オワタ系、配信勇者は死なない!
ふぃふてぃ
全力投球。オワタ系、配信勇者は死なない!
「はぁーい、どうも、こんにちは。オワタ系配信勇者HIDEO(ヒデオ)でぇす。今日もお馴染、序盤の初見殺し、火焔龍リレオウスの攻略法を探っていきたいと思います。今日こそ討伐できると思う方はチャンネル登録、高評価をお願いします。というわけで……」
○
近年、国家予算の圧迫に伴い勇者に対する資金援助は下降の一途を辿る。クエスト報酬だけでは生活すらままならず、壺を割り薬草を手にする者、他人の家のタンスを漁り装備を手に入れる者。便所から回復グミを手に入れ腹をくだす者など、英雄稼業に終わりの兆しが見え始めた……その時だった。配信勇者による広告収入という新たなる希望の光が誕生した。
1再生数あたりは約0.1ゴールドと三毛猫の額ほどに小さいが、再生数が増えチャンネル登録者が増えれば値千金も夢ではなくなった。中には上級クエスト以上に稼ぐ者も現れだし、世は一世一代の配信ブームが巻き起こっていた。
……とはいえ誰しも一攫千金を手にするほど甘くはない。有名になればこそスターとしてCMにインタビュー、書籍化と印税がっぽがっぽだが、有名になるためには未だ狭き門である。
〇
まず貴女がうら若き乙女であり、多少の恥を凌げるのであればお色気系配信勇者をおススメする。下級ゴブリン相手でも薄暗い洞窟を露出度の高い装備で歩けば、たちまち再生数は増え、ワァオ!と思えるドッキリ映像と共に勝利を収めればチャンネル登録者数はうなぎ登りとなろう。
男性諸君もあきらめてはいけない。職業が賢者に近しいならば教育系はどうだろうか。『猿でもわかる簡単なスライムの殺し方』のような(ちょっとした隙間時間にクエストで副業でもしようかな)と考えている炭鉱夫あたりに安定した人気がある。
勉強嫌いでも力自慢ならば、まだ可能性はある。縛りプレイがオススメだ。なんと破廉恥なと言うことなかれ、これは通常は剣や魔法を使うところ己の拳一つで勝負を挑むといった趣向。オーガ相手でも素手でやり合える自信があるならば、それなりの広告収入が約束されよう。上級モンスターを討伐しても再生数が伸び悩む、喋り下手の筋肉単細胞にオススメする。
……ではオワタ系とは何か。三十路を越えて碌な仕事にもつかず映像一本で「のし上がってやる!」と意気込んで早二十年、たいしたヒット作も打開策ないままに、何とか日雇いクエストで生活をしている者をいう。まぁ、俺の事だ。
〇
最初はこんなんじゃなかった。勇者が本業だった。困っている人を助けるのは昔からの夢だった。そのために薬草学を学んだ。配信は傍らに国から送られる補助金で生計を立て、仲間たちを薬草で癒し、剣を振るい魔物と戦ってきた。ヒューマニアの平和の為、その一心で戦ってきたんだ。
人生が一変しだしたのは、三十歳を手前にしたあたりからだった。時代は資本主義の波に流され大量生産、大量消費へと舵を取る。HPポーションは安価に流通し、更にMPポーションを使ったヒーラーによる回復術の方がコスパが良いとされた。さらに状態異常も装備に石ころを付与すれば防げる時代へと進み、薬師の需要が少なくなった。
「おい、もうオーガ討伐くらいじゃ生計が立てられないぞ」
「好きなことで生きていくとか、そろそろ真面目に将来を考えようぜ。なぁヒデオ」
「馬鹿か貴様ら!可愛い女の子を魔の手から救い、広告収入で億万長者。最高のエンディングを皆で見ようぜって誓ったじゃないか」
引き留める私に仲間達は「もう、俺ら良い年なんだぞ」と吐いた。そして、とうとう三十歳を境にして古き良き友人達は去っていった。怒りに身を任せ「オマエら後悔して後で泣きついて来ても仲間に入れてやんないからな」と言ってしまった手前、後先には引けなくなったことは言うまでもない。
因みに、魔法使いは勇者という称号を諦め、実家の農家を手伝っているそうだ。「ひょろひょろのオマエが農業なんて勤まるかよ!」と私は捨て台詞を吐いて見送ったが、いざ始めてみると水魔法で安定した水源を供給し、今年は一等米ホタルノヒカリ、アメニシキについでの豊作らしい。ついでに可愛らしい幼馴染の彼女と去年に結婚を果たし、今では子にも恵まれたという。もう彼を童貞ヒキニートとは言えなくなってしまった。
武闘家は実家の飲み屋を次いでルイーダというコミュニケーション能力の高い美しい奥さんを手に入れたそうだ。妻にゾッコンの彼は店名をルイーダの酒場に改名。今も出会い酒場として繁盛しているという。ちなみに男性の方が値段が高いというのが解せない。最近では二人目の子供が産まれたとか、もう彼を筋肉単細胞と言えなくなってしまった。
〇
ただ、俺は君たちに問いたい。勇者とは己の幸せの為に選ぶ職業なのだろうか?私の答えは否だ。例え可愛らしい奥さんがいたとしても、美しい奥さんに巡り合えたとしても甘んじてはいけない。他者を救うことを忘れてはいけない。それが勇者であるからだ。そして配信するからには、その背中を見せ続けなければならない。そして、こういう良きセリフが出た時も映像として発信しなければならない。人気取りも重要なエンターティナーの仕事なのだ。
そして、君たちがエンターテイナーと豪語するならば知っておいてほしい。一握りのアイデアを手放すな!サ終を決めるのは運営がすることだ。もしそれが優れたアイデアだと心から思うのであれば何回でも実行しろ。手を変え品を変え、あらゆる手段を使って伝えるんだ。そう、あらゆる手段を使っても……。
もし似たようなアイデアがあったとしても恐れることはない。それはオマージュという詭弁一つで片付く話なのだから。
私はこれから101回目のドラゴン討伐を始める。初見殺しと呼ばれる初級ダンジョンに必ず現れる火焔龍だ。序盤は逃げるを選ぶのが上場の手段であるとされるが……しかし、俺が今日その当たり前をぶっ壊す!生活困窮者の真の底力、中の下ほどの装備でもドラゴンを倒せるところを見せてやる。そこの「無駄だ」とコメントを垂れ流す諸君。刮目し給え。魔法などはいらない。剣もこの小さなナイフ数本で事足りる。回復も古き良き時代に培った薬草で充分だ。
気構えてカメラにキリっとVサイン。「きもッ!!!」というコメントを無視して「俺は死にましぇ~ん」と言って駆けだした。
〇
紅に染まる体躯が浮遊する。轟音と共に吹き荒れる大きな両翼による風圧。時は既に夕刻。まさに映えるを意識した舞台設定だ。荒涼とした地面に立つ俺の蒼きマントは翻り、年季の入った鉄装備もオレンジ色に照らされていた。まさに決戦を物語るかのように投影されていることでだろう。再生数こそ伸び悩むが、コツコツと更新を続けた火焔龍ぴえんシリーズ、百回目を超えて今日のHIDEOは尋常じゃない。いつもと違うとヤホートピックに上がっているはずだ。
「さぁ、チャンネル登録のお時間だ!」
私はセリフを吐きつつ逃走したフリをする。「なんだ、結局これかよ」なんてコメントが流れることはお見通し、豪快に羽ばたく巨大なドラゴンもオツムはぴよぴよヒヨコちゃんに変わりはないハズだ。ナイフを構えドラゴンが降下してくるのを待つ。「哀れ」「おつ」のコメントが乱気流の如き振りまかれる脳内、俺は振り向きながら高く跳躍する。「おぉ」と少しの歓声が上がる手ごたえを感じつつ、すかさずナイフを投げて応戦。飛行しながら突っ込んでくるドラゴンの運動エネルギーを逆手に取った荒業。
何度か固い鱗状の皮膚に弾かれたが、比較的に防御力の薄い顔面への投擲は効果を見い出した。怒り狂うドラゴンを横目に、逃げと投擲を繰り返す。何度か火焔攻撃に苦しめられながらも薬草で回復。時間はかかったが手ごたえはあった。そして、取れ高も充分だった。七本目のナイフがドラゴンの皮膚を抉ると龍は夕闇の空へと消えていいた。
私はすかさずカメラに目線を向ける。そして、息も絶え絶えに語る。
「長きにわたり、更新してきましたレットドラゴンシリーズ。序盤は逃げるが、今までの方法でした。しかし、村の武器屋でナイフを大量に仕入れることで、討伐可能ということがわかりました。皆さんも良かったらやってみてください」
——おぉ、今回は反応いいんじゃね!
「あぁ、えっと……次回は、この部位破壊で手に入れたリレオウスの鱗を使って、火龍武器をクラフトしていきたいと思います。じゃね、バイバイ、バイバイ」
〇
「さぁ、どうかね」と自宅に帰宅後の一服。映像端末の電源を入れる。少しづつだが再生数も伸びてきている。コメントをチェックしながら映像を確認。「少しコメントの弾幕うすいな」と独り言ちながらも、これならば次回作への期待も上がる。広告料も上がるハズ。にやけ顔の勇者HIDEOの前を一通のコメントが動画上に流れた。
『あれ、これ昨日配信のアリマさんの実況パクってね』
その一つの呟きの後。先ほどまで薄かった弾幕は罵詈雑言で埋め尽くされた。
○
読者御一等、これで終わったと見縊らないで頂きたい。
その日、自称勇者HIDEOは、チャンネル登録者数こそ皆無だったものの、上位の再生数を誇り、それは三流新聞の片隅にも載るほどだった。
炎上もまた、再生数を増やす方法なのだよ。
恐れるなエンターティナーよ。心から感動できる作品を作るのだ。全力で作る作品だからこそ、反応があるのだ。炎上もまた、その反応の一部だ。自分の作品を自らがサ終と呟いてはいけない。それこそ燃え上がる火種を自らが消すような行為だ。
「Fools have the ambition!」
私はSNSイツッターで呟いた。人気をはき違えて浮かれていたことは言うまでもない。そう、このお調子者の「馬鹿者こそ大志を抱け!」の呟きが、更に民衆の火に油を注いだ挙句、その後の活動に大きく影響したことは最後に語るとしよう。
○
「これは、別垢じゃないと活動できないな」
連日連夜、メールはなりっぱなし。運営側からはアカウント停止処分が下る。これこそが真のサ終である。認知度の低さが功を奏してか、顔は割れることなく何とかクエストとバイトで食いつないではいるが、果たしてこの職もいつまで続けられるかは、神のみぞ知る世界だ。
とりあえず私はより良い職を求めルイーダの酒場の暖簾を潜った。少し色を付けてくれた賃金を頂きと賄いで食い凌ぎ、今はこうして米作りを学んでいる。持つべきものは友である。そして米作りもまた良いネタになる。この世はアイデアの宝庫だ。いずれ、これも配信できれば、まだまだ一攫千金の夢は明るい!
オワタ系、配信勇者は死なない! ふぃふてぃ @about50percent
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます