第4話 桜7分咲き

「ご、ご、ごめん!イヤやった?」



シクシク泣いている桜子を見て私は焦った。今までにないパターン。



え、俺、無理やりやったんかな?



こんな時、呑気に頭をよぎった言葉は、何故か“女心と秋の空”。



「違うの・・エレジーくん、こんなんしない人だと思ってたから・・・。」



え?どゆ事?



初めてのパターンで戸惑いを隠せなかった。



桜子の話によると、私はその日のうちに誘うような軽い男に見えなかったから、それがショックだったらしい。何だかわからないけど、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



「ごめんね、泣いちゃって・・こんな面倒くさい私だけど、また、会ってくれる?」



「も、もちろん!」



もう、訳がわからなかった。



女が泣いているという事は、イヤだったから泣いているわけで、てっきり嫌われたかと思っていた。



それが、また会ってくれる?って、どゆ事?



「良かった!ごめんね、泣いちゃって!」



また、元気な桜子に戻った。



結果的に、この出来事で私の守ってやらなきゃ精神が刺激され、桜子のことを好きになってしまった。



翌日、また、次の日と、毎日桜子と会った。



「エレジーくんの家、行きたいな!」



桜子は積極的だった。



桜子は、日中は高級日本料理店に勤めていて、副業で夜や休日にダイヤルQ2のサクラのバイトをしていた。



そんな桜子、私のボロアパートに転がりこんで、1週間くらいいた。ボクシングの練習から帰ってきたら、甲斐甲斐しく夕食を作って待っててくれていた。



さながら新婚夫婦みたいな幸せな日々。



私は、今まで女性とまともに付き合った事がなかった。付き合うといっても、いつ別れを切り出されるかビクビクしながら女の子の顔色を窺う。そんな具合だから、3ヶ月以上持った事がなかった。



どちらかというと、桜子の方が私を好きになってくれていた。追いかけられるのが、こんなに精神的に楽なんだと初めて知った。



おのずと、私が言う事に逆らうことがなかったので、ケンカもなく今までにない居心地の良さ。



最初はお互いの家を行き来していた。でも、桜子が私の家にいる機会の方が多くなっていた。



私は大学に通っていたけれど、ボクサー生活最優先だったので、ジムの近くに住んでいた。そんな私の事情を気にしてくれて、ジムから遠い桜子の家より、私の家にいる頻度が多かった。



そんな気遣いも嬉しかった。



ボクサーとしても、3連敗を脱して、久しぶりに勝った。桜子には、まだボクサーとしての試合は見せた事がなかった。



そんな生活を続けていたある日。ビッグチャンスが舞い込んだ。



B級ボクサーだった私が、前回の勝ちを評価されA級ボクサーに昇格。



そして、初めての8回戦。おまけに、セミファイナルの試合。メインイベントは世界前哨戦の試合でテレビがつくとの事。内容によっては私の試合も放映される。



なにより、桜子に初めて見せる試合。



ヘタレなとこ見せられへんな・・・



そっちの方が、緊張していたかもしれない。



そして、付き合って初めての年越し。そこで、初めて桜子と大ゲンカをしてしまう。

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