第2話
私は、桜。
高校生になりました。
あれから、我が家の経済状態は、順調です。
あの日、お父さんが私のために作ってくれた、ウキウキタイヤは、航空機メーカーに買われて行きました。
航空機のあり方を根本的に変えてしまった、お父さんの大発明は、とんでもない額のお金を産み出しましたが、お父さんは、相変わらず。
我が家は、お父さんの失敗の数々に、笑顔が絶えない日々です。
ある日、増えてきた、社員の皆さんのための健康診断がありました。
ついでに、我が家も健康診断。
…お母さんの病気が見つかりました。
お母さん…。
私が生まれてすぐに亡くなったお父さんの分まで、育ててくれた優しいお母さん。
病気が、見つかりすぐに、オレンジのブザーが、やけに目立つ白一色のお部屋の住人になりました。
お父さんは、震えていました。
お父さんは、泣いていました。
私は、しっかりしないといけません。
お父さんの初めての、そして唯一の愛が消えていくのです。
お母さんが、逝ってしまえば、その悲しみが、お父さんまで、連れていかないように、私が、強くならないといけません。
病気が見つかり数ヵ月で、お母さんが、みるみる弱って、痩せていきます。
「とても、たちが悪い病気です。現在の医学では…」
お医者様も手を焼いているようです。
お父さんと私は、毎日の様に、病室に通いました。
ある日、私がひとりの時、お母さんから、鍵を渡されました。
「桜は、今まで二度、お父さんに助けていただきました」
私が、小さかった頃、人見知りがひどくて、お母さん以外とは口をきかなかったと聞いています。
お母さん以外に初めてお話したのが、今のお父さんでした。
私と、とても楽しそうにお喋りするお父さんの姿を見て、お母さんは、お父さんに好感を持ったらしいです。
「家族以外で、初めて心を開いた事、それからもう一度、あなたは、お父さんに救われています。あなたが、二十歳になるまで、黙っているつもりでしたが、お母さんの命は、それまで、保ちそうもありません」
お父さんとお母さんが、一本づつ持っていると言って、私に鍵を渡しました。
「あなたの大切なものを以前、お父さんがあなたの部屋のワゴンに閉じ込めました。大切なものは、鍵を使えば、桜の元に戻ります。鍵を使えば、お父さんの事を嫌いになるかもしれません。でもね、お父さんは、あなたの事を大切に思ってそうしたの。これだけは忘れないで」
それからしばらく。
お母さんは、逝ってしまいました。
それからしばらく。
私は、泣いてばかりで、鍵の事は、忘れていました。
夜中にひとりで泣いていたお父さんの姿を見て、私よりも悲しんでいる人の存在を見つけました。
私が、しっかりして、お父さんを支えないといけません。
お父さんは、私に、唯一残された大切な存在だから。
その時、私は、お母さんから預かった鍵を思い出しました。
使えば、大切な存在のお父さんを嫌いになるかもしれない鍵。
「そんな事あるわけない」
私は、つぶやき、ワゴンを見続けていました。
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