第13話 衝撃の告白・・・
「エレジーちゃん、私・・・」
桜子の口から語られた衝撃の事実・・・
セックステレホンダイヤルQ2のバイトをしていた桜子。それは私も了承済みだったんだけれども、ある一人の常連客と深い関係になってしまったという事だった。
というのも、会社を経営していたAの甘言に惑わされ、生活面の面倒をみてもらう愛人になったという桜子。引っ越した高級住宅街のマンションも、Aに援助してもらっていた。
そして、私がいる時、深夜に来訪してきた人間。あれがAだったとは・・・
あの時にばれていれば、こんな事には・・・・
勿論、私と結婚しようと思っていたから、私が養成所を卒業する1年間だけと思っていた。それは、Aも了承済みだった。
しかし、そんなに都合よく、事は運ばなかった・・・
桜子と別れたくなかったAは、全てを私にバラすと桜子を脅してきたのだ。桜子はAから逃れる為、金が必要となり風俗(ホテトル)で体を売ってしまっていた。そのたびに、ヤクザや探偵を使って、桜子が引っ越す先に現れて精神的にも追い込まれていった。そして、また逃げる為に金が必要になり、嫌々体を売っていくうちに精神が病んでしまった。精神安定剤、睡眠薬を常用するようになり、自分でもどうしていいかわからなくなってしまったらしい。
私は女を殴った事はなかった。
しかし、今、桜子の衝撃の告白を受けて、殴らなきゃ・・って思った。桜子もそれを待っているように思えた。
沈黙がこんなに重いと感じたことがあっただろうか?
でも、男が女に手を上げるという事に、すごく抵抗があった。私は利き腕じゃない左手で力なく桜子の頬をビンタした。
「バカ野郎・・・」
バスっ!
「ごめん・・エレジーちゃん・・・」
桜子は泣いていた。
「・・お前は、どうしたいんや?」
「こんな私でもいいんなら、エレジーちゃんと結婚したい・・・」
「わかった・・でも、なんで・・・」
私は、ただただ悔しかった・・・
桜子の事は自分が人生をかけてもいいとプロポーズした女。私への気持ちがなくなったのならいざ知らず、まだ私との結婚を望んでいる。
私は腹を決めた。
「桜子、俺の次の休みまでにアパート解約しろ。ほんで、俺のそばで住め!」
「いいの・・?エレジーちゃん、ありがと・・・」
私はパニックになりながらも、頭の中をフル回転させて考えた。
とにかく、その男から引きはがさないと・・・
養成所を卒業した私は次の働き先が決まっていた。私の職業の業界でも名前が通っているKグループの代表の付き人として働く事になっていた。だから桜子とは1日しかいられなかった。
関西に帰る日。
最終の新幹線で帰る私を見送りに桜子もホームに来てくれた。
プルルルーーー!
無情に発車を知らせる音がホームに響き渡る。
「必ず助けてやるから、心配すんなよ!」
桜子は泣いていた。桜子をギュッと抱きしめた。
私は女に涙を見せた事がなかった。
しかし、泣いている女をすぐにでも守れない悔しさから涙が出てしまった・・・
新幹線のドアが閉まり、どんどん小さくなっていく桜子。
なんで、こんな事になっちゃったのかな・・・
不思議と桜子に対して怒りの感情が湧かなかった。
何故か?
思うに桜子と付き合っていた約3年間。1度も他の男の影もなく、私一筋なのがわかっていた。そりゃ、私が気づかなかったといえばそれまでだけれど、少なくとも怪しいところは一切なかった。
それに比べて私はといえば、浮気も1度や2度ではなかった。ただ、桜子と別れて、新しい女と付き合うなんて事は考えたことがなかった。
桜子から女関係について、詰問されることもなく自由にさせてもらっていた。
だからというわけではないけれど、今回の事は今までの私の報いのような気がしてならなかった。桜子に対して贖罪のような気持ちになっていたから、腹が立たなかったのかもしれない。
Kグループに就職し、いきなりK社長の付き人にはならず、しばらくはKグループのしきたり、行儀などをナンバー3のBさんに教えてもらっていた。
Bさんはとてもいい方で、私の話をよく聞いてくれた。
人間というのは弱いもので、一人で抱えきれない問題があると誰かに話したくなってしまう。思わずBさんに打ち明けた。
そして、一刻も早く桜子を救いたかった。
来る日も来る日も、桜子を風俗に落としたAに対する復讐、桜子が他の男に抱かれる姿。この2つの事がぐるぐる頭をめぐる。
その内、自律神経がブッ壊れたのか、連日、眠ったとしても夜中3時に目覚めて眠れなくなったりと、浅い眠りの日々だった。そんな日々を過ごしていくうちにAに対する復讐心が増大していくのがわかった。
そして“ある結論”に至った。
私は2日間の休みを取りBさんに言った。
「Bさん、もし、僕が帰って来なかったら、警察に自首したと思って下さい。」
「エレジー、お前、はやまるなよ・・・」
止めるBさん。
しかし、私の気持ちはかわらない。今、考えても、無責任だと思う。せっかく雇った人間が犯罪を犯す事を告げて休みを取る。
そして桜子の元に。
「そいつの番号教えて。」
“ある決意”を胸に桜子の電話でAに電話した。数コール鳴った後にAが電話に出た。
「おう、お前がAか!よくも俺の女、風俗に落としてくれたな!」
あんなに人に対して“殺す”と言った事はなかった。
それも若い奴が遊びで発する「殺すぞ!」とは訳が違う。こちとら本気で退路を断って来てる。
Aは面食らったのかあからさまにうろたえて何度も電話を切った。その度に何度もかけ直す。
その内、電話に出なくなったA。
「桜子!こいつの会社と自宅の場所教えろ!」
もう火が着いてしまい、自分を抑える事は出来なかった。
「もう、やめて!エレジーちゃん!」
泣きながら私の体にすがり付き、桜子は言った。
「エエから教えろ!ワシ、腹決めとんねん!コイツ、殺ってまうから!」
何度かこの押し問答が続いた。
「エレジーちゃんが罪犯したら、幸せな結婚できなくなるじゃん!」
桜子が叫ぶように言った。
先ほどまでの騒がしさがウソのような静寂に包まれる。
桜子にそう言われて、私も少し冷静になった。Aの事は殺してやりたいほど憎いが、私が懲役に行ってしまうと桜子と普通の結婚はできなくなる。
当たり前の話だ。
結局、Aを殺す事はあきらめた。部屋を引き払う準備は出来ていた。悪い思い出しかなかったであろうこの家。
桜子が鍵をかけようとしていたのを抱き寄せキスをした。せめて、最後くらい良い思い出で終わって欲しかった。
人形のようだった桜子。
激しいキスをしていくうちに、心なしか一瞬・・ほんの一瞬、血が通い、前の桜子に戻ったような気がした・・・
そして、一緒の新幹線に乗り、私の知人がいる大阪で居候させてもらうことになった。紆余曲折あったけれど、これで桜子とも結婚に向けて歩みを進めていける・・・はずだった。
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