第5話追放者と来訪者

 村のはずれの木賃宿


 重い空気は突如破られる。

 ノックも無く突如開かれるドア

 現れた人物には見覚えがあった。

 洞窟でミミックに襲われた時にミミックを倒した男だった。


「あ~すまん…話は勝手に全部聞かせて貰った…」


 男は頭をぼりぼり搔きながらそう話してきた。


「ちょっ! ちょっと! いきなり失礼じゃない!? ミミックに襲われた時に助けてくれた人だよね? その事には感謝してるけど、そうだとしても勝手に人の話盗み聞きするなんて最低!」


 ユリシアが凄い剣幕で捲くし立てる

 対してレオは少し考え込むような素振りのまま特に咎めだてはしなかった。

 寧ろ入って来た男が何を言うか、何か予感めいた物を感じているようにすら見えた。

 そんなレオは手でユリシアを制しながら口を開く・・・


「全部聞いた上で入って来たって事はタルタルの事ですよね?」

「え!? タルタルの事? どういう事なの?」


 アランはレオという少年の鋭い洞察に舌を巻いた…

 この少年は何処まで分かって答えたのだろうか?

 何処まで話したら良い物か少しアランは思い悩む…

 事はミミックが現れたという事実があるスキル…厳密にはデスミミックではあるが・・・普通に考えれば、【ミミックが現れる可能性のあるスキル】この事実だけを持って危険視しタルタルという人間に制限が掛かるのは目に見えている。

 多分このレオという少年はその可能性に気付いているんだろう…


「君はどうしたらいいと思う?」


 レオは目を瞑り少し考える素振りを見せる。

 そんな様子のレオをユリシアとアランは黙って見守った…

 しばしの沈黙の後…


「まずスキルのもっと詳細な鑑定と解析、研究する人材が欲しいです。それとあなたと同程度の冒険者と組む事ですかね…」


(驚いた! この子は多分平民だろ? この子はこの後講じるべき手段をきちんと把握して言葉にしている…)


「君は本当に平民の子か? 物の考え方が平民のそれとは全く違う、タルタル君がこのまま放っておくとどういった事になるかをきちんと理解してるようだね…だが…そうだな、この案であるなら、タルタル君は投獄されることも、処刑されることもあるまい…」


「…えっ!? 投獄? 処刑?」


 突然の話と物騒な言葉にユリシアの顔は青ざめた。

 ユリシアにとっては、タルタルのスキルによってミミックが出ててきた。

 それでユラが大怪我をして仲間から追放といった認識なだけだったからだ・・・

 だから、投獄だったり、処刑という言葉に驚いた。


「どうですか? お願いできますか? アランさん」


 アランは頭をボリボリ掻きながら驚愕する。

(この子は本当に凄いな…本当に平民の冒険者か? 多分この子は俺の事を知っててあの受け答えをしてた節がある…)

 驚愕したのは、ユリシアもだった…ただし違う意味での驚愕…アランという名前であり、名前を聞くや


「えぇっ! S級冒険者の赤髪鬼アラン!?」


 その二つ名が出て顔を手で抑えるアラン

 どうやらアランはその二つ名が嫌いのようだった。


「あぁそうだ赤髪鬼のアランだ…だが恥ずかしいからその呼び名は止めてくれ」


 そんなアランの様子とは別にユリシアは羨望の目でアランを見つめ続けていた。

 モジモジ体をくらねらせてチラチラとアランを見る姿はまるで恋する乙女の様だった…

 そんな様子のユリシアを無視してレオがアランに話しかける


「アランさん先程の答えについ」


 そんなレオを手で制しアランは答えた。


「あぁ出来る範囲で手を貸そう、今回の件は冒険者ギルドの人間に危険が全くないわけじゃないし、寧ろきちんと管理するべき案件だからね、とりあえず安全と理解できるまでは、冒険者ギルド権限で費用も出して貰えるはずだ」


「そうですか…それではタルタルの事はお願いします。それから厚かましいお願いですが、もしよろしければ、可能であるならタルタルに付く人は、アランさんにお願いしたいのですが…」


「あぁ俺が担当に出来るように取り計らってもらうよ。勝手に首を突っ込んだんだからそこらはきっちり面倒を見させてもらうよ。」


「…ありがとうございます」


「さて、長居をしてしまって悪かったね、聞きたい事は聞けたから俺はもう行くよ」


 そういい部屋から出ていこうとしたアランだったが、突然立ち止まって振り返る。

 そしてレオを見ると口を開いた。


「そうだ君…役人に興味はないかい? 君は冒険者にしておくには惜しい人材だ君ほどの才があればすぐに出世も出来るだろう」


 その言葉に対してレオは苦笑いを浮かべると横に首を振った。


「ありがたいお言葉ですが、俺は仲間達と大変でも一緒に冒険者をやっていきたいんです」


 アランはその様子を見るとふっと微笑み、部屋の外へと向き直すとそのまま部屋の外へと歩き出していた。


「そうか…冒険者頑張れよ」




 来訪者は去っていった。

 こうして物語は主人公の知らないところで徐々に徐々に回り始めるのだった…

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