第5話 初めての大ゲンカからの~大一番
年が開けた2月に自分のボクサー人生の大一番、A級ボクサーとしての初めての試合を控えていた。なもので脳内のほとんどがボクシングで占められて・・ウソ。(笑)
脳内メーカーで見たら、ほとんどがセックスで占められているほど、そればかり考えていた私。
桜子の自宅で新年を迎えるに辺り“ある事”をしようと考えていた。
その“ある事”はとてもじゃないけど恥ずかしくて、何でも言える桜子といえど言えなかった。
新年を迎えるカウントダウンが近づく・・・
お酒も入り照明も仄かに暗くして、いい雰囲気。テレビからは、ゆく年に別れを告げるタレントの声。
そして“ある事”を実行に移すべく行動にでる私。
しかし、桜子は何だかんだやる事があるらしく、なかなか実行に移せない私。
次第にイラつく私。
カウントダウンが始まる。
5・・4・・3・・2・・1・・ハッピーニューイヤー!!
テレビからは新年を迎えた喜びの声が。
「エレジーちゃん!明けましておめでとう!」
明るく桜子が私に言った。
そして、新年を迎えたのに絶好調に不機嫌な私。
「え、エレジーちゃん、怒ってるの?」
さぁ、いきますよ!クズ発言!
「俺は年をまたいで、お前と繋がっていたかったんや!」
さぁ、声色を変えてもう一度!
“俺は年をまたいで、お前と繋がっていたかったんや!”
どういう事か説明すると、ゆく年くる年の瞬間、桜子と私が繋がった状態。
つまりセックスをして繋がった状態で新年を迎えたかったという事。
クズですね~!(笑)
年取って、しみじみ思います。どんだけガキでワガママなんだと。
んなの言わなきゃわからんって。(笑)
そう、これが桜子とした初めての大ゲンカの理由。
犬も食わないとはこの事だ。
新年早々、これ以上ない最悪のスタート。さすがの従順な桜子も、この理由には怒ってしまった。
当たり前である。2000%悪いのは私である。
険悪な雰囲気のまま眠りについた二人。
翌朝、まだ、ムシャクシャしていた私は朝一で正月早々パチンコ屋に向かった。
“人間万事塞翁が馬”
悪い事の後はいい事があるものでパチンコが出まくった。
そしてその時、パチンコ屋で流れていた音楽。
♪~サヨナラさえ 上手に言えなかった
Ah あなたの愛を 信じられず おびえていたの
時がすぎて 今 心から言える
あなたに会えて よかったね きっと 私~♪
小泉今日子さんの「あなたに会えてよかった」という曲。
これが、刺さる刺さる。(笑)
ま~勝っていたというのも反省する余裕があったのだろう。
どっちにしても、うまくまわったのである。換金し終わって、速攻、桜子の家へ。
「桜子!ゴメン!」
平身低頭で謝った。桜子は笑いながら許してくれた。
そして2月。
私の大一番の試合が近付いていた。相手はボクシングマガジンに“注目の選手”と記事が載っていた選手。今時珍しい、A級に昇格するまでに20戦のキャリアを積んできた超叩き上げの選手だった。
負けが多いけれども、明日のジョーに出てくるハリマオみたいな超変則の戦い方をする選手。普通なら負けがこんでくると辞めるけれども、この選手は根性で這い上がってきた。
対して私は5勝(2KO)3敗。
A級まで残る選手は、やはり並みの人間ではない。フロックで残れるほど甘い世界でないのは身を持ってわかっていた。
大袈裟かもしれないけれど、試合当日、桜子に遺書を渡した。
『俺にもしものことがあったら言えないから、今、言うね。桜子と出会えてよかった。ありがとな。』
目を潤ませ心配そうな桜子。私は試合するに辺り、毎試合本当に命を懸けていた。
試合が決まった瞬間、試合日までの間。死ぬ覚悟を作る期間だと思って試合していた。
後楽園ホールは超満員。
私がアルバイトをしていた工務店の社員さんたち、大学の応援団。
そして桜子が見守る中、ゴングが打ち鳴らされた。
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