12時発、1時着。
三題噺トレーニング
12時発、1時着。
12時発、1時着
白鷺 真冬はいつもクールな男子大学生だ。どんなことでも気にしていない風で、課題もバイトもさらりとこなす。
すこしぶっきらぼうな感じも相まって、女子人気はものすごかった。
ただ、実は真冬には秘密があった。
別に好きでクールに振る舞っている訳ではないということだ。そして致命的にドジだった。
真冬はかつて大学の講義後に自分の座っていた机の中にスマホを忘れてしまった。そしてそれをオレが発見した。
慌てて真冬を追いかけると、真冬は交差点の押しボタンを押し忘れてずっと交差点の前に佇んでいた。
面白いやつだな、こいつ。
オレの率直な感想がこれだった。
それ以来、オレと真冬はつるむようになった。
真冬は自身の在り方に悩んでいるようだった。考えても考えてもミスが出る。
ヘマをする。
それを愛嬌で誤魔化すことができなくて、不器用な人間に見られてしまう。
オレに言わせれば、ツラが良くてクールな振る舞いができるお前の方が羨ましいよ。
いつだったか2人で酒を飲んでいた時、オレの話に真冬は頭を振った。やっぱりそれはクールに見えた。
「そんなことはないさ、俺は黒磯が羨ましい」
真冬はその頃全てがうまく行ってなかった。
勉強も追いつけず、就活もうまくいかず、バイトでも怒られてばかりだったようだ。
どうしたらいいか分からなかった真冬は、ある時俺にLINEを1通送って、いなくなろうとした。
「今までありがとう。旅に出るわ」
そう残して、真冬は去った。
時間はちょうど12時だった。
12時発の電車に乗って、どこか遠くへ行ってしまうというのか。
オレは悲しい気持ちになりながら、横浜駅まで探しに行った。
一体どこまで行くつもりなのか。
もう帰ってこないつもりなのか。
考えれば考えるほど悲観的になったが、致し方ない。戻るしかなかった。
外は珍しく雪がちらつき、真冬の名の通りの寒い季節になっていた。
が、しかし日付が変わる頃
真冬はすぐに戻ってきた。家の呼び鈴が鳴って、外に出ると真冬がいた。
訝しげに睨むオレに真冬は恥ずかしそうにしていた。
12時発、1時着。
これは一体どういうことか?
真冬によると、埼京線に乗って埼玉まで行って、そこからさらに遠くへ行こうとしていたが、間違ってそのまま元の電車に乗ったらしい。
そして、恥ずかしかったが意を決してそのまま戻ってきてしまったのだった。
なんじゃそら。
まあ、めちゃくちゃなやつだけどそれはそれでいいんじゃないか、オレは何だか嬉しくなった。
「鍋でも食うか?」
ちょうどビールを2本買っておいて良かった。コイツのこんな旅も大学生みたいでいいのかもしれない。そんなことを思った。
12時発、1時着。 三題噺トレーニング @sandai-training
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