第22話 今

 ベルナデットの作ってくれた昼食を食べ、僕とウェイブはいつも通りスパイダー狩りへと出かけることに。


「行って来るよ、ベルナデット」


「二人とも、あんまり無茶なことをしてはダメよ?」


「分かってる分かってる。ベルナデットは心配性だな」


「ウェイブ……あなたは子供にしてはとても落ち着いているけれど、危ないことも平気でするから……」


「そうだそうだ。あんまりベルナデットに心配かけさせるな」


「レイン! お前だって危ないことするだろ」


「僕はそんなことしないさ」


「この中で一番危ないことをしているのはレインでしょ?」


「う……」


 僕もウェイブのことを言えない。

 というか、僕の方が一番危険を冒しているというのが事実で何も言い返せなかった。


「でも、一番皆のことを想ってくれてるのもあなたなのよ、レイン」


「そうかな?」


「そうよ。だから皆、あなたのことが大好きなの。だから皆を悲しませるようなことはしないでほしいの」


「……極力そうするようにするよ」


 それぐらいしか僕は言えなかった。

 だってこれからも危険なことをしなければいけないと思うから。

 そうしないと強くなることが出来ないから。

 リスクの全くない道はそれだけリターンも少ない。

 リスクを取るから多くのリターンを得られることができる。

 これkらも危険な目に遭うかもしれないが、それだけ僕は強くなれるはずなんだ。


 これ以上話をしていると、彼女の心配に応えてモンスターとの戦いに行けなくなってしまう。

 そう考えた僕は、玄関を開けて走って家を出た。


「じゃあ行って来るよ!」


「あ……レイン!」


「ちゃんと帰って来るから心配しないで!」


 ウェイブは僕の横を走る。

 

 町を出て、草原のど真ん中。

 そこに大きな岩が二つ並んでいる場所がある。

 その岩の間に、僕たちの剣を隠しており、それを回収して南の森へと向かうことに。


「ベルナデット、あんまり心配かけさせたくないな」


「うん。でも、僕たちの目的のためには少々仕方ないよね」


「ああ……今は心配かけされるけど、将来は彼女に安心した生活を送らせたい。そのために力は必要になるだろうから、結局今頑張らないといけないんだよな」


「僕たちには今しかない……いつになってもきっと今しかないんだと思うけど」


「どういうことだよ?」


 森を目の前にして僕はウェイブに言う。


「だって、この瞬間しか存在していないじゃないか。だから今から一秒後だろうと一年後だろうと、その瞬間しか存在しない。だから「今」しか存在していないんだ」


「なるほど……そんな考え方もあるんだな」


 七歳の少年が今の説明だけでなんとなく察したようだ。

 ウェイブは頭がいい。

 それでも才能はEだって言うんだから、嘘みたいだよね。

 これがAとかだったらどうなるんだろうか。


「じゃ、俺たちは「今」を頑張ろう。自分たちのために」


「そして皆のためにね」


 剣を抜き、ベビーナイトを召喚し、僕たちは森の中へと侵入する。


「ベビーナイト、【挑発】をしながら適当に敵を倒してくれ」


「ビー!」


 スパイダーを二人がかりで倒していた僕たち。

 だが少し強くなったことにより、一対一でも勝てるようになっていた。


 ベビーナイトに接近して行くスパイダーの中から、僕とウェイブは別々に切りかかる。


「よいしょ!」


 スパイダーの足を二本斬り落とし、相手の口に剣を突き立てる。

 ビクビクと痙攣を起こしているので、絶命するまで油断せずに観測。

 しっかり死んだことを確認して、そこで僕はようやく剣を引き抜く。


「スパイダーも苦労せずに倒せるようになってきたね」


「そうだな。俺たちも成長してるんだな」


 ウェイブも軽くスパイダーを倒していたらしく、剣を肩に担ぎながら笑っている。

 その瞳にはある種の狂気を含んでいるように見えた。

 

 それはきっと僕も同じで……強くなることが病的に楽しくなっていたんだと思う。


 昨日より今日。

 今日より明日。


 日々強くなっていく自分たちの実力が、楽しくて仕方がない。


 ベビーナイトが敵を蹴散らしている間に、僕たちはスパイダーを撃退していく。

 瞬間瞬間に成長していることを想像しながら、ただ剣を振り続けるのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 レイン

 召喚戦士

 HP (F)17 MP(F) 6

 STR(F)15 VIT (F) 7

 DEX (F) 7 AGI (F) 9

 MAG(F) 1 RES(F) 1

 INT(F) 5 LUC 20


 スキル

 アドバイザー1 召喚Ⅰ 基礎剣術 4 

 身体強化 4



 スパイダーとの戦いを終え、休憩をしていた僕ら。

 自身のステータスを【鑑定】していたのだが……また僕は強くなっていた。


 僕のステータスを覗き込んでくるウェイブ。

 彼も自分の能力が気になるらしく、催促するように僕の顔を見る。


 僕はウェイブの気持ちが良く分かるので、笑いながらアドに【鑑定】の頼んだ。



 ウェイブ

 ――

 HP (E)15 MP(E) 2

 STR(E) 13 VIT (E) 7

 DEX (E) 5 AGI (E) 7

 MAG(E) 2 RES(E) 2

 INT(E) 15 LUC 16


 スキル 

 基礎剣術 2 身体強化 3


 僕に負けず劣らずの成長具合。

 ウェイブは自分のステータスを見て少し笑うが、だが不満な表情を浮かべる。


「うーん……もっと早く強くなりたいよな」


「でもこれが僕らのペースなんだよ。まだ七歳だし、急ぐ必要はないんじゃない?」


「急ぐ必要はないけど、急いで強くなりたい。ああ、自分の才能がもどかしいよ」


 ウェイブの気持ちは本当に良く分かる。

 いつも一緒にいる親友だし、同じ志を持っていると思う。

 もっと強くもっと強く。

 僕らはひたすらに上を目指しているんだ。

 でも成長速度の低さに少し辟易してしまうこともある。

 もしも才能があれば……そんなことが頭をよぎることだってあるものだ。


 でも言い訳をしても仕方がない。

 だって僕らはこのまま強くなる以外に方法がないのだから。

 いきなり神様に才能を与えらえるようなことはないだろう。

 だから才能がないまま、才能に逆らいながら成長していくしかない。


「急ぐ気持ちも分かるけど、少しずつ強くなろう」


「ああ……分かってはいるんだけどな。でもたまにはさ」


「それもよく分るよ。僕だって――っ!?」


 森の入り口にいる僕たち。

 そんな僕たちに殺気を放つ存在がいることに気づく。

 相手は森の奥……スパイダーどころの敵じゃない。

 もしかしたら僕たちが勝てないような相手なのかもしれない……

 そんな殺気をビンビン放ちながら、一匹のモンスターが森の中から姿を現した。

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