そよ風

ううん。暇だ。そして、眠い。


「香車」の場所は盤の隅っこ。さっきから一歩も動いていない。

東軍の僕の目の前の「歩」の女子生徒は赤い「と」をこちらに向けて、さっきから舟をこいでいる。


そよ風そよそよ。


3月の晴天の下は気持ちがよすぎるのだ。給食の後でもある。

眠い。


まあ、でも予想できたことではあった。

隣に座ったRPGの言い出しっぺの「桂馬」の八木が声をかけてきた。


「な。鼎」

「あ?」

「副学級委員長。お前、今、寝てたろ」

「寝てねえよ」

「寝てた」

「寝てねえよ。まだ」

「だよな。そんな感じ」


RPGで僕は「香車」になり切っているが、言われれば動くけれど何も言われなければ動けない。主にこの時間働いているのは、各々審判台と監視台に乗った将棋部の酒井と神田だけだ。


ていうか、ん?あれ禁則じゃねえか?


「おい!神田!それ、だめ!二歩!同じ列に二つ「歩」は打てない!」


あはは。大丈夫か?将棋部。


「鼎、お前、詳しいな」

「え?八木、やったことねえの?将棋」

「うん」

「ゲームは詳しいのに」

「こういうゲームじゃねえ」

「そっか」

「それより、お前気づいてる?」

「何を?」

「さっきからちらちらお前のこと見てんだよ、椎名さん」

「は?」

「俺を見てるのかと思ったら違った。残念」


椎名さんは、僕たち東軍の「王将」だった。

「銀将」の女子生徒越しに椎名さんの方を窺うと、あ、大きな目が僕を見てた。そして、すぐ目線を外した。


え?


「な」

「ううん」

「どうするよ」

「ううん。あ、お前、呼ばれてる。「桂馬」はお前だ」

「どう動くんだっけ」

「前前、左」

「変な動き」

「それが「桂馬」だ」

「行ってきまあす」

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