第2話

 オーナーが一階へと降りるのを、ドアの隙間から二人でこっそり確認すると。

 

 赤いきつねの蓋を開ける。

 暖かな湯気と共に、男と女は語り出した。


「丁度、一年前ね」

「ああ、村へ行く途中で道に迷ってしまって、そしたら君に出会ったんだ」

「道をちゃんと教えたのに」

「半信半疑だったんだ。人の噂を嫌と言うほど聞いていてね。それに、光輝くような綺麗な雪の降る日に美人と出会ったんだから。最初は雪女だと思ってしまったよ」

 男女はお互い身体をすり寄せながら。

「とっても、あったかいわね。この食べ物……道を二回も三回も教えるなんて、私には初めてのことだった。それで、やっとたどり着いたんでしょ」

「ああ……。心身ボロボロになって、どうせなら信じてみようって思ったんだ」

 暖房のファンヒーターと風の音以外は静かな夜だ。

「村の人から、私は嫌われているのかしら?」

「いや、君の後ろの尻尾に気が付いて驚いただけさ」

 男は微笑んだ。

「向こうへ行ったら、もう戻ってこない?」

「うーん……。どうだろうね」

 男女は赤いきつねを食べ終わり。

「美味しかったわ」

「ご馳走様……。」

 しんみりとした雰囲気が辺りを包んだ。

「人間って、生きているうちは、昔の思い出がたくさんあるんでしょ?」

「ああ、そうだね。いい思い出ばかりじゃないけど、それが人生ってやつさ。あの時は良かったな。やっぱり君に出会えて本当に良かったんだよ」

 二人はまた沈黙した。

「明日には行こう」

「さあ、寝ましょう。きっと明日は晴れているから」

「ああ、反対する人ばかりだったけど……山を越えれば」

「あ、でも、結婚式って何かしら?」

 布団に包まると、二人は笑った。

 



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雪の降る山荘 主道 学 @etoo

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