2.爽玖《さく》、21歳side



'付き合う'ってなんだろう。

しかも男同士で。

…俺達が今更'付き合う'って、どういう事だろう。


お互い彼女がいて彼女と身体の関係を持ちながら

友達のまま身体の関係を続けていた。

その状況からの、'付き合う'とは?

……俺はどうしたいんだ?

俺はみどりにどうして欲しいんだ?

彼女と別れてと頼むのか?

俺を好きになってと頼むのか?

付き合ったら…別れないでと頼むのか?

……あの、…誰にでも優しい碧に?

引っ切りなしに女性からアプローチされるし

見た目も性格も良くてモテまくる碧に?


誰にでも優しい碧は、

何を考えているか分かりづらい。

何を考えてるのか分からないから、

優しい行動も素っ気なく見える。

そんな碧の、本心は、どうしたら分かるんだろう。



大学にも慣れ、

碧と会うたび体を重ねていたあの頃。

俺は、あの時言われた碧の言葉、

『付き合って』に、とても喜んだと同時に……

どうしたらいいか分からなくなった。

その時、一番幸せだと思ったのは確かで、

けどそれは未来に一番の幸せは無いかもって事で…

考えたり悩んだりに疲れて、楽な方へ逃げた。


いつも不安定な俺。


抱かれるのも俺。

…抱かれるのが俺だからか、

俺は抱かれるようになってから

僕と言わないようにした。

僕は可愛くないし、可愛くなりたいわけじゃない。

僕だって、男だという事を…意思表示したかった、

という気持ちがあった。



『男だけで海とか……ヤバくね?』


『ああ!楽し過ぎてヤバいな!!』


高校3年の夏、仲良しのグループで海へ行った。

その中に碧も当然いた。

いつもテンションが高い友達が

砂浜を走りながら騒いでいると、

碧も楽しそうに騒いでいた。

そして僕の隣でふざけて笑い転げてると思ったら、

急に後ろで静かにカメラを向けてる時もあって

笑ったり真顔になったりの差が激しい碧。

ふたりで話している時はつまらなそうな顔をして

言葉少なめだから、僕が話す方が多かったかな。

…その日も、なんとなく…僕が家に誘ったし…


『…両親、旅行に行っててさ。

こんな時は夜中も遊ばなきゃ勿体ないだろ?』


『…だな』


『かといって、みんな呼んだら

うるさくて近所から苦情くるから…

碧にゲーム教わろうと思って』


『ん』


『あ、先にシャワー浴びようか?

すっげぇベタベタするよな?塩かな?』


『…塩だな。汗もベタベタするし』


『……なんだよ。…ベタベタ気持ち悪いだろ?』


帰ってきた自分の部屋で、

暑いしシャワーを浴びるしと思いTシャツを脱ぐと

僕の肩や胸元に碧が手を伸ばしてきた。


『…いや…気持ち悪くない』


『…ちょ……なんだよ』


『いや……エロいな、と思って…』


『なんだよその概念…ちょっと…おかしいって』


急に自分もおかしくなりそうだった。

必死に今まで通り取り繕うとしても

自分の肌を這う碧の手を意識してしまって

身動きが取れなくなった。


エロ…いのか?僕が…?

僕の体を這う碧の手の動きがエロいだろ。

碧の手、唇、瞳…を見て胸が鳴る僕もか?

汗で濡れたように光る碧の首筋。

そこに触れて、2人で溶けるように混ざりたいと

思った…僕が、エロいのか……

触りたい。

そう思った瞬間、碧の香水と汗の香りを感じて…

首に手を伸ばした。すると自然に近づく顔と顔。

目が合って、…唇も重なり合った。


『……ッ』


『…ッ…』


何度も唇を重ねると柔らかくて蕩けた感触、

更に柔らかい舌を絡めていると熱く潤む感触、

漏れる息遣いの湿った感触、

指から伝わる碧の滑らかな首の感触、

胸を這う碧の指のくすぐったい感触。

目を閉じていると全ての感触に襲われた。

流されるように身体が動いて止まらなかった。

それはお互い裸になっても止まらなくて、

…そんな事、初めてだった。


欲を吐き出したら少しだけ冷静を取り戻して

シャワーを浴び、ゲームをした。

甘い空気にはならない。

そもそも甘い空気ってなんだ?って感じだけれど。


学校で顔を合わせても普通だった。

碧の行動が以前よりも

少し気になるようになったくらいで…


『やっと!帰れる!喉乾いたー!誰か何か!』


『ほら、コーヒー飲むか?』


帰り間際に数人で話しているところへ

碧が騒ぎながらやって来た。

そんな碧に親切な友達がコーヒーを勧めた。


『えー!コーヒーなんて飲めない!

…爽玖は?何飲んでんの?』


『…コーラ』


『だよなー!ひと口ちょうだい!』


『もー…ほら』


僕のコーラを飲んで満足そうに笑う碧。


『爽玖もだけど、碧は相当お子ちゃまだよな。

…なんでこんなヤツが1番モテるかね』


『1番?モテないよ。

お子ちゃまなのは…どうかねー爽玖?』


意味ありげに笑う碧。

僕はそんな碧にこっそりと訊ねる。


『今日何してる?』


『…彼女と約束がある…』


『そっか…』


『彼女との用事が済んだら爽玖ん家行っていい?』


『あぁ…』


お互い性欲旺盛な年頃だったからか、

相性ってのが良すぎたからか、

碧を見ると下半身が疼いた。

そして碧の手にかかると、僕の身体は前も後ろも

限りなく快感を煽られていった。

僕の部屋で2人きりになる度に

底が見えない性欲に振り回された。


高校生の時は夕方の両親が帰って来る前の時間、

大学生になってからは

泊まりで両親がいない夜に碧を呼んだ。

会える時間が減ったからか

朝方まで何度も体を繋げる日が多かった。

当然睡眠時間は短く、碧も朝起きれない。

そしてたまに両親が朝帰って来た時に顔を合わせる

なんとも言えない気まずさ。

…けど、連れ込んでいたのが彼女だったら

もっと気を付けていただろう。

男だから怪しまれずに済む…

それが余計に両親を裏切っている気がした。


『ぼ…俺、明日朝早いんだけど』


『爽玖が出る時間に俺も絶対起きるから』


『そっそんな事言っても

碧ほんと朝起きれないだろッ』


『…起きる起きる。

爽玖が起こしてくれたらすぐ起きるし』


『…だッから、俺も早く寝ないと朝起きれな…』


お互い1.2度既に達した後、

洋服を着て寝る支度を始めようとする俺の体に

碧がまた意味ありげに手を伸ばしてくる。

その指は心地良くてすぐに流されそうに…


『…ッ…』


『…ほら、爽玖もまだ足りないでしょ?

俺、まだ足りない…久しぶりに会えたのに…』


トレーナーを着ようとして隙ができた脇に

後から碧の手が伸びて来て感じてしまった。

そして思い切り抱きしめられる。

吐息混じりに甘えられると

さっきまで思うがままに抱き尽くされて

ふたりでぐちゃぐちゃになって乱れまくったのに、

まだ、足りないと思えてしまう。


『…ぁ……』


振り返って碧に思い切り抱き付き、

唇に貪るようなキスをした。

そしてまた尽きない欲を貪った。


多分、いや絶対、碧も俺も

興味本位で始まった行為。

この、経験をしてしまったからには、

知ってしまったからには、

もう興味ってわけでも何でもないのに…

自分でも不思議なくらいにSEXに対応していく体。

それに反比例して

彼女とのSEXの回数は減っていく。

当たり前か。

…碧とのSEXが良過ぎるから。



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