第6話 大一番からの~風雲急の緊急事態!


最初の1、2Rこそ、変則的な動きをするH選手を捕らえられなかった。しかし、パンチ力で勝る私の拳が次第にH選手の動きを鈍らせていく。



そして6R。



私がボディを打つ度に、呻き声を上げて堪えていたH選手。オエオエ言いながらも向かってくる。さすがA級まで上がるボクサーだと思う。普通だったら、心が折れてしゃがみ込んでしまう。



しかし、対する私もA級での初勝利に懸ける執念がある。とうとう、H選手をコーナーに追い込み、ボディ連打で待望のダウンを奪った。



興奮した観客が床を踏み鳴らす音。あんな音を聞いたのは初めてだった。



さすがに叩き上げのH選手。不屈の精神で起き上がってきた。



そこで、ゴング。



続く7R。



一方的な展開になり、それでも倒れないH選手。見かねたレフリーが、私のアッパーでH選手のアゴをはね上げた瞬間に試合を止めた。



TKO勝利だった。



リング上には、私の応援団が用意した紙テープが舞う。まるで、プロレスのようだった。



桜子はアゲマンなのか、この試合で社員から話を聞いた私のバイト先の会長の耳に入る。そして、次回、会長も見に来てくれる事が決まった。おまけに、会社が今後の試合のチケットを全て買いとってくれる事になった。



プロとはいっても、ファイトマネーの何割かは現金だけれど、後は試合のチケットを自分で売らなければ金にならない。



そして、次の会長が見に来てくれる試合が決まった。



会長も直々に応援に来てくれた試合。元日本ランカーとの激しい乱打戦に判定勝利し、ランキングにも入った。日本チャンピオンまで後12人。



否が応でも気合いが入る。桜子も、甲斐甲斐しく私を支えてくれた。



そんな順風満帆な人生を歩み始めた私。



自分の慢心から、桜子という献身的に支えてくれていた存在がいたにもかかわらず、他の女性を求めてしまった・・・



何故だかわからないけれど、ある日、普通のダイヤルQ2ではなく、ヤンキーダイヤルQ2という番号にかけていた。そして、ある年下の女性と会う事になった。



その女性はAちゃんという私より3歳下の18歳。千葉県に住んでいて、OLをしながら、ラウンジのホステスもしていた。



そして、ヤンキーダイヤルQ2だからだろうか、Aちゃんには暴走族の特攻隊長をしている彼氏がいた。危険な香りプンプンのAちゃん。



今だったら手を出さないだろうけど、21歳のイケイケは深く考えるIQは持ち合わせてなかった。



早速、デートの約束。



桜子は私の事を信じきっていたので、友達んとこ泊まると言って出かけても、何も疑わなかった。昼の13時に私のホームグラウンドである後楽園ホールがある水道橋駅で待ち合わせ。



何時着かのホームの最後方、一番端で待ち合わせた。少し早く着いた私はベンチに座り待っていた。



すると、約束の電車より一本早い電車で一人の女性だけが降りてきた。



Aちゃんはタレントで言うと石田ひかりさんに似ているという事だった。その女性をさりげなく見てみた。



石田ひかりに似ているし、むしろ、それ以上に可愛かった。その女性は相変わらずキョロキョロしていた。



久しぶりにダイヤルQ2にかけて、こんな大当たりを引けるなんて俺持ってるな~なんて考えていた。



もうこれは間違いないと思い声をかけてみた。



ただ、一点だけ違う所があった。



Aちゃんは、髪の毛が茶色だと言っていた。しかし、その女性は黒い髪の毛だった事。



ま、まぁ、光の加減だろうと謎のプラス思考の私。



「あ、あの~・・・Aちゃん?」



「え!ち、違いますけど・・・。」



ウ、ウソ~!



「す、すみません・・・。」



私は、どエライ恥ずかしさと共に座坪に戻った。その女性は、不信感丸出しの顔をして去っていった。



(あ~あ、久しぶりに遊べる思たのに・・・)



私はその女性が、黒髪、一本早い電車という事をすっかり忘れていた。



あ~あ、今日は撤収かな・・・



「あの~コブシさん・・・。」



一人の女性が私に声をかけてきた。



私は、約束の電車がホームについた事に気が付かないほど、大ショックでうなだれていた。失意のドン底にいた私は顔を上げた。



先ほどの女性と比べると、可愛さは少し劣っていた。でも、言われてみれば、どことなく石田ひかりさんに似ていた。



そして茶髪。



人間というのは、ドン底に落ちた状態からの~バウンド状態はそんな贅沢なんかなんのそのというくらい嬉しかった。何が悲しいって、すっぽかされるほどショックな事はない。



ダイヤルQ2全盛期の時代は携帯なんてなかった。



固定電話を握りしめ、会話のキャッチボールを繰り返し、外見、性格を声だけで見極め、そして、絶対に来てくれるという確信が持てて初めて会う約束をする。すっぽかされるという事は、自分に先見の明がないというか、なんせ自己嫌悪の極みなのだ。



すっぽかされるくらいなら、まだ、来てくれて外見がハズレの方が・・・何を熱く語っているんだか。(笑)



とにかく、来てくれた事だけで、テンションMAXな私であった。



そして、初めて会ったAちゃんと後楽園遊園地で遊んだ。実はこれ、吊り橋効果を狙った、私なりの狡猾な作戦だった。



事実、この手口で・・・聞こえが悪い。(笑)



かなりの成功率だった。



Aちゃんとも、初めて会ったとは思えないほど親密になった。



「千葉まで送るわ。」



「ありがとう!」



車は持っていなかったので、東京から千葉まで送るという事は、帰りは終電しかない。



だが、私はAちゃんが泊めてくれる確信があった。彼氏が今日は来ない事もリサーチ済み。断られたら帰ればいい。



若いってイケイケだなぁと懐かしく思う。



案の定、Aちゃんは泊めてくれた。Aちゃんは、外見はヤンキーだったけれど、反応は驚くほどウブだった。そのギャップが私にとっては可愛くて仕方なかった。



何回か会ったある時、騎乗位でいたしていて、途中で急に意識を失ったのか後ろにバタンと倒れてしまった。



急に倒れたものだから、若くてギンギンだった私のブツが折れそうになった。無意識に防御本能が働き、起き上がりこぼしのように私自身が起き上がったのには笑った。



後で聞くと、感じすぎて意識がトンだとの事だった。そんな事も私には新鮮だった。



Aちゃんが働いていたラウンジに飲みに来てほしいというので飲みに行った時。私の前で、まるで子猫のように振る舞うAちゃん。



いやいや、他の客に特別な関係ってバレるやん!って思いながらも可愛くて仕方なかった。



そんな逢瀬を繰り返していたある夜。



正にこれからいたそうと、お互い半裸になっていた時。



電話の音。



電話に出たAちゃんの顔色が変わった。



「エレジーちゃん、ヤバい!彼氏が玄関にいるみたい!」



風雲急を告げる緊急事態!どうする俺!

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