているだけだったんですよ」
「はあ? 男女が逆転? なんだ、それ」
「だから、男は女に性転換して、女の方は男に性転換しているカップルの自殺というか、殺されそうになって反撃したのでしょうか? 結局コールドケースになりそうなんですよね」
戸越刑事の頭のなかではもうすでに、話が破綻していた。刑事としては優秀でも頭が良いとか、悪いとかそういう事は関係がないのである。どちらかというと高校を卒業して警察学校に入ったので、そんなに頭脳明晰というタイプではない。
「だから急遽、その、なんだ、男の実家へ聞き込みに行くというか、遺骨の引き取りの話をするということなんやな?」
「はあ、そうなんですけどぉ」
「このトンネルの向こうが樫山町というところらしいです」
御厨の相棒は異動で他の署へ行ってしまったので、戸越と組むことになり、事件の初動の時から関わらない戸越にやる気がないことでこの二人が噛み合わないのでこの捜査がうまく進むようには思えなくて御厨はうんざりしていた。自分よりも年上で階級も上だがバディを組んで二か月経過したが、どうにもやりにくいと思っていた。
車がトンネルの中に入ると自動でライトがついて、黄色い光の中で緩く右に膨れるカーブを車は進む。
「それで……」
あれ? 女なんて車に乗っていたか?
戸越は思う。隣には御厨……。
「お前誰だ?」
そういう自分の声も女のそれ……。
隣には柴咲コウに似ている女がハンドルを握っている。
「戸越さん、俺頭がおかしくなったみたいデス。どうしよう、隣に吉高由里子が座っているように見えますが。なんで自分の声が、声が女なんだろう」
「知らんがな、とにかく車を止めろよ!!」
「できません、後続車が来ています、トンネルを出ないことにないと」
焦りと恐怖が入り混じる車内は不穏な空気で充満している。
ただトンネルに入っただけの車の中で異変は静かに、そして恐怖を伴い二人の男性刑事を追いつめる。まさにこの事件の被害者であり亡くなった二人の呪いというところだろうか。
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